第062話 若返り
「マジかよ」
若返りは誰もが求めてやまないが、手に入れられない物だ。目の前の巨大な黄金リンゴ、もとい世界樹の実はそれを実現できるという。
「そうよ、世界中の誰にとっても垂涎物の代物よ」
「今回のお礼がこの世界樹の実ってことでいいのか?」
どや顔で答えるリンネの説明を受けてドライアドに尋ねる。
「うん、貰ってくれる?僕とご主人様のこ・ど・も♪」
「んなわけあるか!!」
俺の質問にふざけたように答えるドライアドを一蹴。
全く都度都度ふざけやがって。
「えぇ~!!あながち間違っていないと思うんだけどなぁ」
「どこがだよ!!」
「注がれたおかげで実らせられたんだよ?もう立派な子供じゃないか」
「治療しただけだろうが!!」
ドライアドが不満そうな声をあげて理論を展開するが、確かに客観的に見ればそう取れなくはない。
しかし、注いだ結果実をつけられるようになったのかもしれないが、それは受精したんじゃなくて、単純に治療で体調がよくなったからだろうが。
勝手に子供にするな。
「そ、そうよ!!ケンゴの子供は私が生むんだから!!」
「え?」
「え?」
ドライアドに危機感をもったのか、なぜかリンネも会話に割って入ってきて、俺とドライアドは間抜けな顔をしてリンネの方を向いた。
「あ、違うのよ。今のは言葉の綾ってやつだから。そういう意味じゃないんだからね!!」
俺たちに見られたリンネは必死に手を振りながら否定する。
もうとにかく可愛い。
「こ、これは可愛いね!!」
「っだっろー。アドもわかってるじゃん」
リンネの可愛さを理解したドライアドを俺は気安くアドと呼んで肩を組んだ。
「アド?」
「ドライアドって長いから短くしてみた」
「アド……アド……いいね。これからはアドって呼んでよ」
「了解」
アドという呼び方が気に入ったのか、しばらくアドと繰り返した後、ニッコリ笑って俺を見上げる。
こんな無邪気な笑顔もできるんじゃないか。
こっちのほういいぞ。
普段の笑顔は胡散臭いからな。
「あんたたち!!私を放置するのやめなさいよね!!」
「ごめんごめん」「悪い」
リンネは自分が生む発言の言い訳の言葉を無視されたのでぷりぷりと怒った。俺たちは苦笑しながら謝った。
「それはともかくこの実はどうするか……食べるか?」
俺はドライアドから離れ、世界樹の実に近づいて手を添える。
せっかく頑張って今の体形になって、リンネという彼女と付き合うことになった俺としては、彼女に合わせて若くなった方がいいかと思うが……。
「ケンゴは食べたいの?」
「その方がリンネと釣り合いが取れるし、寿命のこともあるから食べた方が良いだろ」
リンネが俺の顔色から察したのか、俺に確認するので考えを答えた。
「私……その……」
「なんだ?どうしたんだ?」
「今のあなたの顔……好きよ……」
リンネが突然頬を朱に染めて言い淀んだと思ったら、唐突な告白だった。
「なんだって!?」
俺はあまりの衝撃に眼が飛び出しそうなほど驚愕の表情をしていたと思う。
「ちょっとよ、ほんのちょっとだけなんだからね!!若いケンゴもいいのかもしれないけど、今の顔が見れなくなるのは寂しいわ」
「ごめん、可愛すぎて生きてるのが辛い」
突然素直な事をいうリンネが可愛すぎて、俺は四つん這いになって胸の苦しみを味わっている。
俺のこんな顔が好きだなんて。
リンネの気持ちが嬉しすぎて心が苦しい。
「な、なに言ってんのよ!!そ、それでどうするの?……ケンゴが食べたいなら食べてもいいわよ?」
「何言ってんだ?リンネが好いてくれる今の顔の方が良いに決まってるだろ?」
申し訳なさそうに言うリンネに、俺は立ち上がって頭を撫でながら、彼女を意見を思いきり肯定するような笑みを浮かべて返事をした。
「いいの……?」
目を潤ませながら上目遣いするリンネ。
破壊力が超古代兵器エクスターラを上回っていた。
「もちろんだ。この実は倉庫にしまっておこう」
「ありがと」
俺はリンネをそっと抱きしめ、目をつぶるリンネと俺の顔の距離が徐々にゼロになっていく。そしてあと少しでゼロになる、その瞬間に、
「あのさ、盛り上がってるところ悪いんだけど、あの実にそこまでの力はないよ?」
と、俺たちの顔の真横からアドがひょこっと頭を出して指摘した。
「「ひゃぁああああああああああああああああああああああああ!?」」
俺たちは驚きで抱き合ったまま大声で叫んで固まってしまう。
「私って回復し始めたばかりなわけで、そんな状態では万全な実なんてつけられないのよ。せいぜい老化が遅くなる程度だと思うよ。治癒能力についても欠損までは治らないかな。これでも本調子じゃないのに無理したんだからね」
なるほどな。万全な状態じゃないから、その実も万全じゃないということか。
でもそう考えると、今の姿のまま長いこと生きることができるってことじゃないか?それって今の状況じゃむしろ最高の結果を生むじゃないか!!
「それならよかった。これを食えば、今の姿でリンネと長く一緒にいれるんだろ」
「そ、そうね。私の方が長く生きるのは確実だったもの。ケンゴだけ老いていくのを見なくてよさそうね」
アドの説明を聞いた後、二人とも抱き合ったまま顔を見合わせて笑いあう。
「末永く俺と一緒にいてくれよな」
「はん、ケンゴは私がいないとだめだからね。これからもずっと一緒にいてあげるわ」
俺が目いっぱい微笑みかけると、リンネは不敵に鼻で笑って答えた。
そして再び俺達の影が近づき……。
「はぁ……ぼくがいるの忘れてない?」
しかし、隣からじとーっとした目で睨んでいる気配を感じた。
「い、いや忘れてないぞ」
「そ、そうよ」
俺とリンネはお互いさっと距離をとり、明後日の方向を向いて誤魔化す。
実際完全に忘れてたけど。
「ホントにぃ?まぁいいや。これでお礼は済んだよ。今回はホントに助かったよ。ありがとね、ご主人様」
「いや、気にするな」
疑わしいものをみるような視線を送ってくるが、さっと気持ちを切り替えて本題に戻った。
今回はただ毎日セックスしていただけだ。そんなことでお礼を言われても正直困る。
「私はまだ回復しきってないから、またしばらく眠りにつくね。んじゃ、たまに濃いーのよろしくね」
「それはリンネと相談だな」
病みつきになったのか、手を上げウインクして俺の体液をねだるアドに、俺はリンネを見ながらニヤリと笑って答えた。
「~~!?」
「それじゃあ、またね~」
そのやり取りに赤面して俯くリンネを尻目に、アドは昨日の夜と同じように燐光を残しながら溶けて消えた。
全く……騒がしい奴だったな。
俺たちが城の与えられた個室へと戻ると、
「にゃーん(うまうま)」
イナホが大量の料理を食べてご満悦の表情を浮かべていた。
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