第061話 世界樹の実

 翌朝、2人で世界樹の麓に向かった。イナホは美味しいものがあるわけじゃないと知るや、城でのんびりしてるといって残った。


「おーい、来たぞぉ」


 俺が呼びかけると、目の前に緑色の燐光が集まってきて徐々に人の形を成し、昨日見た緑色の少女として顕現した。


「ご主人様、いらっしゃい」

「ああ、それで?何をくれるんだ?」

「早い男は女に好かれないよ?」


 俺が急かすように言うと、ドライアドは大人びた表情をしてそんなことを宣う。


 別にそんなこと心配されなくても……。


「リンネに好かれてるからいいんだよ。それに今は数も打てるからな」


 数は魔導ナノマシンのおかげでいくらでもいけるぜ!!


「ふ、ふん!!好きなんかじゃないわよ!!」

「こんなこと言ってるけど?」


 リンネが腕を組んでそっぽを向く態度を見た後、ドライアドは俺に視線を移す。


「全部照れ隠しなんだ。可愛いだろ?」

「へぇ、確かに可愛いね!!」


 俺がニヤリと笑ってドライアドを見ると、ドライアドも口端を吊り上げて同じように笑みを浮かべた。


 うんうん、リンネが可愛いのが分かるなんて、お前は中々話の分かるやつじゃないか。


「あんたたち、うるさいわね!!さっさと話しを進めなさいよ!!」


 俺達がニヤニヤしてると、我慢できなかったリンネがプンプンという擬音が似合う怒り方をしながら叫んだ。


「そうだな。それで?」

「うんと、ちょっと待ってね!!えい!!」


 俺が促すと、ドライアドは指先に力を集めるような仕草をして、それを振り下ろした。


 すると、頭上から小さな光り輝くものがゆっくり落ちてくるのが分かった。


「あ、あれは!?」

「な、なんだ?」


 黄金のそれを見たリンネのただならぬ反応を見て、俺も慌てて尋ねる。


「あれは、世界樹の実。生きてる間に見ることができるなんて!!」

「世界樹の実……なんかすごそうだな」


 世界樹の実確かに凄そうだけど、俺には凄さが分からないぞ?


「凄いなんてもんじゃないわよ。あれは千年1度世界樹が付けると言われている実よ」

「ほほう、それは凄そうだな。いやそれにしても……」


 千年に1個か、希少価値としては物凄いんだろうけど、いや、そんなことよりもあの実、どんどんでかくなってきてないか?


「凄いなんてももんじゃないわ。あらゆる病気やけがをいやし、欠損さえ治すと言われているわよ」

「いや、そんなことはいいから……」


 明らかにデカさを増しながら落ちてくる実に、自慢げに語って気づかないリンネを止めようとする。


「そんなことって何よ。よく聞きなさい!!世界樹の実の最たる効果は「ここはヤバい!!いいから離れるぞ!!」」

「キャッ」


 しかし、聞き入れそうにないので、俺はリンネの演説を遮ってサッと抱き上げると、リンネが可愛らしい悲鳴をあげる。


 今はそんなことに構ってる暇はないんだよ!!


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 俺は力の限りその場から離れるために必死に走って走った。


―ズズーンッ


 後ろを振り返ると、すさまじい音を立てて地面に落下した巨大な金色のリンゴのような果実が鎮座していた。


 数瞬後に突風が辺りを吹き抜ける。あたりの草をバサバサと揺らし、俺はインフィレーネで全員を覆って風から身を守った。


 実のデカさは軽く高さ100メートルくらいはありそうだ。


「はぁ……はぁ……てめぇ!!殺す気か!!」

「あはは、ごめんごめん。大きさを忘れてたんだよ。君たち小さいからね」


 フワフワと浮かびながら俺たちについてきたドライアドに、息も絶え絶えながら文句をいいに詰め寄ると、ひょうひょうとした態度で彼女は答えた。


 なんだその態度はめちゃくちゃイライラするな!!


「ふざけんなよ!!危うく死ぬところだ!!」

「ごめんって言ってるじゃない。そうだなぁ、謝罪の印に体で払うよ?」


 俺の剣幕に、ドライアドは全然悪びれもせずに謝罪をした上に、体でしなを作って誘惑しようとしてくる。


「いらんわ!!」


 俺は鬼の形相で突っ込みを入れた。


「リンネ、大丈夫か?」

「ええ、それにしても世界樹の実があんなに大きかったなんて思わなかったわ。……ありがと」


 俺はそんなドライアドを放って、リンネに近づき、無事を確認する。


 問題ないようだ。


「どういたしまして。いやぁ、葉っぱがあれだけデカいんだから実もデカくて当然だろうに」

「ざっくりとした言い伝えしかないし、見たことないんだからしょうがないでしょ!!」

「そっか。そうだな。それで?あの世界樹の実の最も有名な効能ってなんだ?」


 そんなこともあるかと思い、リンネの叫びに同意すると、聞きそびれた効能について尋ねた。


「それは………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………若返りよ」


 大分もったいぶった後、リンネの口から衝撃の効能が言い渡された。

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