世界樹の異変と無限の叡智

第053話 入り口

 盗賊の襲撃から5日、ようやくエルフの国の入り口が見えてきた。前方が見渡す限り緑で、しかもその高さが南の大森林の比ではない。一本一本がかなり巨大な木であることが窺えた。


 俺が出した馬車は普通の馬車の2~3倍速くらいで走っているので、そこそこ長い距離があったと思う。


「ほぅ。あれがエルフの国の入り口か」

「そうよ」


 俺の呟きにリンネが端的に答える。


「あの森の入り口に関所があって簡単なチェックがあるわ」


 しばらく進むと、リンネの言葉通りに遠くに関所のような壁が見えてきた。


「あれがエルフの国の国境の砦フォレストバーンね。エルフの森の奥にそびえる世界樹の枝を使って作られたと聞いてるわ。木材なのに火にも強くて落とすのは難しいらしいわね」

「全く攻め込むつもりはないけどな」


 しかし、突如としてエルフらしき集団に取り囲まれてしまった。


 やはりエルフ全員が超絶なイケメンだらけだ。

 俺の劣等感を刺激する。


「止まれぇ!!」


 エルフの一人が怒号を上げて馬車を停めさせる。ゴーレム馬は相手を刺激しないように停止した。


「な、なんなんだ!?この馬車は……いや馬車でいいのか!?中にいるものはすみやかに降車せよ!!」


 30代後半くらいに見えるイケおじエルフは、困惑しながらも俺たちに馬車から降りるように指示を出す。


「うーん、まずいかな?」

「いいえ、私が出るから大丈夫よ」

「SSSランク冒険者は伊達じゃないってことか」

「まぁそういうことよ」


 俺が困った表情でつぶやくと、リンネは程よい大きさの胸を張って自信ありげに言って馬車を降りた。


「みんな、久しぶりね!!」


 そして、バーンといつものように腰に手を当ててわがままお嬢様のような態度でエルフたちの前に立ちふさがる。


「こ、これはリンネ様!!こちらはリンネ様の馬車でしたか」


 エルフたちはリンネを確認するなり平伏しだした。


 一体君はエルフの国で何をやらかしているんだ?


「そうよ。私のツレの持ち物よ」

「なんと!!そうでしたか、それとは知らず申し訳ない」

「いいのよ。こんな馬車見たこともないものね。それよりも普通にしてよね」

「はは、おっしゃる通りで。それでは失礼をば」


 リンネは慣れたようにやり取りを続ける。


「それじゃあ紹介するわね?ケンゴ降りてきなさいよ。もう大丈夫よ」

「分かった」


 リンネの言葉に返事をして俺が下りると、反応は劇的だった。


「おお!!あれが!!」

「あの方がリンネ様の伴侶!!」

「なんでもリンネ様がゾッコンらしいぞ?」

「ああ聞いたぜ。リンネ様が年頃の少女みたいだとか」

「そうですね。毎日イチャイチャしてるらしいです」

「一緒に服を買いに行ったり、肉串を食べさせあったりしてラブラブらしいぜ」

「知ってる知ってる。同じ宿の隣同士の部屋に泊まってるんだぜ?」

「なんだと!?お前どこでその情報を手に入れたんだよ?」

「あ!?そんなの教えるわけないだろ!?」

「あ、この野郎!!ずるいぞ!!」


 周りにいたエルフの兵士たちが俺たちの関係のことをある事ある事ささやきあっている。


 いつ間にここまで俺とリンネの話題が伝わってきたんだ。

 早すぎないか?いや、1か月あったと考えれば、そうとも言えないのか?


「コホンッ。俺はSランク冒険者のケンゴだ。リンネの恋人だ。よろしくな」


 俺は囁きの中で一度咳ばらいをして自己紹介しておく。


 すると、エルフたちからワァーッと歓声が上がった。


「おい聞いたか今の?」

「聞いた聞いた。恋人だって明言してたぜ?しかもで」

「流石リンネ様の恋人は違うな?」

「ああ、カッコよすぎるな」

「それな!あのリンネ様の恋人だなんて俺は恐れ多くて名乗れねぇよ」

「マジで漢って感じでヤバいよな」

「それと聞きましたか?リンネ様でさえ見えない剣術が使えるらしいですよ?」

「知ってる。ギル何とかって奴が手も足も出ずにコテンパンにのされったてな」

「はぁ……俺剣神ケンゴ様に弟子入りしようかな」

「ばっか。お前なんかが相手にされるわけないだろ?」


 またエルフたちの間で会話が盛り上がる。


 俺は苦笑しつつ頭を掻いた。


 おい、エルフよ!!人間より強い警戒心はどこに捨ててきた?


 そういえばリンネが静かだなぁと思ってリンネの方に視線をやると、そこにはプルプル震えて俯き、何かを堪えるかのように立っている彼女がいた。


 しかし、次の瞬間、顔を上げて目を見開いたかと思うと、


「あんたたち、なんで知ってるのよぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 とリンネが悲痛な叫びをあげるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る