第11話〈道理〉

校舎の壁が破壊される。

破壊と煙の中から出てくるのは駱駝色のコートを着込んだ茶髪の男性だ。

三階から一気に落下して、強化された肉体を駆使して辺りを転がり威力を殺す。


九重花統一は上空を見上げた。

巨大な穴が開いた三階の教室から上を見上げる銀鏡小綿の姿がある。


(あぁ……じんさん、貴方は今、何処にいるのでしょうか?母は心配です、きっとじんさんも怖がっている事でしょう。泣きじゃくるじんさんを抱き締めてあげたい……)


「うっわ……眼中にも無い感じかよ、マジでへこむわ……」


傷だらけの九重花統一は刀を構える。

彼の鼓動に合わせて、刀身から灰色の炎が巻き散ると、それは髑髏の様な表情を浮かべて銀鏡小綿へと向けて飛んでいく。


銀鏡小綿は、右手に展開されたロングバレルの結晶銃を灰色の炎に標準を合わせて射出。

弾丸とは言い難いエネルギーの塊が灰色の炎を打ち抜いて、衰えぬ威力のまま九重花統一に向かう。


「うっッ、ぎ、ひぃ~……やべぇ、たまんねぇよ。帰りてぇ……」


泣きべそをかき出す九重花統一。

銀鏡小綿は空を見上げたまま物思いに耽る。


(人探しと言えば、詩游さんが適していた筈ですね、山陰に同行させましょうか。では、まずはあさがお寮へと向かいましょう)


三階から飛んで落下する銀鏡小綿は背中に生えた結晶の羽からエネルギーを打ち出して落下速度を相殺させた。

そして、九重花統一を通り過ぎる。


「……はぁ、あのさぁ。其処まで無視されんの、俺もけっこー悲しいんですけど」


転生者の意志が残る刀〈灰燈灼〉の柄を強く握り締めると、世界が一変した。

転生者は、転生術式と呼ばれる特殊な術式を扱う。

その術式の中には、〈道理ことわり〉と呼ばれる転生者の世界、つまりは前世をこの現世に転生させる術式を持つ。


そして、九重花統一が使役した道理は、一定の人間を取り込む事が可能であり、一度道理に囚われれば、転生者本人の意志が無ければ出る事は許されない。

その道理は、灰色の更地にか細く燃える火が花畑の様に散っている。


「取り合えず、捕えさせて貰ったわ。最低でも、あと十分は足止めさせてもらうからよ。何もしなければ、俺は何もしない、つか、何もしないでくれ、マジで面倒だからよ」


「――――それよりもより早く終わる事が出来ますが……」


銀鏡小綿は其処で初めて九重花統一の方に顔を向ける。

迸る明確な殺意、それを受けた九重花統一はヤバイと肌で体感した。


「実践しましょうか?」


銀鏡小綿が自らの術式を解いて、右手と左手の指を絡め出した。


「……あー、勘弁してくれよ」


九重花統一は泣きそうな声で言った。

銀鏡小綿もまた転生者、道理を扱う事が出来るのだ。



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