第9話〈拉致って告白〉

一方。

別荘地に到着した三人。

長峡仁衛を寝室に置いて拘束が解ける。

しかし手足には枷の様な荊が巻かれていて、身動きは出来ないでいた。

そんな中、長峡の上に跨る九重花志鶴は長峡仁衛に伺う。


「仁。私の事、好き?」


彼女の言葉は単純だった。

単純故に破壊力があり、単純故に誤魔化す事は出来ない。

それをしてしまえば、九重花志鶴は長峡仁衛を許さないだろうし、それをする事は長峡仁衛自体が嫌う。

だから、長峡仁衛はその言葉の意味を聞く。

それが本当に彼女の求める答えに繋がるのか。


「え、あ……なんで、そんな事……」


もしかすれば、その言葉は何か勘違いさせるものではないのか。

長峡仁衛はうろたえながらも聞く。彼女の望む答えを見つける為に。


「私は好きよ。可愛い弟の様に思って、可愛い男の様に思ってるわ」


白く、細く、滑らかで、悪戯好きな指先が、長峡仁衛の服の上を歩く。

上へ上へと上り、シャツから見える鎖骨をなぞり、首筋を擦って顎に人差し指を乗せた。彼女の指先は長峡仁衛を弄って楽しんでいるが、長峡仁衛の視線は彼女に釘付けだった。


「あの、さ……俺、俺は……」


長峡仁衛は、彼女の言葉を聞いて、真剣に答えるべきだと思った。

だが、本心を言えば彼女は激怒するかも知れない。

何故ならば、長峡仁衛が馳せる恋心は一つではなかったから。


「いいのよ、仁。好きとでも、嫌いとでも、選ぶのは貴方なんだから」


くすりと笑う九重花志鶴。

そしてどの様な選択をしても、それを尊重すると余裕さを見せる。


(もっとも、嫌いと言ったら……んふ、ありえないわ)


万が一、最悪の答えが出た場合の事を想定して、それは邪念だと首を振る。

そう、ありえない、長年過ごして来た故に、その答えは絶対にありえないと信じている。

長峡仁衛は、彼女の言葉に頷いて、ならば、と高をくくった様子だ。


「……あぁ、分かったよ、姉弟子、俺は………俺は」


心臓が高鳴る。

この答えは果たして正解なのか。

いや、考えるべきではない。

九重花志鶴が長峡仁衛の答えが全てなのだと真言したのだ。

ならば、後は彼がどの様な言葉を発しても、其処に責任は生まれない。

だから意を決して答える。


「……姉弟子の事が好きだ」


九重花志鶴の目を見て、逃げることなく。

己の言葉をかたちにして、正面から向き合って答えた。

言葉は彼女の耳に入り、脳で理解させ、心臓を躍らせた。

当たり前である、だが、改めてそう言われると嬉しい限りだ。


「そう、まあ、そうだと思ってたわ。だって私、魅力的ですもの」


自信満々に言う。

絶対断られないと思ったが、それでも何処か安堵を覚えた。

他の誰でもない自分を選んだ。それが誇らしいと思う反面。

なんだか正当過ぎてつまらない、とそう思う彼女の心の内もあった。

だが、その考えは次の言葉で変わる。


「あと、ここに居ないから言えるけど」


前提を加える様に長峡仁衛は口を開く。

それがなんであるのか、九重花志鶴は首を横に傾けた。


「?」


「小綿も好きだ、それに駒啼も」


そうして、彼の心は正直に言った。

見事な爆弾発言に、近くに居た花徳千棘は身を震わせる。



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