第4話〈単独行動〉


深夜二時。到着したのは廃墟の病院だった。

逆野事件と呼ばれる患者集団自殺を行った看護婦が働いていた場所であり、現在では施設は閉鎖されて咒界連盟の収容管理指定の土地となっている。

つい三年前の事件が行われたこの病院は多くの負の感情が詰め込まれていて、厭穢が誕生するのも時間の問題であったらしい。


「薄気味悪い場所だな……」


長峡仁衛はその病院の前に立ちながら言う。

その病院は、廃墟といえども比較的綺麗な場所だった。

月に一度、管理者が周辺を掃除したり、昼間に病院内部の清掃をしていたりしたからだろう。

医療器具や人員さえ集まれば、すぐにでも病院は経営出来そうだった。


「そうですね、では先輩。どの様に回りますか?」


病院の中は厭穢が生まれる為に半ば異界と化している。

厭穢が誕生する時、その周囲は世界と同調させる不安定な幽世状態となるのだ。


「そうだな……」


三人、正面から入り込んで、決して離れない様に、と長峡仁衛はそれを言おうとした時。

とことこと歩く夜臼ぴょんは空を上り出す。

……そう、何も無い場所に、まるで階段を上るかの様に、淡々と上り詰めたのだ。


「え、おい」


「ぴょんさん、何をするおつもりで?」


「んー……とりあえず、ぴょんさんは上から攻めるねぇ、二人は下から捜索でお願いしまーっす」


「いやいや、待ってくれ、それは流石に、単独行動は危険だ。戻ってきてくれ」


「大丈夫ですよー。私はけっこー強いんでー……それに、二人きりの方が良いかも知れないとかなんとかあるかもなんでー……」


駒啼涙の方に顔を向ける夜臼ぴょんは赤い瞳を片目だけ瞑ってウインクを行う。

それを見た駒啼涙は余計なお世話と紋様が刻まれた舌先を出した。


「先輩、あれは放っておきましょう」


「けど、いくら生まれる前の厭穢だからって、危険だ」


「そうですが……もうアレは自分の勝手で行った事です。それで死んでも自己責任ですから。先輩の責任にはなりません」


「責任なんていくらでも取るさ。ただ俺は知り合いが死んだら嫌なだけなんだよ」


そう言って空を見るがしかし、其処に夜臼ぴょんの姿は無い。

どうやら、もう病院の屋上へと向かってしまった様子だった。


「では、私たちは下から探し、上へ上ってぴょんさんと合流しましょう」


「はぁ……勝手だな、夜臼の奴」


長峡仁衛と駒啼涙は顔を見合わせて、彼女の身勝手な行動に溜息を吐く。

こうなってしまえばもう仕方がなかった。

二人一緒に病院の玄関口から侵入していった。

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