第1話〈人形の力〉
午後。
長峡仁衛の為に行われた授業が終了して休憩時間に入る。
教室から出ていく長峡仁衛はこの後どうするか考えていた矢先。
「先輩」
声のする方に顔を向ける。
黒髪に黒のセーラ服。黒の瞳を持つ少女がそこに居た。
「あ……あぁ、確か……
微かに記憶に残る彼女の情報を引き出して長峡仁衛は彼女の名前を口にする。
「はい、覚えてくれていたんですね。今日は……普段の先輩、ですね、良かったです」
まるで普段は違う性格をしているかの様な口ぶりに長峡仁衛は引っかかったが、すぐに違和感など忘れて彼女に近づく。
「そういえば先輩、あの話、覚えてますか?」
と。唐突に駒啼涙が牽制するかの様に言い出す。
あの話、と言われても、長峡仁衛には記憶がない。
「なんの話だ?」
「今週の祝日に、私と街へ繰り出すと言うお話です」
息をするかの様に駒啼涙はウソを吐く。
だがその嘘は彼女にとっては本当になりえる。
彼女の術式は端的に言えば虚構を現実に変えてしまう特殊な術式。
術式から逃れる術は、その嘘を確かめる事。
後ろから車が来ると嘘を吐けば対象者は背後を目視または車が稼働する音など確認する行動を行う事で嘘を嘘として認識する事で破る事が出来る。
今回のウソは、長峡仁衛が彼女との約束などしていないと記憶を張り巡らせれば簡単に解除出来る。
だが、長峡仁衛には他の人間とは違い、記憶喪失となっている。もしも記憶を失う前にそんな話があったのだとすれば、長峡仁衛は確かめようがない。結果、それが本当であるとして虚構が裏返ってしまう。
「そうか?悪い、覚えてない」
だが、長峡仁衛にはその言霊は通用しない。
駒啼涙も長峡仁衛に術式が作用してないのを見て不思議そうな顔を浮かべた。
(私の
考えても分からない。
それもそうだろう。駒啼涙の言霊は精神に干渉する術だ。
精神的攻撃は、鬼童五十鈴が長峡仁衛に与えた〈代替人形〉が肩代わりしている。
だから、長峡仁衛に対する術式は通用しない。
「まあ、約束したのなら、多分そうなんだろうな。今週の祝日、遊びに行くんだな?わかったよ」
(これは大変困りました……術式が効かなければどうやって先輩を………ん?)
物思いに耽っていた駒啼涙は一瞬、彼の言葉を聞き流していた。
だから再度、彼に伺う。
「先輩、今、なんと仰いましたか?」
「ん?いいよ、遊びに行こう」
拍子抜けだった。
術式を使わずとも、長峡仁衛と街へ行く約束がされたのだから。
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