第15話

そうして暇潰しに付き合わされる長峡仁衛。

行先は休憩室だった。永犬丸詩游も近くまでやって来たが、二人で話したいと永犬丸志鶴が駄々をこねたので仕方なく引き下がる事にした。


「九重花の姉御、長峡の頭けっこーデリケートなんで、余計な事は言わないで下さいよ、混乱起こすかも知れないんで」


一応念を押す永犬丸詩游。

九重花志鶴は失敬な、と永犬丸詩游を嗜める。


「あら、私がそんな不用心で空気を読まない女に見えるかしら?」


「想像以上に面白い女だから心配なんですよ……ったく。長峡、なんか気分が悪くなったらボクを呼べよ。隣の部屋にいるからな」


「あぁ、ありがとな。永犬丸」


そう言って永犬丸詩游が休憩室から出て行こうとする時「永犬丸って、貴方」「姉御には関係無いんで」なんて言葉を交わしながら永犬丸詩游は出て行く。

残された二人、長峡仁衛はベンチに座り、まったく、と言いながら九重花志鶴は自販機でジュースを購入する。

長峡仁衛はそんな九重花志鶴の後姿を見ていた。


「さて……邪魔者も居なくなった事だし……」


そう言って九重花志鶴は自販機から何かを購入する。

そしてそれを長峡仁衛に向けて差し出した。


「はい、仁。これあげるわ」


それは氷菓子だった。

この休憩室に置かれている自販機には飲料水以外にも軽食やスナック菓子、氷菓子と言った自販機も置かれている。

氷菓子はスティックタイプだった。アイスを食う為に握るスティックがむき出しになっていて、アイスの部分は紙に包まれている。

長峡仁衛は九重花から渡されるアイスを潔く受け取る。アイスのスティック部分を強く握った事を九重花は理解した瞬間。


「あ、アイスクリーム……ありがとうございまっ」


「すぃ」


思い切りアイスの部分を引っ張った。

すると、スティックの部分だけが長峡仁衛の手にだけ残り、本命のアイスは九重花志鶴が握っていた。


「……舐めても良いのよ?」


片目を瞑り、舌先を出して煽りを行う九重花志鶴。

スティックだけを握り締める長峡仁衛は、ヒラヒラとアイスの紙の部分を持って悪戯っ子の様に挑発する九重花志鶴に向けて言う。


「……あの、この場合、姉弟子の方が食い辛いんじゃ……」


そう言われて、九重花志鶴はアイスを見た。

このスティックタイプのアイスはそもそもスティックの部分を持ってアイスを食うのが定石。

それ以外の食う方法と言えば、紙を広げてスプーンでアイスの部分を掬って食べるか、直でアイスに歯を立てて食う他ない。


流石に面白い事をするのが好きな九重花志鶴でもそんなはしたない真似をする筈もなく。


「……んふ、冗談よ。はい、アイス」


にこやなか笑みを浮かべて九重花志鶴はアイスを長峡仁衛に渡した。


「処分に困るからってこれだけ渡されても……」


無理矢理渡されたアイスを長峡仁衛は受け取ると取り合えずアイスの穴にスティックを押し付ける、穴はかなり緩い為に、最初の一口を食べるときは大丈夫だろうが、中盤からは絶対に崩れるだろう。


なんとか零れずに食べれる事を祈るしか無かった。


「ふぅ……隣座るわね、よいしょ」


自分様に購入したペットボトルのカフェオレを持ったまま、九重花志鶴は長峡仁衛に座ろうとすると、背凭れに手を掛けたまま胸を張ってしまう。するとプツン、と音を鳴らして硬いモノが飛び散った。


「っ」


長峡仁衛はその円形状の代物を見て一瞬でボタンだと理解した。


(シャツのボタンが弾けたっ)


そしてそれは九重花志鶴の胸元にあったボタン。

彼女の豊満の胸によって圧迫されたシャツが耐え切れずにボタンの紐が緩んでちぎれてしまったらしい。


「あら、ボタンの紐、限界だったかしら、よいしょ……」


ボタンを取ろうとして前屈みになった時。

ぎち、と音が鳴ってスカートがズレ落ちた。


「っ!?」


黒いタイツ越し、黒い下着がくっきりと見える。

長峡仁衛は呆然と彼女の姿に釘付けだった。


(スカートのチャックが壊れッ)


九重花志鶴はスカートが落ちた事実を理解して、理解した上でボタンを拾うと、ゆっくりとスカートを上げてチャック部分を片手で掴みながら長峡仁衛の所に向かう。


「もう、失礼なスカートね。これじゃあ私が太ってるみたいじゃない……カフェオレもあげるわ」


九重花志鶴は長峡仁衛にペットボトルのカフェオレを与える。

一応は気にしている様子らしい。


「あ、ありがとうございます……」


長峡仁衛は九重花志鶴の顔をうまく見る事が出来なかった。

カフェオレを渡して、空いてしまった手を、長峡仁衛に向ける九重花志鶴。


「代わりにベルト頂戴。スカート、固定するから」


「あ……はい」


言われた通りに、長峡仁衛はベルトを外して九重花志鶴に渡す。

これで歩く時にズボンがズレてしまうが、この場合は仕方が無いだろう。


「ん、しょ、これで良いわ」


ベルトでスカートを固定した九重花志鶴。

若干、チャックが壊れる前のスカートよりも短くなっていて、太腿の奥から覗く彼女の滑らかな布地をした三角部分が、揺れ動く度に見えてしまう。


目のやり場に困るので取り合えず目を背ける。

九重花志鶴はそんな反応を見て楽しんでいる。

軽く回ってスカートをヒラヒラさせて、長峡仁衛の反応が変化しなくなるとそこでようやく長峡仁衛の隣に座るのだった。

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