第61話 逃走劇




 あの土砂降りの雨は、いつの間にやら止んでいた。分厚い灰色の雲を割って、陽光が差し込み始めている。巨大キメラの自壊が加速される点で言えば、これは朗報だ。

 一方こちらの情勢だが、ゴブリン集落跡地で敵の大将と睨み合っている際中だったり。いや、好きでこんなシチュエーションを望んだ訳では無い、飽くまで偶然の産物だ。

 ちょっと寄り道のつもりが、何故か敵の大将とひょっこり遭遇して。


 こちらが虹色の果実を収集していた現場を、しっかり見咎められてしまったと言うね。いやいや、別に火事場泥棒的に集落の棲み家には手を付けていないので、ここは見逃して欲しい。

 ダメだろうか……うん、駄目みたいだ。


「¥&$#=%#!<¥?」


 何やら詰問されている様子、ゴブリン語だろうか……ひょっとしたら、冒険スキルか何かでコミュニケーションが取れるようになるかもだけど。

 今の所は、全く理解出来ない雑音でしかない。このバーチャ世界では、外国語も割とラグタイム無しで翻訳とかもされるそうなので、言語機能のバグとかでは無い筈。

 つまりは、話し合いでの場の収拾は不可能っぽい。


 離れた場所に仁王立ちのゴブリンは、やはりこの集落の王様みたい。名前も“ゴブリンキング”だし、バリバリのレア種で間違いなし。

 豪奢な鎧を着込んでいて、手には大振りな両手剣を抜き身で抱えている。さっきまで激しい戦闘をこなしてたのか、手負いではあるみたいだけど。

 今は戦いたくないな、主目的は別にあるし。


 サブの目的である果実採集も、既に果たしてしまってるしね。集落を出たら諦めてくれるかな……何よりここで戦闘なんて、いつ他の雑魚ゴブが湧くか分かったモノじゃない。

 幸い、完全に見失った巨大キメラの行く先の追跡は、滅茶苦茶に容易である。そっとポーチに手をやって、なおも憤っている感じのゴブリン王との距離を測り。

 爆裂玉を投げつけて、この場からの逃走を図る。


 ファーもビックリしつつも、すかさずこちらの動きに追従してくれたのは流石だ。そんな訳で、ゴブリンの集落からの遁走劇とんそうげきの始まりだ、観客は一人もいないけど。

 いや、無粋な王様が誰か呼び寄せた様だ。振り返ってみると、いつの間にやら御付きの魔術師ゴブリンが湧いていた。王様の特殊能力だろうか、嫌な敵ではあるなぁ。

 逃げるから関係ないとは言え、追い付かれたら大変かも。


 岩場の上り斜面を一気に駆け上がり、念のためにと《ストーンウォール》で遮蔽物を作成する。丁度崖と岩場の間隔の狭い場所があったので、蓋をするように塞いでやって。

 時間稼ぎには良いだろう、呑気にその上から敵の動向を覗いているファーとネムに一声掛けて。再び逃走を開始する俺、これで完全に連中を撒ければ良いのだが。

 ところが目の前は、倒れた木々でアスレチック模様。


 全力疾走はちょっと無理なグランド状況、相棒達みたいに宙を飛べれば楽なんだけどな。倒れた木々もそうだけど、枝葉が壁のように立ちはだかっている。

 さっきは巨人の姿が見えていたので、斜め後ろから後を追っ掛けていたんだけど。今は完全に姿を見失っているので、そんな訳にはいかないのが辛い。

 取り敢えずは、進みやすい端っこをルート設定。



 少し進んで、タゲはもう切れたかなと後ろを振り返る余裕は出来たんだけど。何故か追手の数が増えてるんじゃね? 的なビックリ仰天な現実が視界に飛び込んで来て。

 例のゴブリンライダーが、意外な速度で迫って来てたり。


 これは完全に撒くのは無理かも知れない、ってかこの騎獣どっから出て来たんだ? 王様NMの召喚だろうか、上限が分からないのは厄介だがどうしたモノか。

 コイツに手こずっていては、追手の連中に追い付かれるのは必至だ。或いは騎獣を素早く始末すれば、逃走する時間を稼げるかも知れないけれど。

 SPも貯まっていないし、そんな器用な真似は出来そうも無し。


 手詰まり感が流れる中、倒れた木々の端っこギリギリを遁走とんそうすること数分。とうとう追手のゴブライダーの息が、背中に掛かるような距離まで迫って来た。

 これはもう仕方が無い、立ち止まって相手をするしか。


 目潰し魔法も足止め魔法も幾つか持っているが、その場凌ぎを続けてもタゲが切れないと仕方が無い。一応《風疾かぜはしり》は掛けてあるが、障害物の多い森の中では効果も不充分。

 キッパリと逃走計画は諦めて、殲滅へと移行する事に。とは言え、たんまり従者付きの王様NMとは遣り合いたくないのも事実なので。

 雑魚ゴブは、合流前に速やかに抹殺すべし。


 さっきも対戦したので、コイツとの戦い方は既に流れを決めてある。まずは騎乗しているゴブを叩き落として、大型の肉食獣の動きを単調にしてやる。

 そうすれば騎乗ゴブの厄介な統制力も発揮出来ないし、どちらからでも倒して行けばオッケーだ。なるべく騎乗ゴブにダメージが入る落とし方だと、なお良しって感じで。

 ……ってか、今気付いたけどこのライダー、やたらと豪奢じゃないか?


 騎獣の毛並みもさっきの奴より濃いし、騎乗ゴブの着ている鎧も豪奢に見える。しかも手に持つ武器は長槍で、それで突撃されたら威力は如何程かって感じ。

 ゴブリンキングの召喚したライダーだと、ひょっとしてランクが自然と上がるとか? 嫌な仕様だが、こちらの作戦に変更は無い。

 奴らの合流前に、取り敢えずこのライダーを始末するべし。


 槍の突き合いは、高所から長槍を操る相手に軍配が上がってこちらは不利。しかもチャージ気味に騎獣を操って、巧みに槍の威力を底上げする厭らしさ。

 こちらも魔法で対応して、まずは《フラッシュ》で定番の目潰しをしてやると。肉食獣も騎乗ゴブも、見事に引っ掛かって付け入る隙をさらけ出してくれた。

 そこに突っ込む、ファーとネムの飛行コンビ。


 こちらも騎乗兵には違いないが、妙に張り合わなくても良いと思う。しかしその強引なチャージで、騎乗ゴブは見事に落獣してしまった様子。

 よくやったと誉めつつも、自分は人すら乗れる巨獣の相手に手一杯。反対側に落っこちたゴブとネムは、それぞれを対戦相手と見定めた様子で互いに威嚇いかくし合っている。

 俺は強化魔法を掛けて、自分の獲物に突きを見舞って戦闘再開。


 相手の巨獣もいきなりブレスを吐くとか、何か仕様が酷い事になっている感も受ける。レア種では無いようだが、間違いなくそれに準ずるモノには違いない。

 殴り合いは一進一退の様相で、ダメージもお互い蓄積しまくる泥仕合に。何しろこっちには時間が無いと言うハンデを抱えている、その心理的な負担が意外と大きい。

 向こうは単に、回復手段を持っていないだけっぽいが。


 合間にファーの水晶玉投下が、良い感じに範囲ダメージを与えてくれている。向こうもすぐ近くで戦闘をしている様子、ここはこちらも手助けを行うべきか。

 そんな訳で《白垂飛泉槍》を敢行、周囲は途端に水浸しの酷い惨状に。巨獣は四本足なのでそれ程足場を気にしていないが、ゴブだとそうも行かないだろう。

 ネムは宙を飛んでるので、足場は全く関係ないし。


 それにしても、なかなかにタフな敵ではある。炎のブレスには驚いたが、噛み付きやかぎ爪攻撃も威力は高いので連続で喰らうと厄介だ。

 HPも普通に高いし、動きも俊敏で攻撃を避ける動作も素早くて思わず舌打ちするレベル。複合スキル技のダメージは、かなりいい線言っているとは言え。

 気を抜くと、たちまち逆転される雰囲気を漂わせている。


 そこに来て、HP半減からの大暴れとか好き勝手し放題な巨獣モンスター。何故かそれに巻き込まれて、ダメージを受けている騎乗ゴブは良いとして。

 こちらはステップを駆使して、何とか酷いダメージは受けないように必死。そうこうするうちに、こちらの目論見は敢え無く潰えた様子である。

 残念ながら、後方から王様NMゴブとその一行が到着したっぽい。


 いやいや、これは酷い……魔法使いゴブを召喚したのは見ていたが、他にも鎧を着込んだ戦士タイプが2匹も追従している。王様の側近なのか、明らかに雑魚とは違う装いだ。

 魔法使いタイプは、後方からいきなり呪文の詠唱を開始している。こちらは戦闘ダメージを被ったままだ、今攻め込まれたら非常に不味い。

 慌てて近くの倒木の下へと避難する俺、これは簡易要塞に出来そうな造りかも?


 王様NMの意味不明な怒鳴り声が、相変わらず周囲にこだましている。それに呼応するように、護衛ゴブ達がこちらへと突進して来ている様子。

 ファーとネムにも声を掛けて、同じく避難するように指示を飛ばす。行きがけの駄賃だと、瀕死の騎乗ゴブにとどめを刺してこちらへと飛び込んで来る仔竜はタフだなぁ。

 そのせいなのか、全く大暴れが止む気配のない巨獣の大暴走。


 何か、近付いたゴブ兵士達にも被害を及ぼしてますけど? それでも兵士達のタゲは、しっかり俺に向いているようで追走に余念が無い。

 倒木越しにそれを眺めていた俺だが、何とかポーションで回復は出来たし強化魔法も掛け直せた。この簡易籠城作戦は良かったな、倒木を潜って入ろうとするゴブをタコ殴りにしつつ。

 この好位置をキープしながら、敵の数を減らして行こうか。



 そんな思惑が崩れ始めたのは、王様NMゴブがこの場に到着してすぐの事。手に持つ巨大な両手剣で、無闇に暴れる騎獣を始末したかと思ったら。

 統制力を発揮して、別々の入り口からの同時突入を部下ゴブに指示したみたい。魔術師ゴブリンも炎魔法をブッ放して、周囲は割とカオス状態へと突入。

 肝心の王様ゴブリンは、自慢の大剣で邪魔な倒木を破壊に掛かっている。


 当然ながら、この簡易要塞は倒木の薄い場所はスカスカの入り放題である。ってか、これを要塞とか秘密基地と呼んでいいのは小学生までかも知れないな。

 片手剣を装備している護衛ゴブ×2匹は、それぞれ左右の隙間から挟み撃ちを仕掛ける算段らしい。慌てて両方向を指し示しているファーは可愛いが、こちらも案は考え済みだ。

 まずは片方の護衛ゴブに、風魔法の《風の茨》で束縛をプレゼント。


 次いで侵入を果たした護衛ゴブは、堂々と短槍で相手をしてやる。倒木の隙間要塞はやたらに狭いので、振り回す武器はどうにも不利ではあるし。

 そんな地の利を活かしつつ、確かコイツ等は闇魔法が苦手だったっけと思い出して。試しに《Dタッチ》を喰らわせてやると、突如の暗闇に慌てふためく戦士ゴブ。

 その隙に《四段突き》敢行で、ガッツリ敵の体力を減らしてやる。


 相手の余剰戦力の動向も気になる、王様ゴブの破壊工作は順調なようだけど。魔術師ゴブが邪魔で仕方が無い、回復魔法を持ってなさそうなのが唯一の救いだけど。

 魔法は射線が通っていないと、当てるのが途端に難しくなる。ただ相手はルーズなのか、そんな事お構いなしに攻撃魔法をブッ放して来ている。

 焦げた臭いがする戦場で、尚も興に乗った様子で呪文の詠唱を続けている。


 まるで呪文ジャンキーだな、ハイになっているのはゴブリン集団全員かも。戦闘狂な軍団なのか、それとも王様NMゴブの能力の為せる業なのか。

 怖いモノ知らずな動きは脅威だが、コスト的には全く優れていないのは見ての通り。『命とMP大事に』とは正反対の作戦、こちらも付け入る隙は大いにある感じ。

 そんな訳で1匹目の護衛ゴブを始末しつつ、倒木の奥へとお引越し。


 巨大キメラの破壊した森の道は、奥へ行く程に倒された木々の重なりが複雑になっていた。こちらが移動を果たしたとほぼ同時に、もう1匹の束縛魔法の効果が切れた模様。

 少し遅れて、王様NMゴブと魔術師ゴブのペアも道を切り開いて侵入を果たしたっぽい。そこに俺がいなくてキレてる風な王様、クレームは受け付けませんのでそのつもりで。

 家来の2匹は、大慌てでこちらを追うルートを模索している。


 今回の侵入経路は、しゃがんで入り込むのはまず無理だ。ネム程度の小柄な仔なら平気だが、人の体型だと重なって出来上がった防壁を乗り越えてくるしかない。

 むろん俺がそれを黙って見ている訳が無く、意地悪に邪魔するんだけどね? ファーも良さげな隙間を見付けて、ネムに攻撃指示を出している。

 向こうも楽しんでいるようで何より、ただし魔法には気を付けてね?


 こちらも乗り越えようとして来た護衛ゴブを叩き落とし、更にそいつが運悪くこちらに落下して来たものだから。タコ殴りにしてやって、これで護衛ゴブ2匹目も没。

 そうこうしている内に、MP切れしていた魔術師ゴブリンをネムが倒してしまっていた様子。薄っぺらな装備で、何故か倒木を登ろうとしていたらしく。

 そこを隙間から、相棒コンビに狙い撃ちされたっぽい。


 完全に取り残されて荒ぶっている王様NMゴブ、何故かハイパー化に及んでますけど。部下たちを倒されて怒り心頭な様子、倒木の向こうで勝手に暴れ回っている。

 それに付き合う謂れも無いので、こちらは隙間から闇魔法で狙撃の練習など。《バグB》や《Dタッチ》が良く効く、でもこのまま完封はちょっと無理かも。

 何しろMPが持ちそうにない、いつかは対面で接近戦を挑まないと。


 マナポがぶ飲み案もあるにはあるけど、レア種相手にめ殺しみたいな汚い手段は極力避けたい。取り敢えず敵のハイパー化が治まるのを待ちつつ、強化や回復に励んでいると。

 ファーが何やらごそごそやっている、どうやら自身の観戦席を倒木の葉っぱで作り上げている様子。意味があるのかないのか、妖精のやる事は良く分からないな。

 それでも彼女の、はしゃいだ視線の意味は良く分かる。


 ファーが指差す先には、王様NMゴブの被っている煌びやかな王冠が窺える。竜族ほどでは無いけれど、ファーも光物が好きでたまらないらしく。

 特に王冠はお気に入りらしく、俺にアレが欲しいとおねだり模様。いや、ドロップしたら考えても良いけど、ちょっとお嬢さん気が早過ぎませんかね?

 第一、 討伐対象をドロップ品扱いするのも失礼な話ではある。


 しかしまぁ、冒険者が命を懸けて強敵に挑むのはそういった旨みがあっての話だからねぇ。だから相棒の物欲センサーを悪くは言えない、逞しく生きて行く上での必然だとも思う。

 そんな訳で、ようやくハイパー化が止まった王様NMに向けて、倒木の上からのダイブ気味の《落とし突き》をお見舞い。度胸一発の大技だが、綺麗に決まってまずは先制打。

 しかしお返しの大剣の振り回しは、物凄くダイナミック。


 当たると洒落にならないダメージを喰らうんだろうな、凄いパワーなのは間違いないけど。さっきうかがっていた限りでは、魔法も使うっぽいので油断ならない。

 改めて対峙した、もはや孤立奮闘となった王様NMゴブだけど。煌びやかな装備とは裏腹に、使って来るスキルは汚い手段ばかりで嫌になる。

 光魔法の目潰しとか、大剣のスタン技とか。


 このコンボを喰らってしまい、いきなりHP半減となってしまった。大慌ての相棒陣営、ネムが宙から割って入って、ファーがポーション瓶を用意してくれて。

 まだまだ2日目の3人体制だけど、なかなかにコンビプレイはこなれて来た感があるな。一騎となってしまった向こうには悪いけど、ここは仲間の気遣いに乗っかる事にしてと。

 さて反撃だ、まずは闇魔法で気を散らしておこうか。


 お気に入りの《Dタッチ》は相変わらず上々、それに加えて初使用の《ダークジャッジ》は驚きの有効性を示してくれた。格上なので効き辛いと思っていたが、これも属性効果だろうか。

 何故か知らないけど、見当違いの方向へと攻撃を始める王様ゴブ。何だかきこりチックだけど、笑ってこの好機をふいになどしたくは無いので。

 貯まったSPで、怒涛どとうの攻撃を仕掛ける事に。


 相棒のネムもえげつないな、敵が反撃しないとなると顔面狙いとか嬉々として実行してる。やんちゃ者なのは間違い無い、ダメージもそこそこに与えてくれてるし。

 ファーの面倒見の良さのお陰で、変な仔には育たないと信じたいけど。何というかゲーム内で早々に従者を得るってのは、結構なステータスらしい。

 確かに便利な子たちだが、何より可愛いってのが一番良い。


 とにかく《四段突き》からの《白垂飛泉槍》で、敵のHPは一気に減って行った。さらに体勢を崩した相手へと、容赦のない相棒込みの畳み掛け。

 向こうも無理な体勢から、剣を振るったり頭突きを繰り出したり悪足掻わるあがきが酷い。残りHPはあと3割ほどだが、負ける事などちっとも考えていない王様根性とでも言おうか。

 その後の一押して王様ゴブの肌が赤茶色に変化、どうやら2度目のハイパー化らしく。


 こうなるともう手が付けられない、馬鹿でかい大剣をまるで包丁の様に軽々と振り回すのは止めて欲しい。危うく撃墜されそうになったネムを倒木の奥へと下げて、何とか囮役の俺が王様の気を引き付けてやって。

 削れた木の破片が飛び散る中、倒木の中を命懸けの鬼ごっこは続く。身軽な装備で良かった、何とか追撃を振り切りつつ倒木に潜り込んだり飛び越えたり。

 相手がつっかえたら、すかさず《バグB》を撃ち込んだり。


 気が付いたら、敵はスタミナ切れを起こしていた……いや、こっちのスタミナもかなり危ないけどね? この後の予定が詰まっているので、呑気にランチ時間は取れないけど。

 その後の予定の為にも、邪魔なお客にはそろそろ退場を願おうか。完全にバテて動きが鈍った王様NMゴブに向け、再び登った倒木から飛び降り様の《落とし突き》!

 それがほぼ止めになった模様、厄介な団体様はこれで全て退場の流れに。




 やれやれ、時間が無い時の団体様のレア種ほど性質が悪いモノは無いな。その分ドロップは良かったけど、お蔭で完全に巨大キメラを見失ってしまった。

 今では地を揺るがす振動も、木々の倒れる音も聞こえて来ない。相当離されてしまった様子、少なくとも時間にしたら5~10分以上の距離かなぁ。

 手短にスタミナ補充を行ったら、すぐに追い掛けないと。


 ちなみに貰えたスキルPは4P、ゴブリンキングは強者の部類に入っていたらしい。部下の人数を考慮に入れたら、少しだけ物足りない気もするけど。

 その分、部下のドロップにも見慣れないアイテムが混じっていて、『戦士の紋章』とか『魔術師の証』『騎乗者の鞭』とか良く分からない初見のモノばかり。

 革製の鞍とかも混じってて、どう使って良いのやら。


 まさかネムが一気に成長する訳でも無し、ちょっと憧れはあるけどね? ファーの騎乗の姿は微笑ましいし羨ましいが、それに取って代わろうとか大人げない事は考えてはいない。

 部下ゴブのドロップで目ぼしいのは、後は魔石(小)×2個くらいだろうか。


 肝心の王様ゴブのドロップだけど、豪奢ごうしゃな王冠や金のインゴットなど換金性の高いモノが多い。他には定番の光の水晶玉×6とか魔石(中)とか光の術書とか。

 武器ではマンスラッシャーと言う名前の大剣が、防具は鈍重の鎧と言うのがドロップ。大剣は対人に効果プラスとか、ちょっと怖い付加性能だがダメージそのものは高い。

 防具は見た目は豪華で防御力も高いが、名前の通りかなり重そうだ。


 2つとも使う予定はまるっきり無いから、売りリストの筆頭になってしまうかな。あと特筆すべき報酬は『従者の呼び鈴』と言う召喚用アイテム位のモノか。

 これは何を呼び出すか不明だが、従者持ちだった王様らしいドロップ品かも。ちなみに王冠は、目敏くこれを発見したファーに強請ねだられて献上済みだったりする。

 そのファーは、今はネムと一緒に果物と水飴でスタミナ回復中。



 ドロップ品をすべて確定して、鞄の整理とこちらもスタミナ回復兼休憩を少々。今回の戦闘の経験値で、またもやレベルが上がりそうなのは置いといて。

 巨大キメラの動向に、気が急いて仕方が無い……あの化け物を野に放った責任の一端は、俺に無いとも言えないのが辛い所である。

 召喚元のアイテム、提供しちゃったしなぁ……。





 ――アレがヤンチャをする前に、何とか回収したいけど無理かなぁ!?







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