第59話 ログイン10日目




 ログインしてみると、こっちのバーチャ世界も雨だった。リンクしている訳では無いだろうが、ちょっと面白い現象だ。それよりこんな寂しい場所でのログインは、少し落ち着かない。

 昨日ログアウトした場所がここなので、まぁ当然ではあるのだけれど。一応洞窟内なので、いきなり雨に濡れる事態は避けれてはいるって感じ。

 そして恒例のファーとネムの熱烈歓迎、それには別の理由があるっポイ。


 まぁ、今日が特別と記すのは違和感がある、相棒達の愛情表現ではあるけれど。それでもいつもと違うのは、魔除けの香炉の範囲外に居据わる超強力モンスターの気配だろう。

 やっぱりまだいたのね、昨日のログアウトは大変だったのだ。


 最後に絡んで来たあのボーンキメラの所有者、どうやらそれが精霊ラマウカーンの言っていたよどみの正体だったらしくて。昨日のログアウト時間寸前に捕まってしまい、ソイツが俺に賠償責任を突き付けて来たのだ。

 果たしてその正体は、どうやら人型の妖魔の類いらしく。ラマウカーンとは正反対の、魔族側の高位的な存在っぽい。それは彼女の名前の色を見てもわかる、何と真っ赤である。

 つまりはユニオンボス、恐らく今の俺が10人いても倒せない相手だ。


 容姿だけ見れば、割と幼い感じの女の子なんだけどね。衣装が派手なゴスロリ魔女風なのと、醸し出す闇色の圧との落差がとにかく凄い。こんなのに傍をうろつかれていたら、さすがに香炉の安全圏内にいても落ち着いてなどいられないだろう。

 ファーとネムには悪い事をしたな、とにかく昨日はこっちも焦っていたので。バイショーだ何だと喚く相手に、分かったからインし直すまで待ってくれとの懇願に。

 案外と素直に応じてくれて、今のこの状況に至ると言う。


「待ちクタビレたぞっ、私のキメラを壊した冒険者……さあっ、悪いコトしたんだから、さっさとアイテム差し出してベンショーしろっ!」

「えっと、ちょっと待ってくれ……状況と荷物の整理、それから色々とチェックの時間をくれないかな?」

「はやクしろ、こっちはズっと待ってるってのにっ……荷物にロクなモノが無かったら、代わりにそこの仔ドラゴンを貰うからなっ!?」


 それはこちらも嫌なので、相手の機嫌を損ねないようにしないとね。取り敢えずは魔法の香炉の結界を解いて、荷物からお煎餅を取り出して相手に振る舞う。

 ものすごく警戒していたファーと仔竜も、自分たちにも何かくれアピールを始めたので。同じくお煎餅を手渡して、同時にこちらは荷物のチェックなど。

 何しろ昨日は、慌てていたのでレア種2連戦のドロップも曖昧だったのだ。


 昨日のボーンキメラのドロップ報酬に、魔力の大骨とか魔力の核とか聞き慣れない素材が並んでいる。これを彼女に返せば、ひょっとして納得してくれるかも知れない。

 その恐らくは“よどみ”の大元であるユニオンボスの少女、名前をミフェルと言うらしい。子供っぽい容姿なのは話したけど、しかしどんだけ強力なレア種の湧くエリアなんだ、ここ?

 運営側は、よっぽどこの西ルートでのクリアはさせたくないらしい。


 それでもこうして話の通じる相手だし、断固とした意地悪さは感じないけど。ファーよりよっぽど行儀良くお菓子を食べている妖魔ちゃん、それとなく話を向けてみると。

 やはり闇キメラの創造主らしく、この辺境には骨系の材料を求めてやって来たらしい。種族は妖魔でもかなり上級らしいが、詳しくは話してくれなかった。

 だけど、召喚系のスキルを持っている事だけは判明した。


 ふむふむ、その媒体に骨だとか魔物の血だとかが必要らしい。それなら鞄の中に豊富に入っているし、取り引きには何ら問題は無い筈だ。

 あるとすれば、向こうがちゃんとその商談に応じてくれるかどうかだけ。


 話す限りは素直な性格みたいだし、その強大な力がこちらに向く可能性は少ないかも。ラマウカーンのクエ依頼は、この娘をこの森から遠ざけるって内容だったけど。

 何とかなるのかな、とにかく丸め込むしかないかな……戦うのは論外だ、相手が後衛仕様とは言え勝てるイメージがまるで湧かない。

 恐らくこの娘も、戦闘中に配下を増やす術を持ってる筈だし。


 つまりどうやっても勝つのは無理、昨日のボーンキメラ級を再召喚されるだけでもかなり辛い。見た目は割と可愛いのだが、恐らく想像もつかない凶悪なスキルを幾つも持っている筈。

 とにかく、ログイン恒例のチェックを続けよう……今日もボーナス系のアイテム配布は無し、メールは京悟と美樹也と誠也から1通ずつ来ていた。

 他愛のない内容なので、返信は後回しでいいや。それより俺って、いつの間にやらレベルが20に達していたみたいでビックリ。

 強くなったのかなぁ、実感は湧かないけど。



 名前:ヤスケ   初心者Lv20   種族:ミックスB


筋力 47(+9) 体力 48     HP 230(+23)

器用 43(+4) 敏捷 49(+4) MP 173

知力 32     精神 30(+2) SP 140

幸運 21(+10)魅力 7      スタミナ**


職業(2):『新米冒険者』Lv20

武器(6):《乱撃》《撃ち上げ花火》《四段突き》《Pハンマー》《貫き矢》

      《白垂飛泉槍》

補正(5):《投擲威力20%up》《防御力10%up》《集中》《》《》

冒険(5):『野生』『水中適正』『』『』『』

武器:弓矢4P《貫き矢》

  :短槍20P《落とし突き》《捻り突き》《二段突き》《四段突き》

        《白垂飛泉槍》

  :両手棍16P《ブン回し》《撃ち上げ花火》《Pハンマー》《乱撃》

  :盾5P《防御力10%up》

  :投擲6P《投擲威力20%up》

魔法:『闇』17P《Dタッチ》《バグB》《Bタッチ》《影纏い》

  :『風』17P《風の茨》《風属性付与》《風疾く》《双翼撃》

  :『光』12P《フラッシュ》《ライト》《ライトアロー》

  :『水』21P《清き水》《水中呼吸》《Pヒール》《マナプール》

         《ヒール》

  :『炎』4P《キャノンB》

  :『雷』4P《スパーク》

  :『土』5P《ストーンウォール》

  :『氷』4P《魔女の略奪》

合成:『木工』3、1P

種族:『ミックスB+』(職業+1、幸運+4、器用+2、魅力-2、全耐性+20%up)

称号:『蝶舞』『猪突』『竜宮の遣い』

モネー:309、500

スキルP:19



 ***『新米冒険者』ヤスケ 装備一覧***


武器 :竜宮の短槍(12)  攻+15、精神+3

武器2:野蛮な大鎚(7)  攻+17、筋力+3

予備 :狩人の弓(10)  攻+12、命中率+35%up

盾  :野蛮な手甲(7)  防+8、筋力+3

頭  :竜宮の兜(10)  防+10、精神+3

上着 :飛竜のベスト(15)  防+15、耐風+25%up

鎧  :護衛の胸当て(6)  防+6、器用+2

下着 :クールな下着(5)  防+1、耐寒+20%up

アクセ:野生の御守り(4)  防+2、筋力+6、敏捷+2

指輪1:清水の指輪(4)  耐毒30%up、ヒール効果20%up

指輪2:契約の指輪(-)  従者+3

腕  :霊亀の腕輪硬化(10)  防+10、時々攻撃反射

ベルト:狩人のベルト(8)  防+6、ポーチ×5

下肢 :疾風のズボン(8)  防+7、敏捷+2

靴  :蛙のブーツ(8)  防+6、水耐性+30%up

背中 :海賊のマント(8)  防+7、敵対+2、魅力-2

従者:妖精Lv1  幸運+6、魅力+4、精神-4

  :仔竜Lv13《飛行》《尻尾撃》《ブレス》

鞄:魔法の鞄(初心者用)+商人の鞄

アイテム:ポーション(大)×5、ポーション(中)×5、ポーション(小)×14

    :マナポ(中)×8、マナポ×14、毒消し×9、マナP×7、Sポ×7

    :ポーションP×11、ハイポP×5、万能薬×4、炎の神酒×2

    :闇の秘酒×4、聖水×5、目薬×3、鯨の骨、玉手箱《天翔雷鳴》

    :虹色の果実×7、魔石(小)×9、魔石(中)×4、経験の飴玉

    :料理キット、冒険者セット『遠見透声』投擲セット、豹柄のマスク

    :闇の眼帯、魔除けの香炉、憩いの香木×2、時の狭間の香木×4

    :金のメダル×11、大猪の毛皮、還元の札×2、逆巻きの風呂敷(10)

    :幽霊の呼び水、水妖の呼び水、南瓜の呼び鈴、骨工ギルドの推薦状

    :闇の契約書、飛竜の血、闇蝙蝠の牙、闇蝙蝠の皮膜、探索のコンパス

    :旅人のマント《秋波斬り》魔法の腐葉土、銀葉樹の苗木、白い甲羅

    :『隠密』『交友』『地図形成』霧の呼び笛、硬質な木板、頑丈な木の蔦

    :壊れやすい鉢、魔水連の球根×8、淡い水瓶、野蛮な大腿骨、調味料

    :森狼の毛皮、風の牙、奇妙な頭蓋骨、転換の札×2、鯨の髭×2

    :『妖精使い』月の滴×2、闇の羽根飾り、木工ギルドの推薦状

    :海豹の呼び水、水と氷の香木、水中珊瑚、三色珊瑚『野外活動』

    :ヒドラの鱗、ヒドラの牙、宝飾の片手剣、戦闘メイド服×2、竜玉石

    :死肉喰らいの生肉、ヒドラの生肉、冒険者の心得:初級×3

    :木人形の呼び鈴、丈夫なベスト、飛竜の骨、飛竜の頭蓋骨

    :飛竜の財宝『初級八属性魔術師』『竜宮の遣い』『竜使い』

    :魔力の大骨、魔力の核、理力の杖、暗塊の杖



 スタミナは隠されているから数値は不明だが、体力や魔力は順調に増えているな。スロットに関しては、補正系は全部埋まっていないのに、武器スロットは相変わらず不足気味。

 もっとも琴音の話では、今のレベルで6つも枠があるのは、多い方だと言われたけど。普通は地道に、クエやミッション報酬なんかで少しずつ増やして行くらしい。

 俺のは所有武器が多過ぎるからであって、自業自得との事。


 ボーンキメラとの戦闘で、新しい両手棍を使用してみたけど使い心地に不自由は無かった。このままでも良かったが、短槍とのスキル差が酷いので増えたスキルPを割り振ってみる。

 そしたら『星の涙』と言うアイテムが発動して、どうやらさっきの戦闘で受けた《乱撃》を覚えられるらしい。なるほど、こういう効果のアイテムだったのかと一人納得して。

 使ってみたら、スキルを覚えられた代わりにアイテムは消滅してしまった。


 惜しかったな、強敵の使うスキルには欲しいと思わせる奴が多いのに。とにかく有効な範囲攻撃がまた一つ増えた、これは早速スキルスロットにセットしておこう。

 それでもまだスキルPが余り気味だ、魔法でも覚えるかなぁ。あまり一気に増やしてしまうと、存在をうっかり忘れそうなので自重しているのだが。

 また今度、雷か氷でも伸ばしてみよう。


 師匠に貰った弓矢の性能も申し分なし、命中率アップが良い感じに効いている。だけどやはり矢の消耗は割ときつい、昨日は大物相手に奮発したから尚更だ。

 風の水晶の欠片から作った矢束は、あっという間に無くなってしまった。こんな戦い方をしていたら、自作したり買い足したりしてしても、簡単に矢弾が尽きてしまう。

 少し考えねば、まぁ安全には代えられないけど。


 着ぐるみNPCから分捕った手甲は、まだ良く使えてないので使い心地は保留で。手甲は合成でも作りやすそうなので、その内に自作したいとは考えているけど。

 それも良い素材に巡り会えなければ、夢と潰えてしまう訳で。良い素材に出逢う為には、いろんな場所で色んな敵を倒す必要があるという理屈である。

 木工スキルも伸ばさないとだし、取り敢えずまだ先の話かな?




 そんな感じでログインチェックは終了。相棒達も妖魔のミフェルも、未だ熱心に間食に励んでいる。お客さんにお茶でも淹れよう、コンロを取り出して火をかけて。

 ついでに妖魔の興味をきそうな素材を、鞄から取り出して並べて行く。それから3つまでならタダで弁償用にあげると言うと、ウンウンと本気で悩み始めて。

 面白いな、あまり時間を掛けられても困るけど。


「骨素材の他には……おっと、飛竜の血ってのもあるなぁ。これって、どこで入手したっけ?」

「あ~~っ、それは頂戴!!」


 ワイバーンとの戦闘では無かったな、確か蝙蝠コウモリNMのドロップだったような? そんな事を考えていると、妖魔っ娘はサッと手を出して飛竜の血をゲット。

 そのまま瓶に口を付けて、あっという間に飲み干してしまった!


 まさか飲むとは思わなかった、キメラの材料を探してるって話の流れの斜め上を行く行動だ。唖然あぜんとしつつも湧いたお茶を差し出すと、もっと血は無いのかと変な催促をされて。

 無いならアナタの血でお代わりしたいと、やはり妖魔の常識は怖かったみたい。それはキッパリとお断り、多少むくれられてもこれだけは阻止したい。

 話を逸らそうと、他の気になる素材も羅列られつして行く。


「ヒドラの牙に飛竜の骨、暗塊あんかいの杖に闇の羽根飾り……骨素材以外にも、用途不明の闇系の素材っぽいのが結構なるなぁ」

「あ~~っ、羽根飾りは頂戴っ!!」


 今度も即反応されて、奪われた2個目の素材。今度は食べる訳では無く、何やら呪文を唱えたと思ったら……その羽根飾りから、闇色の羽のモコッとした鳥が産まれて来た。

 召喚術らしいが、物凄く得意げにこちらを見ている妖魔っ娘。取り敢えずはやや大げさに、凄いなぁと驚いてみると。それで機嫌が急上昇したっぽい、黒いモコ鳥と遊び始め。

 ネムが警戒して騒ぎ立ててるが、黒モコ鳥はまるで無視。


 小柄な割に強いのかなと調べてみたら、このナリでレア種らしい。本気で凄いな、この妖魔っ娘……しかし計画性は無いみたいだ、あと1個ねと告げると泣きそうな顔に。

 仕方が無いので、何かと交換で欲しいの持って行きなよと条件を出すと。何が欲しいのかと、逆に尋ねられてしまった。おやっ、このパターンは精霊や竜宮城と一緒?

 そこまで力が強いのか、それなら遠慮せずに欲しいモノを提示しよう。


「武器スロットがいっぱいで、全部のスキルが入らないんだよね……スロットの増えるアイテムを、あるだけ欲しいんだけど?」

「あげるケど、それは1個だけダ! ……えっとネ、光魔法にスロットをまルっと交換出来る呪文があるケど、私は光魔法がキライだから覚えてナイ!

 ……代わりに、闇魔法の凄いのならあげルゾ!」


 そうらしい、凄いのってどんなのだ……? しかし、スロット丸替えの光系の魔法なんてのが存在してるんだ。是非欲しいけど、誰かに貰えないかな。

 光系の得意な存在って、やっぱり精霊とかだったりするのかな? ラマウカーンなら知ってるかも、受けたクエをクリアしたら貰えないかなぁ?

 そうそう、説得して場所を移動して貰う件も忘れないようにしないと。



 そんな訳で、まずは交換の結果から報告しようか。妖魔ミフェルが欲したのは、先取りした2つを除いて結局全部で6つだった……。

 随分と欲張りだが、ちゃんと見返りはくれるそうだ。俺もこれは冒険者の流儀だから、仕方ないんだ感を全身で出して残念感をアピール。

 本当はタダであげたいんだけど、それは規則違反的な雰囲気で対応。


 向こうも子供っぽい容姿なのに、割と太っ腹なのは助かった。ただし、その交換した素材の用途を聞いた途端に、俺は血の引く思いを味わう破目に。

 それはまぁ、後で記述するとして……とにかく彼女の欲しがった素材は、『闇蝙蝠の皮膜』『死肉喰らいの生肉』『魔力の大骨』『魔力の核』『ヒドラの牙』『飛竜の頭蓋骨』の全6品。

 すべてが召喚用の媒体になるらしく、割と貴重品らしい。


 特にその中核となるのが魔力の核らしい、これは確か骸骨キメラのドロップなので、文字通りお返しする感じで問題ない。他の素材に関しても、俺が持っていても特に意味のないモノばかりだから交換に否は無し。

 特に死肉喰らいの生肉など、引き取って貰えて安心しちゃった感じですらあるし。もう1つの生肉も、出来れば引き取って欲しかったが量的にこれで充分らしい。

 ちなみに、豹柄のマスクも押し付けようとしたが、断固拒否された。


 肝心の見返り報酬だが、まずは待望の『皆伝の書:武器』でのスロット+1。それから彼女のイチオシの《ダークジャッジ》と言う中級の闇魔法。

 これは精神魔法の類いらしく、全体に眩暈めまいや錯乱、時には失神を招くそうだ。強い思いがより効果の上昇を及ぼすそうで、要するにスキルが高い方が効果が上がるって事なのだろう。

 考えてみれば、パーティ戦ではダメージ系より強力かも知れない。


 良いモノを貰ったお礼を述べると、大威張りな感じでドヤ顔された。悪い娘じゃないんだよな、俺も特に妖魔びいきって訳じゃないんだけれど。

 それからダメ元で雷か氷の宝玉くれないかとの、こちらの頼みも。二つ返事で応じてくれて、どうやら彼女の懐の深さは相当なモノの様子。

 出て来たのは宝玉:雷《雷精召喚》と言う、ある意味ぶっとんだ代物。


 まずMPコスト58と、とんでもない大食い呪文だ。その分、詠唱時間は上級魔法にしては割と短い方だけど。これだけ苦労して召喚した雷精も、滞在時間はスキル依存らしく。

 スキル10程度で召喚した雷精だと、たった10秒しか維持出来ないみたいだ。せめて1分はいて欲しいが、そうなるとスキル60とか必要になって来る。

 ちょっと通常使用は無理だな、少なくとも当分は。


 それでも宝玉の贈与は有り難いので、存分にお礼を言っておく。早速使ってみろと言われたので、これで他人に売る選択肢は無くなってしまったけど。

 スキル+4だけでも有り難い、ただ呼び出した精霊は案の定8秒で消滅してしまった。妖魔っ娘は何だダメな奴♪ 的な温かい眼差し、そして見本を見せてくれたのだが。

 とんでもなく派手な竜型の雷精が出現……それが3匹とか、どんだけ高スキル?


 ひょっとして、スキルが百どころか三百を超えているのかも……だとしたら、得意との闇系魔法はそれ以上だと想像出来てしまう。

 とんでもない化け物だ、当然ながら現時点では手も足も出ない。


 ちなみに氷の宝玉も強請ねだってみたが、欲張るな! と一喝されてしまった。それじゃあ代わりにと、鞄をチェックして便利だけど数の少ない時の狭間の香木をリクエスト。

 それから便利だった星の涙も、あれば欲しいとお伺いを立ててみると。


 何と両方あるしく、しかも複数個貰えてしまった。時の狭間の香木は追加で4つ、星の涙は追加で2つの補充である。これは嬉しい、少なくとも使えない魔法よりは余程役に立つ。

 最後の6個目は、彼女が勝手に決めてしまった。『波紋のロッド』と言うらしく、どうやら指定した任意の魔法を範囲扱いしてくれる能力があるそうで。

 その分MPは消費するが、回復や強化系の魔法には最適かも。


 とにかくこれで全ての交換が終わった、達成感と妖魔っ娘の喜んでる姿が微笑ましいのだが。その使用目的をさっき聞いてしまって、どうしたモノかと思案している際中。

 つまり彼女は再召喚したキメラ2号で、騎士団のキャンプを襲撃する予定でいるらしく。何でも数年前に、イジワルされた国の紋章旗が、あの連中の持ってるのと同じだったらしい。

 見間違いじゃないかとの説得も、絶対に合ってると言い張る妖魔っ娘。


「ヨワッチイからって、集団で来るのはズルい!! アイツ等にされた意地悪は絶対に忘レない、今度はコッチがやり返してやるんダ!!」

「それはまぁ、その権利はある……よなぁ?」


 善悪の基準なんて曖昧だ、俺だって騎士団には嫌な目に遭わされこそすれ、忠義信や同情心は湧いて来ない。邪魔だとすら思っているが、だけど殲滅すれば良いとまでは思えない。

 同族意識なのかは分からないが、そこら辺のニュアンスはミフェルに辛うじて伝わったらしい。ちなみに以前追い払われた騎士団ってのは、数百人単位だったらしく。

 どんだけ災害認定されてんだ、恐るべし妖魔っ娘!


 どちらにせよ、巨大キメラ2号を作ってキャンプを襲わせるのは決定事項らしい。ここは彼女の縄張りでこそ無いけれど、狩場の一つではあるらしく。

 そこに堂々と居据わるのは、つまりは狩ってくれて構わないとの意思表示に他ならず。威張りつつ唱える彼女なりの理論は、まぁあながち間違いでも無いと思う。

 ってか、その理論を崩すほど騎士団に肩入れ出来ないので。


 辛うじて修正案と言うか、こちらからの提案を幾つか刷り込ませる努力は頑張った。ここは君みたいな魅力的な娘が、長々と居据わる場所じゃないなどとお世辞まで含めて。

 妖魔っ娘は満更でもない様子で、街の方にも幾つか拠点があるんだと申告して来た。どうやらここには、単純に素材を採集するために立ち寄っただけらしい。

 用事も終わったし、もう戻るとの言質も貰えて一安心。


 これで精霊ラマウカーンとの約束も果たせる、ただし彼女の作ったキメラ2号が無事に倒せればの話だが。念の為にこの地にも主がいて、よどみを残したら怒られるぞと告げると。

 ミフェルは小首を傾げて考えつつも、森の主と事を構えるのは得策ではないとの考えに至ってくれて。どうしよっかと相談して来た、良かった誰彼構わず喧嘩を売る性格で無くて。

 そんな訳で、俺が後処理をする事に決定。


「助かった、ヨキにはからえ? 冒険者、お前はまだヨワッチイけど私は気に入った! 今度会うときにまで、ゼッタイに絶対に強くなれ!!

 そしタら私の家来にしてやルからな!!!」





 ――……はいっ、家来ってナニ!?






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