第50話 初の合成指南と魔法の訓練
今日も概ね平和な一日で、学校生活も何事も無く順調に過ごす事が出来た。バイトの日だったので、放課後は『
ただいつもと違ったのは、普段は土曜だけの例の“コーヒー配達”の指名が入った事。滅多に無い事なので、何だろうとやや緊張して仕事帰りに孝明老の元に寄ったのだけど。
何の事は無い、以前に俺が話していたゲームの案件だった。
要するに、俺と琴音が始めた賞金付き限定サーバでお馴染みの『ミクブラ』の筐体。あれが話題性とかの諸事情で、極めて入手困難な現状に陥っていた訳だけど。
この会社経営者のご老体、コネにモノを言わせて強引に3台もの予約に成功したらしい。近々俺の家に送るから、今後も琴音の世話とそのご両親との橋渡し役をお願いしたいと。
そんな感じでの、報告を兼ねた呼び出しだったみたい。
まぁ良い報告なので、どうのこうのと文句をつける謂れも無いけど。今後は家からイン出来るってのは、物凄く助かる気がしないでも無い。
琴音の機嫌が悪くなるかもだが、こちらもゲーム世界が楽しくなって来たのも紛れも無い事実。ついでに妹たちが興味を持って、参戦を決め込めば面白い事態になるかもね。
取り敢えずは、本人たちにその意思があるか訊いてみないと。
こちらとしては、週末仲良しメンバーでゲーム内でも一緒に遊べるってのは大歓迎である。京悟と美樹也兄妹にも、恐らくは歓迎して貰えると思うし。
ただ、妹2人ともバーチャゲーム初心者だから、色々と不慣れで足を引っ張る事態は否めない。兄としてサポートしながら、自分のアバター強化も忘れずにって感じかな?
秘かな楽しみとしては、妹たちとファーを引き合わせてみたい……お互いどんな反応するか、楽しみで仕方無い。
そんな訳で、何故か家の前まで出張って俺を待っていた琴音に、毎度の強制連行をされて彼女の自室へ。時間が余り無いのは、幼馴染も承知している様子。
遅いよとの愚痴も、そっちは順調なのとの心配事も、いつもの様に華麗にいなして。琴音の成長具合を逆に訊いてみると、まあまあ順調らしい。
サーバ移転募集のいざこざもPK騒動も、特に感じられないとの事で。
それは良かった、こちらはひたすらに待たせてしまっている身でもあるし。とは言え急いで街へと移動を果たすのも、師匠に不義理とも思う次第である。
何より俺のアバターの学ぶ機会と喜びが、途切れてしまうのがとても嫌だ。学ぶと言う欲求は、生きて行く上でとても大事な物だと俺は思う。
それこそ今後の人生を左右する程の、重みを含む程度には。
それを琴音も分かってくれているのだろう、しつこく催促もされないし、今は力を貯める時期との認識も共有していて。個々で出来る鍛錬があるなら、そっちを優先で良いそうな。
そんな言葉に甘えつつ、昨日の残りの時間も実は有意義に過ごせた次第。つまりは木工の合成を教わったり、強めの矢弾を補充したりと色々。
琴音の方も、アバター強化に関しては順調ではあるらしい。
こっちの魔法の乱れ取得には小言を喰らったけど、向こうも少しずつ前衛技能を封印しつつ魔法の種類を揃えて行く算段らしい。ってか、琴音は既に『初級魔法剣士』に転職したとの報告を得て。
つまりは後衛寄りの便利屋冒険者を目指すみたいだ。俺が前衛寄りの便利屋で、まぁ2人で何とか冒険には支障が無い程度にバランスを取って。
街の移動を頑張って、後は京悟達と合流すれば良いと。
それが彼女の当面の青写真らしく、ベテラン組で
ただし、まだ俺の中に引っ掛かっている事象は少しだけ存在する。それの片付けが綺麗に出来て、初めて胸を張ってこの森を旅立てると思っている次第だ。
つまりは、師匠への恩返し的なナニかをしたいなぁと。
自分の現在の戦力じゃあ、とてもゴブリンの集落を壊滅させたり、もしくは砦の野盗を殲滅したりなど無理なのは分かっているけど。それでも何か恩を返したい、自然とそう思うのだ。
何か考えつく前に、こちらの修行が終了してしまいそうだけど。何らかのピースがあと2つか3つ揃ったら、可能になりそうな感触は実はあるのだ。
――何だろうね、この
さて、そんな訳で取り敢えずは昨日の残り時間に起きた顛末の報告をしておこうかな。つまりは竜宮城を追い出されてから、ログアウトするまでの出来事だけど。
まずは竜宮城のエリアボス“乙姫”様だけど、幸いにも最後まで戦いには加わって来なかった。参戦されたら詰んでいたから、良かったのだろうけれども。
ファーのしでかした最大の衝撃的事故だ、更新されない事をひたすら願う。
とにかく戦闘後に、文字通りに追い出される様に鯨モドキに押し付けられた俺とファーだったけど。何故か提灯アンコウの着ぐるみNPCに、『玉手箱』なるお土産を手渡され。
正直ビビッて説明文を確認、効果は思った通りの時間を一瞬で食い尽くす効果だった。つまりは俺があの城に滞在した、2時間余り×2倍を強制的に進める訳だ。
面白いのが、他のプレーヤーにはこの効果はチェック出来ないとの事で。
罠的なアイテムなのかなと考察してみる、例えばPKとかで略奪された時に一泡吹かすとか。そう思ったら楽しいかも、間違っても自分で使おうとは思わない。
何にしろ、外見だけ見たら豪華な宝箱にしか見えない罠アイテム。
鯨モドキは律儀にも、ほぼ一瞬で元いた海岸に俺達を運搬してくれた。それから「またね」と別れの言葉を掛けて、海中にと姿を消して行く。
潔いその別離に、乗っかるように俺も師匠の隠れ家へと一目散での帰宅を果たし。いや、酔っ払っていたから足取りはかなり怪しかったんだけどね。
それからクエ依頼のクリア報酬の、木工合成の弟子入りを申し出ると。
こちらも簡単にオッケーが出て、さっそく残り時間をその講習と練習にあてる許可を貰えた次第。良かった、ってかちょっとドキドキしますな。
何せ初の合成講習だ、俺のなんちゃって合成とは別次元の筈。
「元々『魔石合成』は、弓矢使いとは相性が良いんだ……理由は簡単、矢弾が消耗品だからそれを戦場で補充する手段を彼らが欲したんだな。
実際、戦場で素材を集めて合成する暇なんてほとんど無いだろうけど、冒険者にももちろん需要はある。自分で消耗品の矢弾の補充が出来れば、コストが掛からなくて済むからね。
そんな理由で、俺もある程度は自分で作れてしまえる訳だ」
「木工製品って幅が広い気がしますけど……例えばこの小屋とかも、造ろうと思えば出来ちゃう訳ですか?
その、師匠の言う『魔石合成』ってので……?」
師匠は暫し考えて、お金と手間を天秤にかける所業なのだと説明してくれた。成る程、簡潔ではある……つまりはお金が掛かるのは、お金としても使える『魔石』を使った合成で。
その作業結果は一瞬で現れるけど、魔石は使うと当然消滅してしまう。
一方、手間が掛かるのは普通の工程での製作だ。俺が今まで作った武器も、このなんちゃって合成で造ったモノ。作業時間はどれも結構掛かった、10分以上とかザラである。
限定イベント内では、この時間が意外と痛い。4時間縛りがあるから当然だけど、矢弾の補充に毎日数十分とか使ってたら、琴音に大目玉を喰らってしまうのは間違いない。
そこで冒険者達は、魔石合成を修行する訳である。
もっとも、これも極めようと思ったら修行の時間を結構取られてしまうけど。ただし遣り様によっては、他の冒険者が求む武器防具を製作して、儲けたりも可能なのだとか。
そこでさっきの俺の疑問に戻るけど、率直に言えば“小屋”みたいな大物でも魔石合成での製作は可能らしい。もっとも大きさに準じて難易度も上がるから、高スキルが必要だけど。
そして高スキル所持者は、小屋みたいな大物も一瞬で組み立て可能との事。
クライフ師匠はそこまでじゃないので、小屋の製作は文字通りお手製らしいんだけど。木工を極めて行けば、それも可能との指針は貰えてちょっとドキドキ。
そんな大物より、まずは取っ掛かりの小物からが基本なのは当然だ。そんな訳で、クエ依頼で言われていた風の水晶の欠片とハーピーの羽根を作業台の上に置いて行く。
それから魔石(微少)も、同じく取り出して並べて行って。
知らない内に、それぞれが結構な数収集していたみたいだ。それを前に、師匠がまずお手本を見せてくれるそうで。これも魔法の一種で、使われるのは魔石の中の魔力なのだとか。
フムフム、そして基本的に作業の数だけスキルのレベルも上がって行くみたい。魔石合成は、器用さや感性はあまり関係ないとも言われた。
スキルLvの同じ人が作れば、大抵同じモノが出来るそうな。
なるほど、本当に一瞬で製品が出来上がって魔法みたいだ。そこには緑色の矢尻で出来た矢束が、綺麗に整頓されて6本ほど並んで出現していた。
もちろん完全に無から有を作り出す魔法では無いので、素材の数が足りないと合成自体が不可能だ。そこら辺は合成の師匠に付いてレシピを教えて貰ったり、或いは自分で探す必要があるみたい。
奥が深いな、でもちょっと面白そうではある。
基本的には素材の大元が2~3つと、接着素材が1つあれば出来てしまうみたいだけど。例えば矢の製作なら、矢尻と矢羽根と切り出した木の棒が必要で。
接着素材は、膠でも芋虫の粘着糸でも何でも良いそうだ。もちろんそれらの質が良い方が、ダメージ力の高い良品が出来上がるって寸法のよう。
まずは素材選び、それは工作の基本でもあるみたい。
それからレア素材の扱いとか、魔石の良品(微少~特大まであるらしい)での合成術とか、更にはスキルの上昇に伴う雑多な性能の付与術とか。
本当に色々あるらしいので、そこら辺は街に出て正式な師匠について学べとの言葉を貰ってしまった。さすがにこの短時間では、全てのノウハウを語り尽くせないみたい。
それもそうか、とにかく試しに何度か挑戦してみるけど。
魔法の発動と一緒で、少々の溜めの後に製品が普通に出来て行くのを見るのは面白い。つまりは最初のチャレンジで、ちゃんと出来てしまった木工合成。
そんなモノなのだろうか、多分冒険者なら皆がそうなのだろう。システム管理の上での予定調和、それでも多少の優越感は身の
まるで子供の頃に、いきなり補助無し自転車に乗れた時の様な感動。
この魔石合成にもちゃんとスキルは存在して、これは割り振りでは無くて熟練度形式っぽい。つまりは励めば励むほど、上達して行く仕組みらしいのだけど。
試しにステータス欄を覗いてみると、なるほど0.1ほどスキルを取得していた。コンマ刻みとか、ちょっと気が遠くなりそうなんですけど。
まぁいいや、師匠も残りは全部作らせてくれると言ってるし。
そんな訳で、残りは合成の練習で素材を一気に使い切る勢いで行った結果。魔石を使い切る前に、素材の風の水晶の欠片が尽きてしまって終了の運びに。
お陰でスキルは、無事に2.8まで上昇を見せた。琴音にメールで尋ねたところ、どうも合成もスキル技っぽいのが修得出来るとの情報も得て。これも武器や魔法と同じく、4P毎に自動取得するらしい。
どんなのを覚えるかは、これもある程度運が絡んで来るとの事。
俺としては、短槍や両手棍を自分で造ってみたい気持ちはあるんだけどね。とにかく要領は分かったと思う、失敗も何度かあったのには驚いたけど。
ちなみに失敗すると、素材や魔石をロストしたりと
そこら辺も師匠と相談して、レシピを決めて行くように言い渡された。
色々と決まり事も多いけど、まぁ面白そうだと思った当初の予想は大当たりだったな。また素材を集めて、色々と挑戦してみたいと思う。
ウチには収集チャンピオンのファーもいる事だし、モンスターを狩れば魔石も集まると分かっているし。問題は時間だ、何しろ4時間縛りと言うキツい制約が存在するので。
取り敢えず、時間延長の香木は重宝しそう。
――風の矢(-) 攻+8、風属性
出来上がった矢はこんな感じ、属性が付いているので夜に出没する人魂にも効果はありそうだ。干し肉造りをしていた師匠に見せると、出来を確認してくれて。
見事合格を貰えて、出来た奴の半分は持って行って良いそうだ。合成の授業代に、もっと持って行って欲しいけど。欲の無い人だな、その分他の事で役に立ちたいと思う。
何か無いかな、この森を卒業する時も近付いてるけど。
さて、合成は一段落ついたし、お酒の酔いも完全に醒めた。合成に掛かった時間は30分程度、4時間の制限時間的には実はまだ余裕がある。
とは言え竜宮城で2時間近く過ごしてしまったので、いつもだとログアウトしている時間ではある。区切りも良いし落ちても良いのだが、あと少しだけやっておきたい事もあるので。
裏庭に出て、ある作業へと備えてみる。
ファーが
余った時間を何に使うかって事だけど、取り敢えずは魔法の訓練と新しく得た諸々のアイテムなどの確認をしておきたい。『称号』も得たし、“複合技の書”とかも貰ったし。
ちなみにその存在は、やはり琴音には眉唾物だったみたいで。
メールでの確認では、散々ナニしたのとの疑問符の乱舞が。どうやらこれも『称号』と同じく、そんな簡単に手に入らない類いのモノらしい。
ちなみに売れば、物によって50万~100万程度は軽くするそうで。超貴重品なのは確かみたい、しかもマッチョ魚人の計らいでこちらの使用武器のスキル技を貰えた奇跡。
早速覚えてみようとしたところ、思わぬ落とし穴が。
何と貰った“複合技の書”を覚えるのに、短槍スキルと水魔法スキルが両方20以上必要らしい。全然足りないので、残念ながら暫くは保留と言う事になってしまった。
強力なスキル技だと分かっているだけに、少々残念ではある。
強引にスキルPを上げる事は可能だが、同じく貰えた称号の『竜宮の遣い』の効果を読んで思い留まった次第。この『竜宮の遣い』だが、レベルアップ毎に自動的に水スキルを+1取得してくれる素敵仕様らしくて。
凄く便利と言うか、アバター的には超強力ではある。行って良かった竜宮城、ありがとう鯨モドキの精霊さん! そんな訳で、これで水魔法が自然に20になるのを待つ事に。
エコと言うか、他にも伸ばしたい魔法は色々あるからね。
候補としては、光とか雷系に攻撃魔法が凄く欲しい。土とか炎はどうでも良い、氷も術書とか香木で伸ばす手段があるんだけど……積極的に覚えようとは、今の所は思わないかな?
後は今日の冒険で得たあれこれだけど、生肉は取り敢えず触れない様にしよう。仮に調理出来たとしても、モンスターの肉など積極的に食べたくなどない。
他には、そう言えば修繕用アイテムを竜宮城で拾ったんだっけ。
これは忘れない様にしないとね、装備を確認したけど幸いな事に壊れそうな品は無い。明日は安全地帯に寄る予定だから、それまで持てば良いだけの話。
回数制限のある貴重な修繕道具を、緊急時でも無いのに使う愚策は取れないし。そんな訳で、これもいざと言う時用に大切に保管しておく事に。
これで諸々のアイテムチェックは終了、次は新魔法のチェックだ。
まずは水魔法の《マナプール》だけど、これはいわゆる便利魔法系に分類される。マナとは魔力の事で、それを前もって貯めておく魔法みたいだ。
試しに使用してみると、いきなりMPコストを尋ねて来られてビックリ。取り敢えず10MP消費にしてみると、ビー玉くらいの大きさの水の球が出現した。
それがゆらゆら揺れて、宙に浮いている。
思わずファーが突っ込みそうな動きである、しかしコレは何だ? 意思を向けると、色々と確認画面が浮き出て来た。追跡とか待機とか、コスト使用とかそんな感じ。
色々と試行錯誤した結果、コイツのスタンダードな使用法の確認が出来た。この水の球は30分持つので、その間はこれに注ぎ込んだMPを追加で使い放題と言う訳だ。
つまりは、MPの予備タンクを前もって作っておく感じらしい。
もちろんこれの使用にMPコストは掛かるけど、それは休憩なりマナポなりで回復しておけばよい話。戦いの前準備に作っておけば、極端な話MP2倍で戦う事も可能。
ちょっと凄いね……まぁ30分しかもたないから、その間に使い切らないとMPタンクを作っただけの損失になるけど。要は使い方次第か、それでも魔法職には有り難いかも。
さて、それでは実験に移行しようか。
あの老亀仙の話では、水魔法の《マナプール》と闇魔法の《影纏い》で面白いコンボが可能みたいな事を言っていた。これだけのヒントだが、そういう謎解きは俺も好きだ。
ところで肝心の《闇纏い》だが、こちらは強化系に分類される魔法のようだ。ちょっと面白いのは、装備に纏えば防御力アップ、武器に纏えば攻撃力アップ効果との事。
MPコストは、ちょっと高めの28だ。
――それじゃあ、今出現させた
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