第47話 修練の間




 熟考の結果、次は『修練の間』に入ってみる事になった。案内するのは提灯アンコウの着ぐるみ、いや何も語ってくれないので、中の仕組みは全く分からないけど。

 やはり修練と言うだけあって、戦闘系が待ち構えている……なんて予想は大外れ! ふすまを開けると、そこは水の張られたアスレチックエリア、ってかどこだココ?

 本当に室内なのかも疑わしくなるレベルの間取りである。


 まずは、キューブ形の立方体が重ねられて出来上がった、水面に散在する小さな浮島たち。所々にロープが張られていたり、浮島のセーフゾーンが作られていたり。

 天井も高いが奥行きはもっと広い、って言うか建物の中とは到底思えない敷地面積だ。さすがゲームである、常識とか概念とかをまるっと無視してくれている。

 清々しい程だが、さてここでどうしろと?


 ヒントは多分、色々とあるのだろう……何せ『修練の間』だからなぁ、それ系の修行的なエリアなのはある意味当たりだ。そしてあちこちに散らばる、何かの押しボタン。

 座布団くらいの大きさのボタンが、辺鄙な高台や浮島の至る所に置かれている。ファーが早速、探索にと飛んで行ってくれたのだけど。

 ボタンを押すには、どうにも重量が足りないみたい。


 とにかく移動すればいいのかな、それ自体が割と困難だけど。最初にアスレチックエリアと評したが、それ以外の何物でも無いとの認識が徐々に固まって来た。

 要するにここを踏破して、ゴールに飛び込めば良いのだろう。その間にあの押しボタンを、出来るだけ押せば得点か何かが高くなるとか?

 ってか、割と近くに最初の1個があるじゃん、試しに押してみよう。


 割と力を込めて押した途端、ポーンと澄んだ音が響き渡った。そして50expを入手したとの告知、随分とショボイご褒美だな……しかし、この減って行くタイマー秒数は何だ?

 5分から始まったそれは、今は4分と40秒ちょっと。刻々と減ってるね、こちらは何かのアクションを起こすべきなんだろうけど。

 その時、ファーが周囲の異変に気付いて知らせて来た。


 他の視界内の座布団ボタンが、ピロピロと点滅をしている……なるほど、何となくだけど分かって来た。時間内に次のボタンを押せば、チェーンが繋がるとかの仕組みかな?

 待て待て、慌てなさんな、ファーさん。こう言うのは何手か先を読まないと、途中でどこにも行けなくなって詰んでしまう可能性が高い。

 時間制限が無ければ、ルートを戻れば済む話なんだけどね。


 さて、脳内ルートはほぼ確定した……見える範囲での限りだけど、何とか頑張れば5つか6つは繋がる筈。それにしても広いエリアだ、なかなかの移動距離になるなぁ。

 おっとそうだ、存在を忘れていた《風疾かぜはしり》の魔法を掛けておこう。自己強化も掛けておこうかな、武器を手にしていたらロープとかジャンプとか不利になるから仕舞っておいてと。

 さて行くか、まずは段差の上のボタンから攻略だ。


 いざ登ってみると、本当にアスレチック感覚が凄まじい。そして遠くを見渡せるようになって、改めてルートやら何やらを確認してみると。

 島の造りは平坦なキューブの連なりかと思ったら、意外と小物の設置があちこちに見える。襖とか障子しょうじとか、屏風びょうぶとか茶箪笥ちゃだんすとか……昭和のお茶の間的なスペースには驚いたけど。

 拓けた場所に、そんなのがポツンと置かれていたりするのだ。


 田舎の木造建築の、長廊下みたいなのも遠くに見えるなぁ。こうして高い場所から眺めてみると、高低差の難所が凄い場所もチラホラ。

 そんな場所は別に登らなくても良いのかも知れないが、置いてあるのがボタンだけとは限らないし。宝箱とか無いかな、あれば登らねばなるまい。

 とか考えつつ、2つ目のボタンをポチッとな。


 今度は100exp貰えた、こちらの読みは当たってたっポイね。それならどんどん行きましょう、何しろ新たな5分の秒読みが始まっちゃってるので。

 次はあのボタンだと指差すと、ファーが元気に先導し始めてくれた。ロープを使ってサッと平地に降り立ち、ファーの後ろを魔法の強化に乗って疾走する。

 次のボタンまで、またも5分も掛からずに到着。


 おっと、またもや倍貰えるとかマジですか。って事で200expを入手、これはちょっと楽しくなって参りました。次は水に浮かぶ浮島を渡った先、そんなに距離は離れて無いし。

 楽勝でしょうと、連続で飛びぬけようとした所。


 ビターンと、ファー落雷が顔面を直撃。勢いを完全に殺されて、そのままの姿勢で佇む俺は傍目に見たら間抜けだろう。それより鈴を渡してるんだから、そっちを活用して欲しかった。

 どうやら彼女は、何らかの危険を察知したらしい。まぁあるとしたら水の中かな、分かり易い仕掛けではある。無防備なジャンプ中に、水中から襲撃とかね。

 それでは念の為《水中呼吸》を掛けて、貰ったばかりの短槍を手にしてと。


 水の中の気配を探るが、確かに何かいるっぽい。しかも複数、ファーがここにいると空中で指差すのが妙に可愛い。いやいや、ここは真剣に突き刺し漁を満喫せねば。

 自分的にも意味不明だが、時間が惜しいのは確実に分かっている。そんな訳で適当に見当を付けての水中攻撃に、敵は思わぬ反撃を浴びせて来た。

 何と、でっかいウツボが槍に噛み付いて来たのだ。


 これは予想外、しかも獲物に見付かったと思ったのか、次々に姿を見せて飛び掛かって来る敵の群れ。それを手甲でブロックしつつ、《スパーク》で姿を見せた相手に魔法攻撃。

 そして怯んだ奴から、順繰りに突き刺し攻撃を見舞って行く。


 ある程度弱らせたら、もう構ってなどいられない。ボタンを押すのが最優先だ、時間はあと何分残ってる? うおっ、あと1分しかないのか、猛ダッシュだ!

 《風疾り》を掛け直している暇もありゃしない……よしっ、何とか間に合った! えっと、次はどっちだっけ……? うぬっ、この滝を登った先だった筈。

 猪口才ちょこざいな、水が噴き出る仕掛けとか完全に俺で遊んでやがる!


 ぜえはぁ、どうだ押してやったぜ……案の定の400expが超美味し過ぎる。ひょっとして、チェーンが続く限り天井知らずに上がって行くのかなっ!?

 いやいや、今の段階で過度な期待はせずにいよう。それよりも、邪魔する輩は排除orシカトに決定だな。次はどこだっけ、ってかこんな所にお茶の間セットがある不思議。

 寛いではいられないが、ファーが収集ポイントを発見したっぽい。


 そこは4畳半の敷かれた畳と、その上に置かれた昔の丸テーブルと座布団2組、端っこに茶箪笥と言う古風なお茶の間セットだった。

 ファーの物欲センサーは、とっても優秀……今も座布団の下を確かめようと、懸命に分厚いそれをめくろうとしている。手伝ってやると、ひょこっと隠されていた2000モネーが出て来た。

 へそくりだったのかな、他にも探せばありそうな。


 こちらも物欲に負けて探した結果、茶箪笥から万能薬と海苔煎餅のりせんべいを発見。海苔煎餅はとっても美味しそうだ、後でファーと食べる事にして。

 こうしちゃいられない、時間を消費するトラップに嵌まっていたようだ。2分も浪費してしまった、だけど次のボタンは高台を降りてロープを渡った所だから、それ程には心配はない。

 念の為に《風疾り》を掛け直し、チョッ速でルートを攻略する。


 そして800expをゲット、いやぁドキドキするね! この辺りは、ビルのように周囲が切り立った立方体の柱だらけ。ただし上に登ればロープで周回してボタンを押して回れる筈。

 しかしここを登るには、ロッククライミングを敢行しないと駄目みたい。


 いや、ボルダリングと言うべきか。掴める取っ掛かりは均等に壁一面に生えているのだ。それを伝って、5メートル×2回分を登り切らないと頂上へは辿り着けない仕組み。

 いや、行くしか無いんだけどね? 弱音を吐いても仕方ない、妙な敵が出て来て邪魔をしない事だけ祈ろう。こんな時は、呑気に飛んでるファーがとても羨ましい。

 彼女も健気に応援してくれている、頑張らねば。


 頑張った結果、何とか4分程度で踏破に成功した! いやいや、疲れたよ……気付けばスタミナはとっくに半減以下、さっきの歓待で満タンに回復していたと言うのに。

 とか文句を言ってる場合じゃ無かった、残り10秒切ってるじゃないのっ! 慌てるファーに急かされて、こっちも大慌てで座布団ボタンに飛び込んで。

 何とか残り5秒で滑り込み、そして1600expを見事に獲得!


 後は4方の頂上を廻って、ボタンと収集ポイントを拾って行けば良い筈。収集ポイントは、相変わらず壁の一切ない4畳半のお茶の間風景である。

 今回も座布団をめくってみるが、そこには何も隠されておらず。ファーが「甘いな」みたいな顔付きで、ビシッと卓袱台の上のひっくり返された湯呑を指差した。

 そこから転がり出て来る、光の水晶玉が1個。


「凄いな、ファー……じゃあ次は俺の番な、タンスの中には絶対に何かある筈」


 と言いつつ、開いた引き出しには何も無し。逆にファーの指差した引き戸の奥に、へそくりの5000モネーが。う~ん、0勝2敗か……いや、儲けは俺のだから別に良いんだけどね?

 鼻高々のファーの目線は、既に次のお茶の間へと注がれている模様。先にボタンを回収したい俺は、時計回りでキューブの頂上をロープで伝って行く。

 そしてボタンを押して貰った3200exp、至福のひと時である。


 ちなみに次のお茶の間では、聖水と『転換てんかんの札』と言う初見のアイテムを発見。ちなみに2つともファーのお手柄、転換の札はどうも合成用の貴重なアイテムらしい。

 琴音にメールで聞こうとしたけど、この時間の止まった地ではそれは不可能っぽい。なので説明分のみでの解析だ、何かを転換するのだろうか?

 貴重と言われても、価値はてんで分からないと言う。


 とにかくビルのようにそびえるキューブの4方は廻った、次は下に降り立って飛び地のような浮島を目指せばいいのかな? 何か途中に大きな矢印が、水中に向けて掲げられてるけど。

 まさか水の中にまで、ボタンを押しに行けって事は無いよね? まぁ俺には『水中適正』と《水中呼吸》のコンボがあるから可能ではあるけど。

 とにかく降りてみよう、そして大きな矢印に近付いてみると。


 確かにうっすらと、水の底に何やら沈んでる物体が窺える。ボタンなのか、そうで無いのか……残りは3分、そして陸続きの場所には他のボタンの設置は見当たらず。

 下手に探し回ってチャンスを逃すより、ここはこの水中に掛けてみる方が得策かも。そんな訳で《水中呼吸》の呪文を、ファーと俺の2人分掛けて。

 だって相棒も行きたがったんだから、仕方が無いじゃないか。


 いざ水中へダイブ、しかし本当に忙しいエリアだな。飛んだり跳ねたり登ったり、挙げ句の果てには潜水までこなさないといけない始末。

 水中の動きを確認したけど、マジで水の抵抗が嘘のように無い。これは水中戦闘が格段に楽になるなと思った矢先、それを確かめてみろと言わんばかりの敵影が。

 サメの集団らしい、全部で3匹窺える。


 呪文の詠唱も、何故か可能な水中戦。これはどっちの効果なのかな、恐らくは『水中適正』の恩恵な気がする。とにかく《スパーク》からの数減らし、先手を取って暴れまくる。

 なにせこの後、時間内にボタンを回収しないといけないので。水中戦闘の感度も確かめたいけど、優先順位的にはそんなに高くは無い。

 そんな訳で、サクサク進めますよっ!


 サメの攻撃は確かに強烈ではあった、尾ひれのビンタとか噛み付きとか体当たりとか。体力もそこそこで、間違いなくゴブリンよりは強敵だ。

 ただし所詮はパワーファイター、真っ直ぐ突っ込んで来るしか能が無いので。待ち構えてカウンター、囲まれそうになったら《スパーク》もしくは《バーストタッチ》で吹き飛ばし。

 とどめの《落とし突き》で、早くも敵影は残り1匹に。


 ってか、時間が無いので先にボタンを押させて頂きますが宜しくって? ちゃっかりと目的地に移動しながらの戦闘、ボタンは既に目と鼻の先である。

 そして残り時間は20秒を切っている、敢えて冒険などしない主義ですので。ポチッと左手でボタン回収、そして鳴り響くレベルアップ報告のファンファーレ。

 ……ビックリしたっ、このタイミングでレベルが18へと上がったっポイ。


 このボタンで6400exp貰えたのが大きかったのだろう、呆然としている内に事態は思わぬ進行を見せて。残ったサメはヘロヘロだが、ボタンを押すために降りた水の底に異変が。

 足元が思いっ切り盛り上がって、思わずひっくり返りそうに。どうやらエイが隠れていたようだ、そして同じくファーもエイとウミヘビに追い掛けられている。

 おっと不味いな、ファーは『水中適正』が無いんだった。


 彼女は彼女で、水中に落ちていたアイテムを拾って廻っていたようだ。そんな感じで調子に乗っていたら、敵に発見された様子である。

 《水中呼吸》が掛かっている内に、そいつ等を倒して地上に戻らないとね。そんな訳で襲い掛かって来る敵に、容赦の無い反撃を浴びせ掛けて。

 ウミヘビだけは短槍を当て難いので、闇魔法のフルコースで撃沈させてやる。


 一度だけ噛まれたけど、スリップダメージは酷かった。幸い毒消し薬が効いてくれたので、大事にはならなかったけど。

 エイにも麻痺攻撃があったので、コンボ攻撃がウザかったかな。


 体力はどちらも低かったので、戦闘自体は短い時間で済んだけど。途中で《水中呼吸》の効果が切れた時は、ちょっとパニくりそうになってしまった。

 いや危なかった、溺れずに水面に上がれて何よりだ。


 ちなみにここに出現する敵、ドロップはほぼ無いと言うシケた連中ばかり。ただし魔石(微少)をほぼ100%落とすので、その点は有り難いかも。

 そして連続ボタン押しの権利は、完全に途切れてしまう悲しい結果に。まぁ、最後に大きく儲けが出たのでそれで良しとしよう……レベルも上がったし、もう一度最初から挑戦だ。

 って、少し奥に出口が見えてるんだけどね?


 この調子だと、残りのスイッチは多くて4~5個程度かなぁ。距離と大地代わりのキューブ島の数からみて、恐らくはそんな感じだろう。

 水の中までは、もう面倒見きれません……一足先に水上に戻っていた、ファーの戦利品を見てしまったら、ちょっと心が揺れてしまったけど。

 あの短期間で、一体幾つ拾い集めたのやら。


 まぁ、大半は水の水晶の欠片みたいなので、当たりはそんなに多くは無いみたい。ってかどれが当たりかが良く分からない、何しろ初見のアイテムばかり混じってる。

 まずは『星の涙』と言う、手の平サイズのしずく型の宝石だけど。説明文を読んでも良く分からない、懐に入れて置いたらある程度のスキル技を盗んでくれるそうな?

 それを持ち主が選んだら、役目を終えて壊れてしまうらしい。


 そして同じく滴型の、こちらは黄色い宝石『月の滴』と言うアイテム。説明文によると、こっちは蘇生アイテムらしい……えっ、それって戦闘アリのゲームでは定番だけど、この限定イベント空間じゃ凄く貴重なんじゃ?

 後で琴音に訊いてみよう、ってかこのアイテムもう少し欲しいな……ファーさん、もうコレ落ちてなかった? あっそうか、座布団ボタンの周囲にしか無かったかぁ。

 って事は、水上の矢印が無い水中を幾ら探しても無駄っポイですな。


 残念だが、確かにこんな貴重なモノがホイホイ出て来るのも非常識ではある。1個だけでも大変有り難いし、丁重に使わせて貰おうかな。

 そして残りの収集品は、やや当たりの宝石類が少々と紅珊瑚が1つ。小振りなのでそこまで高価では無いとは思うが、これは骨素材なのか観賞法の換金アイテムなのか判断に迷う所。

 でも嬉しい、そしてファーも鼻高々である。


 しかし凄いな相棒の身体能力、普通に水の中でも泳げていたし……俺のスキルが波及でもしてるのかな、普通に泳ぐスピード速かったけど。

 それより鞄の整理とスタミナ回復が終わったら、さっさと次のボタン探しに向かおうか。余り休憩を挟んでいると、ひょっとしたらペナルティ的なモノが課されるかも知れない。

 そんな訳で、一番近いボタンを探して再び歩き回る事に。


 ファーがいるから、簡単に発見には至るんだけどね? そして始まる、連続ボタン押し競技……ってか、今回はお金が貰えるらしい。

 う~ん、経験値の方が嬉しかったけど。それでも、始まりの金額が既に2000モネーとかって凄くない? 4回目で万額超えちゃうじゃん、いやもうゴールは間近っぽいけど。

 取り敢えずリミットを確認、今回も5分以内らしいね。


 時間制限付きのアスレチックエリアを、前半と同じ感じで制覇して行って。簡略して報告すると、押したボタンの数は合計で4つ……総額3万モネーの儲けに。

 そしてお馴染みとなったお茶の間探索で、ポーションP×2個と苺ケーキ、それから初見の『逆巻さかまきの風呂敷ふろしき』と言うアイテムをゲット。

 風呂敷は2枚、3回と7回使用可能との表示か記されていて。


 何とこのアイテム、念願の装備修繕機能を持っているらしい。これで安全地帯もうでは回避出来るが、割と貴重品ならホイホイ使ってしまうのも気が引ける。

 合計で10回は使用が可能なので、本当に壊れそうな装備品を優先して使うくらいかなぁ? メインの武器とかは、壊れると悲惨なので余裕を持って修繕するのは基本として。

 何にしろ、良いアイテムをゲット出来て嬉しい限り。


 そして出口のゲートがもう目の前、高台に登って行くルートの頂上にタイマー設置の豪華な扉が窺える。タイマーはもうすぐ1時間、そんなに過ごしていたとは露知らず。

 その中間に、やや広いキューブ平地と道を遮るように置かれた屏風が1枚。最後に何か仕掛けがあるのかなと、後ろを覗き込んだらソイツと目が合った。

 立派な体躯の虎だ、ひょっとして屏風から抜け出して来なすった?


 戦闘準備はバッチリだ、何しろ思いっ切り怪しかったからね。しかし相手のいきなりの咆哮ほうこうに、一瞬身体がすくんでしまったのは誤算だった。

 その結果、敵の“絵画タイガー”の初撃をモロに喰らってしまった……攻撃力はサメより高いかな、体力はどうだろう? ってか、この敵本当に絵から抜け出して来たの?

 色々と疑問符が飛び交う中、こちらも短槍で攻撃を返す。


 うん、強いね……普通に強い、そして動きが割とトリッキーと言うか。近接なのにフェイント混じりに上下段の攻撃を織り交ぜて来る厄介さ。

 しかもスピードが速くて厄介だ、魔法の詠唱を2度も止められてしまった。しかし3度目の正直、完成した《ダークタッチ》が虎のHPを吸い取る。

 うおっ、思ったより効果が高いみたいだけど?


 ひょっとしてコイツ、光属性なのかも……暗闇効果も付随して、いきなりこちらのペースになったけど。散々攻撃を喰らっていたので、まずは回復が先だったりする。

 パウダー系は勿体無いから、ポーション瓶で回復しつつ。次なる戦術を脳内で練り込んでいたら、ファーがお手伝いの闇の水晶玉を投下してくれた。

 いいぞ、コイツは強敵っぽいから横槍は大歓迎だ。


 ……あれ、今後ろの屏風にもダメージが入らなかったか? 明らかに変だ、ここは作戦変更でまずは《風の茨》で絵画タイガーをガッツリ捕獲。

 そして使うのも久々な気がする、炎魔法の《キャノンB》の詠唱を……長いなコレ、これでさっきのが幻覚だったらただのMP丸損で終わってしまうけど。

 しかし推測は大当たり、炎の渦に焼かれる屏風びょうぶ型モンスター。


 ってか、ガタガタと動き回る屏風ってシュール過ぎるんですけど? どんな技を持ってたのかとか、色々と興味は尽きないモノの。虎さんのお代わりとか呼ばれたら嫌過ぎる、さっさと焼き払うのは正義だったと自認して。

 既にヨレヨレの屏風を串刺しに、全く良い所無く消滅する成り済ましモンスター。


 その分、残された絵画タイガーには頑張られてしまった。咆哮ほうこう技に再度スタンさせられ、噛み付きと鍵爪攻撃のインファイトはこちらも舌を巻く程の威力。

 結局はもう一度ポーション回復の時間を挟まされ、ひょっとしたらNMより強いんじゃないかとの疑問も。ただやはり、倒した後のスキルP付与は全く無しの結果に。

 経験値は凄かったけどね、どちらの値なのかは判然としないけど。


 このエリアだけで、一体どれほど経験値を稼いだことか。お陰でさっき上がったにも関わらず、もう次のレベルアップが見えて来たと言う珍事。

斃した白屏風のドロップも、これまた凄かった……『皆伝の書:武器』と光の術書×1枚、おまけに光の水晶玉と魔石(小)とまるでレア種を倒した時のような報酬だ。

 絵画タイガーも負けずに凄い、魔石(小)と『命のロウソク』と、まさか2個目の『月の滴』がドロップ。蘇生アイテム2連続って、まさかこの後死にそうな目に遭うってお告げ?

 いやいや、嫌な妄想は取り敢えず仕舞っておくとして。


 しかし修練の間はアスレチックエリアだとばかり思ってたけど、収集もあれば良ドロップの敵も用意されているとは侮れないな。

 もう屏風の置かれた平地は無いかな、素直にクリアよりあるなら戻って戦闘回収したいかなあって正直思う。だって美味し過ぎるもん、NM並みに強いのがアレだけど。

 どうせなら、スキルPも欲しかったと思うのは贅沢過ぎ?


 ファーも出張って確認してくれたけど、どうやらこれ以上めぼしい場所は無い様子。取り残しのボタンも無いし、屏風も水上の矢印も無いみたいである。

 意外と面白かったアスレチックエリア、知らない内に完全制覇してしまっていた様子。高台からの前もってのルート確保と、相棒の飛行能力の賜物たまものだろう。

 てな訳で、これ以上ここに長居する理由も無し!





 ――何も無いなら、クリアと参りましょうかね?








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