第6話 妖精付き




 さて、日本ではあまり馴染みの無い“妖精”と言う架空生物なんだけど。有名なのは、やっぱり童話の『ピーターパン』の“ティンカーベル”あたりだろうか?

 物語の中では主人公のピーターパンの相棒であり、完全なトラブルメーカーな存在だけど。焼き餅焼きで意地悪なのは、別に妖精のテンプレでは無いと思う。

 だからと言って、妖精の定番など誰も知らない訳で。


 日本で生まれた作品で妖精と言えば、やはり某有名アニメ監督の作品だろうか。その筋では有名で、アニメのヒット作は数知れずなのだが……意外にも、小説も何冊か出している。

 その中に妖精の出て来る代表的な作品も何点かあって、それはアニメ作品にも共通する。“バイストン・ウェル”と言う、共通の異世界での物語がそれだ。

 その作品内では、妖精は蓮っ葉で気紛れと言うイメージで書かれいてたような。


 有名なアニメ作品の方では、割とマスコット的な立ち位置で愛嬌のあった妖精だけど。小説内での扱われ方は、何と言うか割と酷かった。

 羽虫みたいな感じで、悪さする前に股を割いて捨ててしまえ的な、何とも野蛮な現地の風習とか書かれていたり。悪い組織では、小さな暗殺者として飼われて仕込まれていたり。

 まぁ、どちらも人間の身勝手な扱いが前提にあったりするんだけど。


 小説の中はともかく、現実? の妖精の評価はそれぞれだ。幸運を運ぶと考えられていたり、グレムリンみたいにことごとく機械を壊す厄介者として認識されていたり。

 考えてみれば、黒猫だって不吉の象徴だったり幸運のシンボルだったり、地域によって扱いは違うのだ。架空の存在の妖精に、どちらが当て嵌まるのかなんて誰にもわかりやしない。

 問題なのは、この籠の中にいる妖精の性質だ。


 まぁ、見た目は可憐で小っちゃくて普通に可愛いと思う。薄い葉っぱで出来たような衣装を着ていて、光を放つ虫の様な羽根を持っていて。

 独特な髪の毛の色だな、しかし……他に目立つ点と言えば、全く喋らないと言う事だけど。喋れないのかな、取り敢えず籠から出してあげたんだけど。

 森へお帰りとの、優しい言葉を添えて。


 ……こちらの意に反して、妖精は森に戻ってくれなかった。近くをフワフワと浮遊して、挙げ句に俺の肩に停まったのだ。ちなみに、コレを押し付けた例の商人は既にいない。

 取り引きが終わるや否や、逃げる様に去って行ってしまった。


 まるで厄介事の元凶から逃げて行くようで、いっその事清々しかったけどね。うん、どう見ても厄介事の押し付けだよね、コレ? どうしよう、肝心の妖精が俺から離れない。

 タダで譲ると言われた時点で、既に充分に怪しかったんだけど。そんな訳にもいかないと、さっき手に入れた獣人の硬貨を見せた所。

 やつれた商人は、それをひったくるようにして去って行ったと言う。


 出来れば他の商品も、一通り見せて欲しかったんだけどなぁ。まぁ、お金を持ってない時点で言っても詮無い事なんだけど。しかしこの妖精どうしよう、今の所不都合は無いんだけど。

 いや待て、本当に無いのか……!?



 名前:ヤスケ   初心者Lv4   種族:ミックスB


筋力 11     体力 12     HP 35

器用 13     敏捷 10     MP 26

知力 11     精神 10(-4) SP 22

幸運 13(+8) 魅力 5(+3)  スタミナ**


職業(1):『新米冒険者』Lv4

武器(3):《ブン回し》《》《》

補正(3):《》《》《》

武器:弓矢1P

  :短剣1P

  :短槍0P

  :両手棍4P《ブン回し》

  :投擲1P

魔法:『闇』(4)《Dタッチ》

種族:『ミックスB』(幸運+2、魅力-1)

スキルP:1



 ***『新米冒険者』ヤスケ 装備一覧***


武器 :粗末な手製の木槍(3)  攻+3

武器2:粗末な木の棍棒(4)  攻+4(両手時+6)

予備 :女王蜂の短槍(4)  攻+6、時々毒(微少)

上着 :初心者の服(5)  防+2

アクセ:妖精(-)  防+0、幸運+6、魅力+4、精神-4

腕  :粗末な革の腕輪(2)  防+1

下肢 :初心者のズボン(5)  防+2

靴  :粗末な革の靴(2)  防+1

鞄:魔法の鞄(初心者用)

アイテム:ポーション(小)×8、毒消し×3、木の蔦×2、木の実(雑多)

    :風の術書×1、潤いの蜂蜜×3、魔石(小)、コボルト武具(雑多)

    :花粉の団子、兎の肉、兎の皮、山鳥の羽根、山鳥の肉、狼の毛皮

    :狼の牙、虫の翅、木編みの鳥籠



 ……おっと、せっかく手に入れた兜を装備するのを忘れていた。さっそく被って、何となく肩に座ってる妖精に「似合うか?」と訊ねてみる。

 妖精は身振り手振りで、どうやらバッチグー☆ 的なニュアンスを伝えて来て。取り敢えず満足、これでまた一つ強くなった筈である。

 ……って違う、アクセサリーの欄に『妖精』って何だ!!?


 装備欄に無理矢理突っ込まれたソレは、どうやら取り外し不可能らしい。困ったモノだ……あの商人、めやがったな! いや、別に空欄が埋まっただけで、俺のアバターに今の所不都合は無いのだが。

 って言うか、逆に幸運と魅力の上昇振りが凄まじい事に。


 幸運値など、補正を足すと20を超えてしまっている、魅力値も種族のマイナス分をプラスにしてくれてるし。精神値は下がったけれど、まぁ致し方が無い、諦めよう。

 溜息一つ、歩き出した俺と歩調を合わせる様に飛び立つ妖精。そこからは小道を微妙に外れつつ、やっぱり西を目指す事に。そして程無く見えて来る、立派な断崖。

 ……これは、登って頂きを拝むのは無理そうな気配。


 そこまでの道中、妖精は実にこまめに働いてくれた。ふいっと木陰に飛び立ったかと思ったら、果実や木の実を収穫して戻って来てくれるのだ。

 何と言う勤勉な娘だろう……おっと、妖精の性別を言うのを忘れていた。もちろん♀だ、蓮っ葉でも意地悪でも無さそうで何より。収集のお礼を言うと、ニッコリと笑ってくれる。

 ちょっと癒されるかも、それよりもう少し断崖に近付いてみようか。


 忍び足になる俺を見て、妖精も何かを悟ったらしい。サッと肩に停まって、一緒に息を潜めている。もっとも、まだ一度も喋ってないんだけどね、彼女。

 断崖の下は大きな木立ちは生えておらず、ゴツゴツした岩や低い灌木が茂るのみ。もうすぐ森の切れ端に到着、そこを過ぎると思い切り目立ってしまう。

 さっきの小道での二の舞は御免だ、ここは慎重に行かねば。


 案の定、割と簡単に手強そうな敵を発見した。地上には大きな熊が、そして飛竜みたいな飛翔する影が空中にうかがえる。ちなみに崖の至る所に、白い山羊と岩と同じ色のトカゲがへばり付いている。

 トカゲはモンスターサイズ、大型犬程度はゆうにありそう。


 どれも今の自分より、確実にレベルが上なのだろう。特に飛竜だが、何か大きな獲物を鍵爪に引っかけていたような? 山羊だか何かが、犠牲になってしまったのだろう。

 あの代わりに喰われるのは、俺は御免こうむりたい。


 他にも崖上にまで続く道を発見、つづら坂になっていて俺の場所から右方向から登れそう。もっとも、中腹辺りで崖崩れがあったのか道が途切れている。

 無理すれば突っ切れそうだが、空中からはその間丸見えな状態な訳で。何かしらのイベントはありそう、どちらかと言えば悪い方のフラグの回収的な。

 うん、ここは無理するべきポイントでは無いな。


 気になる点は、まだ他にもあった。崖から落ちて来たのか、完全に壊れた幌馬車の残骸が何台か。それから、断崖の左の壁方向にはチラリと洞窟らしき入り口が。

 ひょっとしたら、ただの熊の巣穴なのかも知れないが。


 崖を登る道は選択肢から排除したから良いとして、廃馬車の中身の確認はしてみたい。何か良さ気なアイテムがあるかもだし、木切れだけでも素材に使えそう。

 それから洞窟だけど、当然中は真っ暗だろう。クエ報酬に松明を貰ったとは言え、片手が塞がるのはちょっと嫌かも……ましてや、その状態で戦闘は御免こうむりたい。

 取り敢えず、洞窟の正面まで森の端に沿って移動してみようか。


 熊に見付からない様に慎重に、他にもアクティブな敵はいるかも知れない。この位置からは、微妙に角度が悪くて幌馬車の中は見る事が出来ない、残念。

 移動して新たに判明したのは、洞窟の数が実は結構多かったと言う事実。人が直立して入れそうな大きさの奴は、3つほど確認出来てしまった。

 同じく壊れた幌馬車も3台、うろつく敵に知られずに近付けるだろうか?



 どちらにせよ、崖際には近付かないといけなくなった。何故なら崖から根を生やしている根性のある広葉樹が1本、そいつが見た事の無い果実を生やしていたのだ。

 虹色に輝くそれは、まず間違いなく5つ集めるとどんな願いでも叶う……いやいや、クリアに必要なアイテムの筈。樹は地上から3メートル程度から、斜め上に向けて枝を伸ばしている。

 果実が生っているのは、そのさらに3メートル上だろうか。


 さらに慎重に周囲を見回すが、幸い熊の姿は近くには無い様子。アレの大きさは他と較べても明らかにヤバいので、今のレベルで戦うなど論外だ。もちろんそれ以上に巨大な飛竜は、無謀以外の何物でも無い。

 アクティブな敵の種類は分からないが、とにかく見渡した範囲にモンスターはいない感じ。時間はまだ半分残っているし、ポーション類も豊富にある。

 ここは慎重に行こう、何か仕掛けが無いとも限らないし。


 そろりそろりと何とか崖下の樹の元まで移動を果たし、ここからが厄介な山場が待っている。幸い崖には、出っ張りや窪みが割とある様子。

 樹の枝も渡って進むには不便は無い幅を備えているので、登ってしまえば回収は難しくない気がする。本当に山場などあるのか不明だが、まぁ無くても誰も困らないし。

 取り敢えず、装備を整えてからレッツチャレンジ。


 とは言うモノの、散々迷った挙げ句に安定の木の棍棒を片手に持っての崖上り。さっき拾った盾を使ってみたいと思ったんだけど、さすがに木登りに両手塞がりは不味い。

 樹には葉っぱが茂り放題で、視界が悪い事この上ない感じ。肩に停まっている妖精も、必要以上にキョロキョロと上の方を警戒している様子。

 確かに、何かに襲われるなら上からかなぁ?


 と思っていたら案の定、何か重そうな物体が降って来た感触にビックリ仰天。妖精のサポートが無ければ、思い切り不意を討たれていたかもしれない。

 こんな足場の悪い場所で、戦闘などしたくは無いのだけれど。敵も心得たモノ、みすみす懐に入り込んだ獲物を取り逃がさないぜと、いきなり接近戦の構えである。

 その動き、どうにもトリッキーだと思ったら。


 何と大蛇と言う名前の、初見のモンスターだったり。体長はゆうに3メートルを超す大きさ、大蛇の名に恥じぬビックサイズである。

 こちらはようやく樹の根元に足を引っ掛けた所、飛び降りるには3メートルはやや高い気が。必死に棍棒を振り回して抵抗するが、どうも敵の方がレベルが上の様子。

 一撃のダメージは、昨日遣り合った女王蜂とどっこいか。


 NMでは無くて、普通の動物系モンスターらしいのだが。こちらが動き辛いのを見越してか、その長い胴体で巻きつこうとして来る嫌らしさ。

 いや、それが彼らの獲物の仕留め方なんだろうけどね。そんな思いを味わいたくなど無い俺は、必死にそれに抵抗。可愛娘ちゃんならともかく、大蛇に抱き付かれたくなど無いっ!

 この不利な状況を、何とか打開しないと不味いんだけど。


 いざとなったらダメージ覚悟で飛び降りるのもアリか、しかしそうすると地上の敵にも見つかる恐れが。今の所姿は見掛けないが、リンクの怖さは昨日身を以て体験済みだ。

 へっぴり腰のせいか、思ったようなダメージは出せていないこちらに対し。向こうも習性なのか、性急な攻撃は仕掛けて来ない。じっくりと蛇の生殺し、なるほど言い得て妙である。

 される方は、たまっったモノでは無いんだけど。


 噛み付き技を何度か喰らいながらも、こちらも反撃の棍棒が幾度かヒット。ダメージ具合はどっこいどっこいか、それなら回復技を持つこちらが有利。

 逆転されないためにも、太い胴体での締め付け技は何としても防がなければ。ってか、昨日の蜂モンスターに続き、コイツも《毒撃》って特殊技を持っている模様。

 毒でのスリップダメージに泣きそうになりながら、狭い枝の道をへっぴり腰で移動して。


 HPが半減したのを見越して、安全策にと奥の手の《Dタッチ》をお見舞いする。暗闇状態になりやがれと、少々小狡こずるい顔での呪文詠唱だった……のだけれど。

 何故だか呪文が発動しない、呆気にとられている隙に何と大蛇の締め付けの餌食になる俺。これは一大事、ってか詰んでるんじゃありませんか、ちょっとねぇ待って!!

 わめきながらの再度の闇魔法も、やっぱり発動しない有り様。


 これは完全に不味い、取り敢えず自由になる片手で鞄からポーションを取り出して一気にあおる。もう片方の手は、胴体と一緒に巻きつかれていて動かせない。

 とんだ失態だが、魔法が発動しないまさかの事態に気が動転していたのは事実。原因究明は後回し、今はこの絶体絶命のピンチを何とかして脱出しないと。

 ってか、巻き付き技のダメージはスリップ扱いなのかっ!?


 なるほど、身動き不可とスリップダメージを同時に喰らう感じ……毒のダメージと一緒になって、かなりHPの減りが不味いですぜ、旦那!

 旦那って誰だと一人突っ込み、とにかく反撃しないと! 抜け出すのは諦めた、こっちが死ぬより先に相手の息の根止めちゃるわいっ!! 

 幸い今は超接近戦、腕は動かし難いが攻撃は絶対当たる筈。


 これは武器を替えた方がいいかな、棍棒よりは短槍の方がダメージが入りそう。なにしろ短距離で突き刺せるからね、そんな訳で武器チェンジして反撃開始。

 不格好な姿勢での片手での攻撃だが、何とかダメージは入っているみたい。大蛇の頭が牽制に入るけど、妖精が目の前を飛び抜けて上手く気を逸らしてくれている。

 命懸けの支援に、こちらも頑張って応えなければ……女王蜂の短槍を逆手に持って、己に巻き付いている蛇の胴体に何度も突きを見舞ってやる。

 こちらの体力もヤバい領域に入った頃に、ようやく締め付けが緩くなった。最後の悪足掻わるあがきのアクションで、何故か同時に木の枝から落下の憂き目に。

 それが仇となってご臨終の大蛇、脅かし役は見事務め切った感じ。


 いやいや、それ以上の役目は果たしてくれたと言うか……昨日に続いてHPが一桁、しかも毒ダメージは継続中。慌てて鞄の中を漁るけど、何と毒消し薬が品切れ状態!

 大慌てて死を覚悟した途端、なんだポーションで体力を回復する手があるじゃんと気付いて。隣で同じく慌てていた妖精も、一息ついた俺を見てようやく安心した様子。

 何にしろ良かった、後は『虹色の果実』を回収するだけだ。


 ……いや、もう一つ重大な確認事項があった。どうして俺は、突然魔法が使えなくなったんだ? 思い当たる節は無……いや、一個だけあるような無い様な。

 コボルト達との戦闘では、問題無く呪文は発動していた。その後何があったかと言えば、滅茶苦茶怪しい商人に出遭った事くらいだ。

 そしてなすり付けられた、籠に入った妖精……。





「……お前かっ!!」









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