第478話
目の前に現れたリビングアーマーを前に、レイ達が行動に移るのは早かった。
「セト、ウィンドアローで牽制を頼む!」
「グルルルルゥッ!」
たった今レベルアップしたばかりのウィンドアローを使用するセト。
雄叫びを上げたセトの背後に7本の風の矢が姿を現し、次の瞬間にはリビングアーマーへと向かって放たれる。
(なるほど。レベル1の時は最大5本までだったが、本数が増えているのか。矢の速度も上がっているし、威力は……)
内心で呟くレイの視線の先で、ウィンドアローは鎧へと小さなひっかき傷を作った程度で消えていく。
(威力に関しては上がっているのかどうかはちょっと分からないな。けど、本数が増えて速度も増しているのを考えれば、牽制という意味では大きい。……まぁ)
ウィンドアローの分析をしていたレイだったが、次にセトが雄叫びを上げると同時にリビングアーマーは衝撃を受けたように軽く揺れる。
衝撃の魔眼。セトの持つスキルでも最近覚えたばかりのもので、威力は低いがタイムラグ無しで発動可能という、優れた特徴を持つスキルだ。
(弾幕を張るという意味ではウィンドアローの方が上だが、やはり単体で相手をするには衝撃の魔眼の方が上だな。……どっちも威力が低すぎて牽制にしか使えないが)
衝撃の魔眼の威力で多少バランスを崩したリビングアーマーだったが、すぐに手に持っていたポール・アックスの石突きを地面に突いてバランスを取り、再び前に歩き出す。
リビングアーマーにしてみれば、攻撃方法が手に持っているポール・アックスしかない以上、どうあっても間合いを詰めるしか無かった。
「グルゥ?」
一旦攻撃を止め、どうするの? と小首を傾げるセト。
このまま遠距離から攻撃をしていればそれ程苦も無く倒せるというのは明らかだったが、そうなるとリビングアーマーの鎧やポール・アックスにかなりの傷を付けてしまうと判断した為だ。
「そう、だな。スケルトンと同じようにあの鎧の中に魔石があるんだから、その魔石を抜き取ってしまえばあの鎧はこれ以上動けなくなるだろうし……分かった、俺がやろう。セトのウィンドアローの性能も確認出来たしな。セトは俺が呼ぶまで待機、エレーナは念の為に左の道から別のモンスターが姿を現さないかの警戒をしてくれ」
レイの言葉に、連接剣を構えたエレーナが頷く。
本来であれば、エレーナ自身もリビングアーマーへと攻撃を仕掛けるのがいいと分かってはいたのだが、レイが何をやろうとしているのかを知り、自分が手を出せば邪魔にしかならないだろうと判断した為だ。
横を通り抜け様、すぐに自分の意図を理解してくれたエレーナへと感謝の視線を送ったレイは、デスサイズを手にリビングアーマーとの距離を詰める。
骨が剥き出しになっている影響で魔石がどこにあるのかが一目で分かるスケルトンとは違い、リビングアーマーの場合は鎧の内部に魔石がある為に狙いにくい。
普通のモンスターであるのなら、魔石は心臓へと埋め込まれているのでその位置を探るのはそう難しくは無い。……もっとも、左胸以外に心臓のあるモンスターというのも多いのだが。
「はああああぁぁぁぁっ!」
まずは邪魔だとばかりに、リビングアーマーの首へと狙いを付けて魔力を流したデスサイズを振るう。
兜の部分を斬り飛ばしてしまえば、首の部分から手を突っ込んで魔石を取り出すことも出来るという狙いもあったのだが……
「……」
それを理解していた訳でないのだろうが、それでもリビングアーマーは咄嗟に持っていたポール・アックスでデスサイズの一撃を防ぐべく、振り下ろすような一撃を放つ。
だが……
「甘いんだよ!」
幾らリビングアーマーに取り付いた死霊の力で半ばマジックアイテムに近い存在になっているとはいっても、あくまでもその程度の物でしかない。
多少の勿体なさを感じたレイだったが、一瞬でポール・アックスに関しては諦める。
魔獣術で生み出されたレイの莫大な魔力によって生み出されたデスサイズと、そこに通されたレイ自身の莫大な魔力。
その2つが組み合わさった一撃を受け止めるには、武器の質も、それを操る者の技量の差も、比べものにならない程に大きかった。
キキンッ、と鋭い金属音が周囲へと響く。
本来であればポール・アックスの柄を断ち切った音と、そのまま一切威力や速度を衰えさせずに首の部分を切断した音の2つが鳴る筈なのだが、デスサイズの振るわれた速度故に、一度の音として周囲へと鳴り響いたのだ。
だが、それでもリビングアーマーの動きは止まらない。
切断されたポール・アックスの柄の部分を棍の如く振るってレイへと叩きつけようとする。
元々鎧に死霊が取り憑いたのがリビングアーマーである以上、頭部の兜を切断されても致命的な一撃ではなかったのだろう。
「分かってるけどな!」
頭部を切断した後も動きを一切止めぬまま、鋭く叫びながらその場で素早く半回転しながらデスサイズの石突きでポール・アックスの柄の一撃を受け止め、そのまま上の方へと跳ね上げてリビングアーマーの手から吹き飛ばし、更に動きを止めず強引に手首を回転させて石突きの部分でリビングアーマーの足下を掬い上げる。
そのまま甲高い金属音を立てながら石畳の上に倒れ込むリビングアーマーを見ながらレイが叫ぶ。
「セト!」
「グルルゥッ!」
レイの叫びが何を意味しているのかを反射的に悟ったセトは、俊敏な動きで石畳を蹴ると倒れているリビングアーマーへと近づき、その胸元へと前足を置く。
その際、自分の爪で鎧を傷つけないように注意したのは、戦闘前のレイの言葉でこの鎧がそれなりに高価だと知っていた為か。
ともあれ、セトの膂力により起き上がることが出来なくなったリビングアーマーはそれでも無言で何とか現状を打破しようと暴れる。
あるいはリビングアーマーの持っていたポール・アックスでもあればまだ攻撃手段はあったのだろうが、デスサイズによって吹き飛ばされてしまっている以上は抵抗のしようが無い。
それでも手足を大きく動かして金属音を鳴らしながら、自分を押さえつけて動けなくしているセトの前足を何とか外そうとするが、グリフォンとしての膂力に、左足につけている剛力の腕輪の効果もあってリビングアーマーの力ではそれを行うのは無理だった。
「よし、セト。もう少し押さえててくれ」
そう告げ、レイはリビングアーマーの兜が吹き飛んで空洞となっている場所から体内へと手を伸ばしていく。
そのままリビングアーマーの胴体の内部を数秒まさぐり、やがてその胴体の中で動いている魔石を掴み取ることに成功し、首の部分から手を引き抜く。
魔石が鎧の外に出た瞬間、リビングアーマーはまるで糸を切られた操り人形のように動きを止め、何とかセトから逃げ出そうとして足掻いていた手足が石畳の上へと落ちて甲高い金属音を立て、同時に胴体、手、足といった部分が外れて周囲へと散らばる。
「セト、助かった。……ほら」
鎧が完全に動かなくなったのを確認したレイは、手に持っていた魔石をセトへと放り投げる。
「グルゥッ!」
それをクチバシで受け取り、そのまま飲み込むと……
【セトは『パワークラッシュ Lv.1』のスキルを習得した】
脳裏へとアナウンスメッセージが流れる。
「へぇ、2連続でスキルを習得出来たか。運がいいのか、場所がいいのか、タイミングがいいのか。ともあれ、嬉しいことに間違いは無いな」
「ほう? その様子だと新しいスキルを習得したようだな。どのようなスキルを習得した?」
「パワークラッシュ。まぁ、リビングアーマーから習得したスキルだと考えれば、それ程不思議じゃないな」
「グルルゥ!」
レイの言葉に、セトもまた嬉しげな声を上げて鳴く。
セトにしても自らの身体能力をより活かせるスキルというのは有用だと理解していたし、派手なスキルとは違って自分のことを知らない他人の前で普通に使えるスキルというのは大歓迎だったからだ。だが、唯一不思議だったのは……
「グルゥ?」
デザート・リザードマンの魔石を吸収してウィンドアローのレベルを上げたばかりだというのに、続いてリビングアーマーの魔石まで自分が吸収したのだ。それを思えば、自分だけが優遇されているように感じてしまっても無理は無いだろう。
円らな瞳で見つめてくるセトの視線に気が付いたレイが、そっと頭を撫でる。
「気にするな。さっきも言ったように、デザート・リザードマンの魔石は既にもう1つ確保出来ている。それにリビングアーマーにしても、ここがアンデッドが出てくる階層である以上はまた遭遇することもあるだろうしな」
「グルルル……」
本気で納得したという訳では無く、レイが言うので不承不承納得したといった風に喉を鳴らすセト。
そんな様子に小さく笑みを浮かべると、そっと撫でていた手を離して地面に転がっている元リビングアーマーであった鎧を、兜も含めて一纏めにミスティリングへと収納する。
「さて、サクサク行こうか。この階層に長いこといると、身体に臭いが染みつきそうだからな」
「キュ!」
戦闘の邪魔をしないように離れた場所で浮かんでいたイエロが、早く行こう! と鳴き声を漏らす。
「ふふっ、確かにレイやイエロの言うとおり、いつまでもここにいるというのはあまり嬉しくないな。では先へ進むとしよう」
エレーナも小さく笑みを浮かべ、地図に書かれているように下へ続く階段のある右の道へと向かって進んでいく。
前衛をセトとその背に乗ったイエロ。そして後衛をレイとエレーナといった隊列で進み続け、30分程歩くと再び別れ道へと到着する。
「またか。……エレーナ」
「真ん中の道だ……が、その前に」
「グルルルゥ」
全てを言われずとも何を聞かれているのかを分かっていたエレーナが何かに気が付いたかのように視線を右の道へと向ける。
そこから聞こえてくるのは、戦闘音。
それだけであればレイ達にとっては特に気にする必要も無いのだが、その戦闘音が徐々に近づいてきているとなれば話は別だろう。
「どうする? 戦闘音が近づいてきている様子から考えると、恐らく冒険者が手に負えないモンスターと遭遇して逃げてきているというところだと思うが」
「……そうだな……」
エレーナの言葉に数秒程迷ったレイだったが、すぐに結論を出す。
「このままここで迎え撃つ。下手にここで真ん中の道を進んで、この逃げてきている奴等が俺達の進もうとしている通路に来ないとも限らないからな」
普通に考えれば、真っ直ぐ魔法陣と階段のある小部屋へと逃げるだろう。だが、普通ではない状態ではどうなるか分からない。
そう判断したレイの言葉に頷き、右の通路から少し距離を取った位置で2人と1匹は攻撃の準備をする。
そしてイエロはいつものように邪魔にならない後方の空中へと。
チラリと後方へと飛んでいくイエロへと視線を向けて確認したレイは、どんな手段で現れる敵を迎え撃つかを考える。
(広範囲魔法? ……いや、それだとこっちに逃げてきている冒険者も巻き込む可能性もあるか。となると、それ程効果範囲は広くない魔法だな)
『炎よ、我が意に従い敵を焼け』
結果、選んだのは最も簡単かつ呪文の詠唱も短い魔法。
呪文が唱えられるのと同時に、デスサイズの刃へと30cm程の炎の塊が姿を現す。
そんなレイの横では、エレーナもまた風の魔法を使って手元に小さな竜巻を作り上げていた。
呪文が唱え終わり、後は魔法を発動するだけとなったその時、複数の怒声と金属音と共に4人の冒険者がレイ達の視線が向けられている右側の通路から走り出てくる。
その様子は、走るは走るでも敗走と呼ぶべき走りだった。
4人の冒険者のうち、先頭を走っている者の1人は右肩から先が無く、血を石畳に落としながらも左腕をもう1人の冒険者に引かれて走っている。
片腕が無くなった状況ではバランスが崩れており、走りにくいのを手を引いて貰ってカバーしているのだろう。
後方を走っている2人が必死に剣と槍を振るって後を追いかけてきている相手へと攻撃を仕掛けてはすぐに走って距離を稼ごうとしていた。
その後方の2人を追っているのは、白い骨で身体が構成されたモンスター、スケルトンだ。
(スケルトン如きにこの階層にやってきた冒険者が逃げ出すのか?)
いつでも魔法を放てるように構成を維持したまま内心で呟くレイだったが、カシャ、カシャ、カシャ、カシャという無数の音が聞こえてくると、数の力でやられたのかと納得する。
事実、4人の冒険者を追って通路から姿を現したスケルトンの数は徐々に増えていき、30匹を超えた時点でレイにもエレーナにもさすがに不審を抱かせた。
ともあれこのままでは危険だし、タイミングもこれ以上は無いと判断したレイは、チラリとセトへと視線を向ける。
「グルルルルゥッ!」
その視線を受けたセトが逃げている4人の注意を引くべく鳴き声を上げると、4人の冒険者がセトを見て絶望的な表情を浮かべ、次の瞬間には魔法を発動しようとしているレイとエレーナの姿を見て困惑しながらも、何をしようとしているのかを理解したのか左右に別れる。
『火球』
その様子を見てレイが魔法を発動して30cm程の火球が放たれて4人の冒険者達を追ってきたスケルトンへと着弾、そのまま焼き焦がし、同時にエレーナの放った風の刃が火球の攻撃範囲から外れていたスケルトンを切断していく。
数秒後、そこに残っていたのは炭化した骨と切断されている骨のみとなっていた。
【セト】
『水球 Lv.3』『ファイアブレス Lv.3』『ウィンドアロー Lv.2』『王の威圧 Lv.1』『毒の爪 Lv.4』『サイズ変更 Lv.1』『トルネード Lv.1』『アイスアロー Lv.1』『光学迷彩 Lv.2』『衝撃の魔眼 Lv.1』『パワークラッシュ Lv.1』new
パワークラッシュ:一撃の威力が増す。本来であればパワースラッシュ同様使用者に対する反動があるが、セトの場合は持ち前の身体能力のおかげで殆ど反動は存在しない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます