55話・わたしに対する挑戦状
「わたしは死体を乗せた馬車を幽閉先に向かう途中の山道まで運ぶように指示されました。その後は他の者達が後片付けをする予定だからと。そしてこの事は誰にも口外ならぬと。王城には戻るなと言われました」
「それは誰に?」
ルーグは剣を抜いた。払うと一本の矢が落ちた。ルーグは矢の放たれた方向を見て唸った。その場所は外の演習場だった。演習場から王城内まで的確に矢を放つなんて素人技では出来ない。明らかに軍部の者と知れた。私はそれを指示しただろう将軍のやり方に腹が立ってきた。
「俺に対する当てつけか?」
「いいえ。これは私に対する挑戦状よ。貸して」
「おい、どうする?」
思わずルーグは普段通りの口調に戻っていたがそれを気にする暇はなかった。私は矢を拾い、それを持って窓から投げ返した。矢を放った相手へと。矢は的確に放った相手へと戻っていった。それをルーグは面白そうに見ていて、他の皆は驚いたように注目していた。
しばらくして窓の外から「うわあああ!」と、言う声が上がったのでルーグに命じる。
「あの矢が刺さった相手を拘束して。こちらの調査を邪魔したのは勿論のこと、私がいると知りながら矢を射かけてきたのよ。私の殺害未遂容疑ありだわ」
「はっ。畏まりました。あの者を捕らえよ」
「それともし、上司が邪魔したら一緒に捕らえて構わないわ。連座よ」
ルーグはシュガラフ帝国の将軍の顔に戻り、皇妃である私の指示に従って配下の者を送った。あの野郎どうしてやろうかと内心思っていると、脇で元御者がブルブル震えていた。私と目が合うと殺さないで下さい。と、呟いている。心外だ。
「これで分かったわよね? 相手はあなたを消しにかかっているのよ。どうする?」
「お、お助け下さい。なんでも話しますから……」
「話してくれるのなら悪いようにはしないわ。あなたの身も守ってあげましょう」
「本当ですか? 皇妃さま」
元御者は必死だった。まるで私が御者の命を握っているような感じだ。御者は縋るような目を向けてきた。正直に話してくれたなら保護しようと持ちかける。これは明らかに将軍から私への挑戦状だ。あいつは私がシュガラフ帝国皇妃となった事を良く思ってないのに違いない。そしてよそ者を王城内に連れ込んで好き勝手やっていると思い込んでいるのだろう。
あの将軍の男尊女卑傾向に加え、腕の強さに自信があることで皆を見下しているような姿勢に苛立ちを感じていた。これはシュガラフ帝国皇帝が命じた捜査で王命でもあるのに。
それを明らかに私怨で邪魔してきたのだ。相手の大人げない行動に腹が立った。
──このままにはしておけないわ!
「さあ、どうなの?」
元御者は私の怒りを見て取ったようで、観念したように告げた。
「……わたしにオリティエさまの遺体を国境付近まで運ばせたのは……将軍です、トリッヒ将軍です」
やはりそうか。彼はキランとオリティエの死を隠蔽することで結びついていたのだ。
一連を見ていたキランは膝から崩れ落ちる。彼の両脇にはルーグの配下が、彼が逃げ出せないように付き添っていた。キランは逃げ出す気力も無さそうだ。オリティエを殺した罪悪感がこみ上げてきたようだ。
元御者の証言とキランの自ら白状した言葉により、彼がオリティエの死を望み、壁に砒素を塗り込んで毒殺したのはこれで明らかになった。
御者の証言で将軍の関与も明らかになった。
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