第24話・謝って済む問題ではありません
アリーダっ。どうした? 何があった?」
「ルーグ!」
光が収まった後には軍服を着たルーグが立っていた。彼の登場に私は駆け寄りしがみついた。私のただ事では無い様子に彼はしっかりと抱きしめ返してくれた。
「寝台に男がいる」
「なに?」
ルーグは私から腕を放すと、その場に私を置いてツカツカと寝台へと歩み寄った。腰の剣に手を掛けている。
「何者だ? ここは皇妃の寝室と知ってのことか? 叩き切ってくれる」
「そう怒らないでよ。将軍閣下」
「どうしてあなたがここに? リーゼロ公爵」
ルーグは寝台から出てきた男を見て睨み付けた。男はリーゼロ公爵だった。驚いた。
「部屋を間違えたんだよ。まさかこの部屋が皇妃の部屋とは知らなかった。驚かせてごめんね」
リーゼロ公爵はヘラヘラと笑っていた。少しも悪いと思ってないのが丸分かりだ。随分と馬鹿にされたものだ。
私はどんな経緯があろうと皇帝が認めた皇妃。彼は元皇子と言っても現在は臣籍降下した一介の公爵の身。その彼が皇妃の居城に忍び込み襲いかかろうとしたのを、謝って済まされる問題だと思い込んでいるのに腹が立った。
「ルーグ。不審者です。この男を牢に入れなさい」
「止してよ、皇妃。僕を牢屋に入れるなんて嘘だろう?」
「このようなこと笑って済まされる問題ではありませんよ。リーゼロ公爵」
「これはほんの悪戯だよ。本気にしないでよ。義姉上」
カルロスは悪びれる様子もなく言う。義姉上と呼びかけてくるあざとさに吐き気がした。
「リーゼロ公爵。もし、オウロ宮殿で皇帝の寝室に何者かが入り込んだとしたらアダルハート陛下はどうなさると思います?」
「兄上のことだから首を即座に刎ねるだろうね」
カルロスにこれがもしも、あなたの兄だったらどうするかと聞けば、彼は他人事のように言った。
「その通りです。ではルーグ。この者の首を即刻刎ねなさい」
「えっ。冗談だよね? 本気?」
ルーグが剣を抜いたことでカルロスは顔色を変えた。
「ま、待ってよ。謝るよ。謝るから許して。義姉上!」
「これは謝って済む問題ではありません。リーゼロ公爵。あなたも高位貴族にある身ならお分かりのはず」
「申し訳ありません。もう二度と致しませんからどうか、許して下さい。この通りお願い致します」
カルロスはようやく自分のしたことの重さに気がついたようだ。必死に謝ってくる。
彼は私よりも年上のはずなのに浅慮過ぎないかと思う。自分の立場に驕っているからこのような事になる。彼はすでにしでかしていることに気がついているのだろうか? 私がそのことを公にすれば立場がなくなるだろうに。
「あなたは私を手込めにしようとした」
「いえ、けしてそのようなことは……」
「嘘おっしゃい。それならばなぜ寝入っている私の寝台に入ってきたの? 私が大声をあげないように口元を手で塞いで、私の身体に触れてきたわよね?」
「それは間違えたからで……」
「誰と間違えたというの?」
「懇意にしている者がここにいるのです」
「それはそれで問題ね。その者の手引きで警護の堅いこの宮殿に入り込んだと言うことになるのだから」
「……お許し下さい。皇妃殿下」
カルロスはその場に跪いた。その彼を横目に私は壁に立てかけておいた槍を手に取った。その槍を持ってカルロスの前に突きつけると彼は目を剥いた。
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