劉裕105 進王爵諮問詔2

自 永嘉喪師

綿踰十紀 五都分崩

然 正朔時暨

唯 三秦懸隔 未之暫賓

 永嘉えいかの乱にて兵勢を喪って以来、

 百年近く、五つの都は

 引き裂かれ続けてきた。

 しかしそれでも正しき暦は

 刻み続けられていた。

 とはいえ関中は遠く、

 この暦に従われていなかった。


至令

羌虜襲亂 淫虐三世

資百二之易守

恃函谷之可關

廟算韜略 不謀之日久矣

 その関中に、

 羌族きょうぞくの跋扈が、はや三世代ぶん。

 実に百二の要衝の地に守られ、

 加えて函谷関の鉄壁の守り。

 彼の地を攻め落とすだけの戦略を、

 打ち立てることは叶わなかった。


命世撫運 闡曜威靈

內研諸侯之慮

外致上天之罰

故能

倉兕甫訓 則許鄭風偃

鉦鉞未指 則瀍洛霧披

 その機運にあり、公は天命に従い、

 晋の威霊を率い、

 内には諸侯の恐れを取り除き、

 外には天帝の罰を蛮族に下された。

 故に猛獣のごとき将らを手懐け、

 きょていの城は瞬く間に降伏。

 銅鑼を鳴らし、干戈を交える前に、

 瀍水てんすい洛水らくすいの霧は払われた。


舊闕之陽 復集萬國之軫

東京父老 重覩司隸之章

 こうして旧都の者たちは

 公を頼って集まり、

 関中の長老らは首都の統治を

 公に期待された。


俾朕

負扆高拱 而保大洪烈

 朕もまた、この座にありながらにして、

 公の大功績には大いなる感動と

 感謝の念を抱いたものである。


是用

遠鑒前典 延即羣謀

敬授殊錫 光啟疆宇

 この故に、多くの前例を引き、

 また臣下らとも協議を重ねた上、

 この国土拡大の功に対し、

 特別の殊勲を下したく思う。


乘馬之制 有陋舊章

徽稱之美 未窮上爵

 その特大の軍功や、

 特大の栄誉はもはや通常の

 ルールや爵位では讃え切れまい。


豈足以

顯報懋功 允塞民望

藩輔王畿 長轡六合者乎

 またこうして王都をよく保ち、更に

 長躯し旧都を奪還までするような

 活躍を示された公に対し、

 並の報酬を送ってみたところで、

 民が納得するであろうか。




自永嘉喪師,綿踰十紀,五都分崩,然正朔時暨;唯三秦懸隔,未之暫賓。至令羌虜襲亂,淫虐三世,資百二之易守,恃函谷之可關,廟算韜略,不謀之日久矣。公命世撫運,闡曜威靈,內研諸侯之慮,外致上天之罰。故能倉兕甫訓,則許、鄭風偃,鉦鉞未指,則瀍、洛霧披。俾舊闕之陽,復集萬國之軫,東京父老,重覩司隸之章。俾朕負扆高拱,而保大洪烈。是用遠鑒前典,延即羣謀,敬授殊錫,光啟疆宇。乘馬之制,有陋舊章;徽稱之美,未窮上爵。豈足以顯報懋功,允塞民望;藩輔王畿,長轡六合者乎。


(宋書2-38_賞誉)




ここまでのあらすじ。

劉裕りゅうゆうくんの功績、もう普通の讃え方じゃどうしようもないよぅ!」


通説としては、劉裕の洛陽らくよう長安ちょうあん陥落が「権威付けのためのパフォーマンスだった」って話になってますが、鄭鮮之の提言

https://kakuyomu.jp/works/1177354054895306127/episodes/1177354054897839411

を読むと、そんな簡単でもなかった、と言うしかないんですよね。


要は拓跋たくばつの脅威こそ可視化されていたものの、その奥にいた赫連勃勃かくれんぼつぼつについてははっきり認識しきれてなかったのでしょう。そりゃそうです、東晋の目の前には後秦こうしん北魏ほくぎがいて、その奥に何がいるかなんて具体的には把握のしようがない。「諜報力低っwww」って笑うだけなら単純ですが、この当時の「世界」の認識のされ方として、どうしてそいつが叶うでしょうか。


加えて、劉裕の留守を劉穆之りゅうぼくしに依存しすぎていた状態でもあった。ただでさえ劉穆之には南朝貴族らとのタフな折衝も求められていたでしょうし、それと共に内政の取り仕切りです。副官の徐羨之を見る感じだと、折衝には基本的に使えない。すさまじいストレスおよびプレッシャーであり、「あの劉穆之ですら」抑え込みきれるようなものではなかった、と言うのが実情のような気がします。


なので劉裕の振る舞いについて、過去の評価の中では北宋ほくそう何去非かきょひが唱えたものが、やはり自分の中では一番腹落ちがします。つまり、


「関中の維持を重んじなかった劉裕の振る舞いを批判こそするものの、その振る舞いは過日に南燕征伐ののち盧循によって亡国の危機にさらされたトラウマが尾を引いていた、と分析する。ただし、それによって天下統一の機は失われてしまった」


https://zh.wikisource.org/wiki/%E5%AE%8B%E6%AD%A6%E5%B8%9D%E8%AB%96_(%E4%BD%95%E5%8E%BB%E9%9D%9E)


とするものです。劉裕のこの北伐は、薄弱な運営資源をどうにかやりくりしなければならなかったようなところを感じています。

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