第75話 合宿2日目の晩ごはんは海の幸!

 あっと言う間に過ぎる、合宿2日目。

 夕暮れを迎えて、僕の仕事が始まった。


 しかし、今日は高虎先輩も援軍として隣で戦ってくれる。

 なんと頼もしい先輩だろうか。


「いやぁ、大晴くんが釣って来た魚をさばけるとは、役得でござるなぁ!」

「すみません。三枚おろしもできないのに山ほど釣って来てしまいまして」


「何を申すか! 気の置けない友人と一緒に台所に立つのも、なかなか乙なものでござるよ?」

「僕が女子だったら、今のでフラグ立ってます」


 包丁をトントンやって、僕は鍋の準備中。

 マゴチはあぶり刺身と煮つけと鍋に。アジはつみれ団子にして鍋に。

 キスは天ぷらに。


「おおーっ! 超いい匂いして来たっす! 先輩方、まだっすか!? もう、匂いだけでご飯1膳食べちゃったっすよ!!」


 食いしん坊も極めると匂いだけで白米が進むらしい。

 玉木さんは、ご飯を用意してうなぎ屋さんの換気扇の前とかに立っていたら、食費が安く済みそうな食いしん坊である。


「来間くん、来間くん。お腹が空いてね、私、死にそう」

「小早川さんは燃費が悪いなぁ……。高虎先輩、こんな感じで良いでしょうか? 生のタコを処理するのも初めてなので」

「あいや待たれよ。失礼して……。うむ、絶品でござる!!」


 高虎先輩のゴーサインが出たので、僕は一品目を飢えた三次元の群れに放り出す。


「はい。とりあえずこれを食べてて。タコのカルパッチョサラダだよ」


「ぐぬぅぅぅっ! こいつ、あたしの敵じゃん! でも、美味しそう!!」

「はむっ。はむっ、はむっ。はむっ。美味しい! 牡丹ちゃんの太ももにたっぷり吸いついたから、もしかしたら牡丹ちゃんのエキスが染み込んでいて味が更に増してるのかもしれないよ。あ。そうだ。良いこと考えた。明日も来間くんにタコを釣ってもらって、今度は3匹くらい同時に牡丹ちゃんに絡みつかせようよ」


「美海ちゃぁぁぁん!!!」


「いや、でもこれ、マジで美味いっすよ! 来間先輩、すごいっす!!」

「すごいのは高虎先輩だよ。僕は海産物の料理に関しては素人だからね。……先輩。炊飯器ってもう1つあります? 玉木さんと小早川さんのペースを見る限り、これ、絶対に僕たちのご飯残りませんよ」


「承知したでござる。マゴチは捌き終えたので、これをお任せしても構わぬでござるか?」

「もちろんです。鍋、もう下準備済んでますから、煮つけに取り掛かります」


 慌ただしく厨房で作業をする僕と高虎先輩。


「ねね。タマちゃん、ホノカちゃん。なんだか、食戟のソーマみたいだね。2人」

『タコさん美味しいですぅー! ですね、ですね! 男の子がキッチンに立つと、なんだかドキドキしちゃいます!』


「ちょっと何枚か撮っとくっすかね! あ、美海先輩、全部食べたらダメっすよ!!」


 こっちは忙しいのに、なんかパパラッチが出現して、料理がし辛くなった。

 黙って食べていればいいのに。


「なになに? そのソーマってヤツ、アニメ?」

「うん。アニメもシリーズたくさん出てるよ。原作はジャンプの漫画なの」


「へー。面白いんなら、あたしも見て見ようかな。…悔しいけど、タコ美味い」

「面白いよ。部室にDVDあったと思う。牡丹ちゃん、美味しかったら服を脱がなくちゃいけないんだよ」


「どーゆうことなの!?」

『それが食戟のソーマにおけるジャスティスなのです、牡丹さん!!』


「自分は口からビーム出したり、海走り回ったりする方でもいいっすよ!」

「タマちゃん。お帰り。味皇あじおうさまは牡丹ちゃんにはちょっと早いかも」

「料理のアニメってそんな過酷なリアクション取らないとダメなの!?」


 三次元は今日も食べるだけ。

 まあ、それを承知の上で僕も高虎先輩も料理をしているから、別に良いけど。

 マゴチの煮つけも完成。鍋も良い塩梅あんばい


「先輩。僕の方はだいたい完成しました」

「ふふふ。小生は大晴くんの動きを見ながら天ぷらを揚げていたので、タイミングばっちりでござるよ! では、配膳といくでござる!!」


 三次元たちは、僕らの料理にせいぜい驚くと良い。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うっまぁー!! あのキモい魚、こんなに美味しいんだ!」


 守沢がマゴチの煮つけと刺身を食べながら、感動している。



「みんな、放課後ていぼう日誌見てないもぐりがいるよ」

「牡丹ちゃん。信じてたのに……。じゃあ、あのタコのくだりはなんだったの?」

「自分もてっきり第1話のオマージュかと思ってたっす! 牡丹先輩!!」

「海に来ると決まっていたのだから、最低限は押さえて欲しかったでござるなぁ」


「なんなの!? オタクの一体感が半端ないんだけど!?」


『みんな、牡丹さんにいじわるしたら、めっ! ですよ!!』



「「「「尊い」」」」



 ホノカ先生のありがたいお言葉を得た僕たちは、食事に戻る。

 温かい料理は温かいうちに頂くのが食材への感謝を示すマナー。


 その食材が自分で釣り上げた魚ならば、味は格別。


『美味しいですねぇ! やっぱり大晴くんの和食は絶品ですぅ!』

「そう言ってくれると嬉しいなぁ! この人たちは無言でガツガツ食べるから、色気もなにもないんだよね」


 すると、食いしん坊コンビが手を挙げる。

 ちゃんと口の中のものを飲み込んだら、発言を許可しよう。


「来間くん。私、来間くんのお料理、もっと食べたいな」

「自分もっす! 来間先輩の家、うちから近かったですし、今度ご馳走になりに行ってもいいっすか!?」


「あ。ズルい。私だって行くもん」



「うわぁ。すごい迷惑。できれば来ないで欲しいな!」



「来間がどこまでもブレないのはもしかしてすごいんじゃないかと、感心し始めてるあたしがいるんだけど。ねー、松雪? あたし大丈夫かな? 汚染されてる?」

「このやり取りを微笑ましく見られるようになったら、守沢氏も次のステージに到達したと見て問題ないでござるよ!」


 今晩も騒がしい食卓になったけど、ホノカが喜んでくれたし、釣りは楽しかったし、なかなか充実した夕飯になった事は疑いようのない事実だった。

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