第73話 せっかくプライベートビーチがあるのにダラダラする三次元たち

「来間ぁー。ジュース取ってー。ジュース」

「来間先輩! 自分、小腹が空いたっす!!」


 三次元はどこまでも厚かましい。


「……はいはい。守沢、何が良いの? なんか色々あるけど」

「えー? なんか適当で良いよー。おいしーヤツ、よろー」


 青汁があったから、これを炭酸水で割ってあげよう。

 怠惰な三次元に鉄槌を。


「玉木さんは、そうだな。ジャガイモがあるから蒸かしてあげるよ」

「マジっすか! ありがとうございまっす!!」

「いや、良いけど。1時間前にご飯食べたのに、よく食欲があるね」


「自分、育ち盛りっすから!」

「その割には栄養がどこかに消滅しているみたいだけど。おっと、失言かな」


 僕は青汁ソーダを守沢の前に置いて、ジャガイモをよく洗って適当に切れ目を入れたらラップに包んでレンジにドーン。

 あとはバターとコショウでもかけとけば満足するだろう。


「来間くん、来間くん」

「ああ……。分かった。小早川さんもいるんだね。大丈夫。作るよ」


「えへへ。来間くん、優しい」

「そうっすね! 来間先輩は自分たちのお母さんっすよ!!」

「ヤメてくれる? とっても不愉快」


「うわぁ! なにこれ! ちょっと来間ぁ!! このジュース、なにさ!!」

「ふふふ。人を動かして横着しようとするからそうなるんだよ」

「むっちゃ美味しいんだけど!! すごっ! 新感覚!! うまーっ!!」


「……ああ、そう。それは良かった」


 忘れていた。この冷蔵庫、松雪家の人が補充したんだから。

 不味いものが入っているはずがないんだよな。


 その後、蒸しあがったジャガイモに前述のものをぶっかけて、雑に皿に載せて食いしん坊コンビに差し出してあげると、むしゃむしゃ喜んで食べる。

 ウマ娘かな?


「いやぁ、海に来ているのに海に出ないと言うのも、なかなか乙なものでござるなぁ」

「ものすごくもったいない事をしている気がするんですけど」


「うまーっ! この強い炭酸がクセになるー!! 来間―、おかわりー!!」

「んんー! 来間先輩、このジャガイモ、良いジャガイモっすね!」

「はむっ。はむっ。はむっ。はふっ。はふっ。はむっ。はむっ。はむっ」


 女子チームがとてもじゃないけど水着に着替える空気じゃない。

 そんな中でも、建設的な事を言うのが僕の彼女。

 やっぱり三次元なんてダメだよ。時代は二次元。


『松雪さん。今度は何のコスプレするんですか? ホノカはスーパーモデルとして、是非今後の展望を聞いておきたいです! ふんすっ!!』


 実に興味深い議題が出て来た。

 繰り返すが、やはり時代は二次元。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「やはり、メイドリームでまとめたいでござるな! 先日試作した衣装をさらにブラッシュアップして、完璧なものに仕上げたいでござる!!」

「おお、良いじゃないですか! 僕も賛成ですよ!」


 メイドリームは今が旬のアニメだし、コスチュームは可愛いし、是非とも完全版の戦うメイドさんなホノカを見たい。

 それになにより、メイドリームには男のキャラがいない点。

 そこが素晴らしい。


 僕が撮り専に復帰できるじゃないか!


「武器のホイップバスターも、ガチチアのギアほど大きくないので作るのは容易でござる! ちゃんと人数分作るでござるよ!」


 メイドリームは、ホイップクリームを絞る、何て言うのか知らないけど、洋菓子屋さんがケーキの仕上げをする時に使うアレ。

 アレの色違いがそれぞれの武器である。


 その名もホイップバスター。


 大きなお友達が「ぼ。ぼくもメイドさんのクリームまみれになりたいんだな、はぁはぁ」と夢中になった、中毒性の高い小道具。


『メイドリームは5人組ですけど、大晴くんはどうなっちゃうんですか?』

「おうふ。彼氏を案じるホノカ氏。尊いでござるなぁ」


 ホノカの気遣いは嬉しいけど、心配は無用だよ。

 5人でメイドリーム。6人いたらそれはもうメイドリームじゃない。

 僕は、親父に特注のカメラでも作って貰うから、気にしないで。


「大晴くんには、ナタデーをやってもらおうかと思っているでござる」

「え゛っ」


『ナタデーちゃん! あの可愛いマスコットですかぁ!』

「そうでござる! やはり、独りぼっちは寂しいもんな、でござろう!!」


 ナタデーとは、ナタデココの妖精と言う、ぶっちゃけいてもいなくても問題ない、ヒロインたちの周りをフワフワ飛んでいる生き物。

 ヒロインたちをメイドリームにスカウトしたのもナタデーであり、一部のファンからは『悪徳詐欺師』とか呼ばれている。と言うか僕も呼んでいた。


「いや、僕は全然大丈夫なので」


 考えてみれば、こうして守勢に回るのも久しぶりである。


「ご安心めされよ! ちゃんと、6倍のスケールでモデリングを開始しているでござる!」

「あの、それって着ぐるみですよね?」


『着ぐるみだって立派なコスプレなのですよ、大晴くん!』

「え゛っ」


 ホノカと高虎先輩がタッグを組むと、これほど面倒くさいものなのか。

 まず、僕は彼女であるホノカに逆らえない。

 次に、大恩ある高虎先輩にも強くものが言えない。



 ハメ技じゃないか。



 こうして、反論の余地もなく、次のコスプレが決まってしまった。

 こんな事ならば、早く海に行ってビーチを独り占めしておけば良かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「さて、これからどうするでござるかな。女子たちは食後に水着になるのは嫌でござろうし、自由行動にするでござるか」


 高虎先輩の意見に反対する者はなし。

 ならば、僕はやりたい事があった。


「先輩。もしかして、釣り竿とかってあります?」

「もちろん、あるでござるよ! 大晴くん、釣りにチャレンジでござるか?」

「実は最近見たアニメの影響で、やってみたかったんですよ」


 釣りに出掛けていれば、このダラダラしている三次元たちの世話からも解放される。


 我ながら完璧なプランだと、惚れ惚れする僕だった。

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