第67話 ホノカさん、バカンスデバイスへ!
大切なことを忘れていた。
「ホノカ! バカンスデバイスに入らないと、そのままじゃ海に行けないよ!」
『ほぁ!? そうでした! これはわたしとしたことが、うっかりしていましたぁ!』
親父が徹夜で仕上げた、ホノカの防水、耐熱、海水も可、砂浜も可な無敵デバイス。
今頃、親父はどうしているだろう。
まかり間違って出前でピザとか頼んでいたら、帰って蹴り飛ばそう。
「おー! なんか知らんけど、すごそう! なにそれ、秘密兵器っぽいじゃん!」
「ホノカ先輩の秘密機関が用意した、ヤバいアイテムっすか!?」
ああ、そう言えば守沢と玉木さんには、僕の親父が研究者だって事を教えていないのか。
別に隠していたつもりもなかったのだけども。
三次元に「ふふふ。僕の秘密をご覧よ」なんて言う趣味はないから仕方がない。
「来間くん。言ってもいい?」
「ああ、うん。構わないよ」
ちゃんと僕の了解を得てから発言する小早川さんは偉い。
三次元にしておくにはもったいない。
「来間くんのお父さん、偉い研究者さんなの。ホノカちゃんの開発リーダーなんだよ。だから、ホノカちゃんのメンテナンスとか、今回みたいにサポートアイテムも作れるの。牡丹ちゃん、覚えてないかな? 前のコスプレイベントの時も、ホノカちゃん冷却デバイスを使っていたんだけど」
見事な説明。
ちゃんとホノカと小早川さんの人格関係のところだけ避ける名采配。
なんだか久しぶりにちゃんと賢い小早川さんを見た気がする。
付言する事は特にないので、僕はだんまり。
「あー! なんか来間がスマホをハメてたヤツだ! へぇー! そうなんだ、来間のお父さんって凄い人なんだ! 意外ー!!」
「守沢氏。大晴くんのお父さん、世界でも指折りの科学者でござるよ」
「えっ、そうなんですか!? うちの親父が!?」
「大晴くんの親父殿への興味の無さは時々心配になるレベルでござる」
とりあえず、ホノカを移動させてあげなければ。
バカンスデバイスのスイッチを入れて、起動させると「3分待ってね!」と親父の書き文字で表示が出て来た。
なんだろう。不愉快だなぁ。
「来間先輩! あ、今はシルバー先輩の方が良いっすか!?」
「シルバー先輩の方が良い時はとても限られているよね。どうしたの、玉木さん」
「やっ、1枚撮りたいんすけど、なんか、あるじゃないっすか! こう、機密
「ああ、全然平気。いくらでも撮って良いよ。なんか問題があっても、親父がどうにかするから。もう平気、平気」
「そこのセリフだけ切り取ると、大晴くんがものすごくダメな人間に聞こえるでござる」
お喋りしている間に、デバイスが起動した。
ホノカに向かって親指を立てると、彼女は敬礼で合図してくれる。
これが彼氏と彼女のやり取りだよ、同士諸君。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『では、ホノカ入ります! ほりゃー!!』
僕のスマホからホノカが消えて、「現在バカンス中です!」と立て看板が表示される。
ホノカの書き文字と言うだけで心が休まる。
そして、デバイスの方から声がする。
『移動完了です! ほわぁぁぁ! これはなかなか快適ですよぉ! しかも、皆さんと一緒に海に行けるなんて、とっても嬉しいです!!』
僕は重要な事に気付いていた。
どうやら、小早川さんも気付いているらしい。
先に言うのは僕だ。そこは譲れない。
「バカンスデバイス、スマホの3倍くらいあるからさ。ホノカが大きい!!」
「ね。ホノカちゃん、いつもより近くに感じるよ。……しかも、大きくなったという事は、ホノカちゃんの細部まで見られると言うことだよね。わ。すごい、お尻に水着がちょっと食い込んでるところまで確認できる。どうしよう、興奮してきた。ホノカちゃん、ちょっと体育座りしてくれる? あ。全然変な意味じゃないよ? スカートビキニを最高に堪能しようと思っただけ。変な意味じゃないよ?」
先行したはずなのに、セリフの量で圧倒的な差を付けられてしまう僕。
言っておくけど、セリフのボリュームが愛の大きさじゃないから。
僕の方がホノカを愛しているのは間違いないから。
『み、美海さん……! さすがにみんなの前で2人の時のノリは恥ずかしいですよぉ』
「ちょっとごめんね。小早川さん。ホノカと2人きりの時、何してるの?」
「何もしてないよ? 全然、全然、全然何もしてないよ?」
僕の知らないところで、ホノカが何か
くそぅ、小早川さんめ。
「ホノカ先輩! 撮るっすよー! 可愛いポーズしてくださいっす!!」
『ふぁ!? 可愛いポーズですか? え、ええと、にゃ、にゃー! 猫ちゃんですよー!!』
「ああ。尊い。今この瞬間、地球が爆発しても悔いはないなぁ」
「うん。尊い。可愛いホノカちゃんに可愛いにゃんこちゃんはもう、反則」
「おうふ。これはこれは。小生、鼻と耳と目から血が出そうでござる」
「いいっすねー! 今度は振り返りながらお願いするっす! あー、いいっすよ!!」
「あたしはもう何もツッコミしないかんね?」
こうして、無事にホノカのバカンスデバイスへの換装も完了。
ならば、ビーチに向かうのもやぶさかではない。
僕はインドア派のオタクだけど、泳ぎには少し自信がある。
Free! とウミショーとゼーガペイン見てたら、普通のオタクは泳げるようになるから。
「各々方! それでは参ろうぞ!!」
高虎先輩の号令が響く。
ところで、確認したい事がひとつあるのですが。
「高虎先輩。マントと仮面、外しても良いですか?」
「ええ? それも含めてのコスプレなのにでござるか? トータルコーディネートなのにでござるか?」
「来間先輩! せめて撮影させてくださいっす! キャストオフはその後で! お願いしまっす!!」
どうしてこの人たちは僕に普通の海水浴をさせてくれないのか。
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