第65話 プライベートビーチとか言う秘境とホノカの水着

 高虎先輩の運転は相変わらずの安全走行。

 特に問題もなく高速道路を降りて、海沿いの国道へと進む。


『この先、しばらく道なりです! ほわぁー! 海が綺麗ですねぇー!!』

「本当だね! 星海ほしうみって初めて来たけど、こんな風になってるのか」


「なんかね、星が落ちたみたいにキラキラした砂浜が由来になってるらしいよ!」

「守沢、詳しいね」

「さては、スマホで検索したでござるな? 守沢氏はすぐに良い恰好しようとするでござるからなぁ」


 どうやら、図星だったようで、守沢が頬を膨らませた。

 三次元がそれをやっても、全然魅力的に感じないから不思議。


「まあまあ、先輩方! 落ち着いて、パンでもどうっすか!? ピザパン美味しいっすよ! パーキングエリアのパン屋さんって美味しいっすよね!!」

「玉木さん、まだ食べてたんだ。それ、何個目かな?」


「先輩は今まで食べたパンの枚数を覚えているっすか?」

「あ。ディオ様だ。タマちゃん、さすがの応用力だね」

「いやー。照れるっすよー!」


「食べたパンの数は覚えておこうね」


 ホノカの頭上に「!」が点灯した。

 何かあったのかな?


『もう目的地の1キロ圏内に入りましたよ! どこですか、松雪さんの別荘! この辺り、海水浴のお客さんが全然いませんけど。遊泳禁止なんでしょうか?』


 高虎先輩が答えてくれた。

 先に言っておくと、世の中って言うのは平等には出来ていない。

 だけど、そんな世界で高虎先輩に巡り合えた運命に感謝。


「ああ、この辺りはもう、うちのプライベートビーチでござるからな。あそこに見える小さい建物が、松雪家の別荘でござるよ」



「ねぇ、来間? あの建物、あたしの家の2倍くらいあるんだけど。小さい?」

「奇遇だね。僕の家の2倍くらいあるなぁと思っていたところだよ」



 そしてそのまま高虎号は別荘の前に到着。

 近くで見ると別荘は更に大きく、僕の家の3倍はあるなと上方修正を余儀なくされた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「さて、とりあえず部屋の数は人数分あるゆえ、みんなで好きなところを選ぶでござるよ。事前に清掃されているはずでござるが、不備があれば報告を」


「どうしよっか? 美海ちゃんと陽菜乃ちゃんは希望ある?」

「自分は後輩なんで、余り物でいいっす!! 先輩方からどうぞ!!」

「私はどこでも良いよ。牡丹ちゃん先に選んで?」


「来間ぁー! 早く仕切りなよ! こーゆう時の部長でしょ!!」

「言うと思ったよ。はい、じゃあね、こっちの端から、守沢、玉木さん、小早川さん、僕、高虎先輩で。決定でいいかな?」


「うわぁ。機械的。なにその情熱のなさ。草食系男子でももうちょい興奮するっしょー。あー、分かった! あたしたちの水着に備えて興奮を溜めてるな?」


 守沢は三次元のダメなところを集めた女子だと再確認。

 僕の思考は今日も絶好調。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 部屋に荷物を置いたら、リビングへ再集合。

 海に繰り出す? バカ言っちゃいけない。


 まずは今晩の食事の買い出しに決まっている。


「食材でござるか? 小生の親父殿に頼んでおいたゆえ、恐らく補充されていると思うのでござるが。冷蔵庫はそこでござるよ」


 僕の家の換算で1週間分くらいの食材がみっちり詰まっていた。

 さらに、常温保存できる食材がキッチンの収納スペースにもどっさり。

 籠城ろうじょう戦でもするのだろうか。


「ところで、この中で料理ができる人は?」


「……あー。あたしは、ほら、スプーンより重たいもの持たない主義だから?」

 ならば、その手に持っている浮き輪と空気入れはなんだ。


「自分、食べるの専門っす! 食レポなら任せて下さいっす!!」

 玉木さんはもう、何というか清々しい。


「私、頑張るよ? お料理したことないけど。多分、できると思う」

 小早川さんから漂う、メシマズフラグ。


「分かった。僕がカレーでも作るよ。あ、いやいや、高虎先輩はもうこれ以上働かないで下さい! なんか、罪悪感が湧いてきますから!!」


 背筋を伸ばして挙手をする高虎先輩の手を無理やり下ろしてもらって、調理場の担当が僕に決まった。

 まあ、よくある女子によるメシマズイベントで食材無駄にするよりはずっと良い。


 メシマズで萌えるのは、二次元だけだから。

 三次元のメシマズとか、それもう無能の証明書だから。


「それでは、各々方! いよいよ、水着のお披露目と行こうではござらぬか!」

『ほわぁー! 待ってましたぁ!!』


「では、まず大晴くんから! こちらでござる!!」



「すみません。海水パンツが銀色なのは我慢しますけど、マントと仮面いります?」

「えっ? いらないのでござるか?」



 そんな悲しい顔をしないでください。

 今日の先輩にそんな顔をされると、僕としても非常に断りにくいんです。



「あ、はい。やっぱりマントと仮面、必要ですよね」

「そうでござるよね! いやぁ、ビックリしたでござるよ!! いやいや、やはり!!」


 僕は海水浴に来て、なにゆえマントと仮面を装備しなければならないのか。

 夏休みに入って、何か悪い事でもしたのだろうか。

 ゴミ捨て場の掃除は毎日率先してやっているのに。


「では、ホノカ氏! こちらがデータでござる!! 大晴くん! ちなみに別荘はWi-Fi完備でござるよ!!」

「了解です! ……よし。ホノカ、どう?」


『来ましたぁ! ほわぁー! 可愛いです! 着てみますね!! んしょ、んしょ』


 ホノカの水着は、バーニングフォームと同じ燃えるような赤と黒が混じる、情熱的なカラーリングのビキニ。

 フリル多めなのがもう、何というか、言葉に出来ない。



「尊いなぁ」

「自画自賛で恐縮でござるが、尊いでござるなぁ」

「マジで言葉を失う尊さっすね」

「うん。ホノカちゃん、お尻がエロい。尊い。頬ずりしたい」



「あんたら、ブレないね。いや、可愛いけどさ。なんで全員泣いてんの?」


 守沢は何も分かっていない。

 この部屋に充満する尊さを感じないとか、ちゃんと血の通った人間なのだろうか。

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