165話 反撃
捕らえられたほとんどの者が意気消沈する。
なんなら冒険者だって多数いる。
しかし、王都を警護するほどの騎士団がやられる相手に敵うわけがない。
ましてやその騎士の中に裏切り者がいるのでは希望などあったものではなかった。
誰だって命は惜しい。
無駄にここで立ち向かえば自分だけではなく、周りの人間をも危険に晒してしまう。
では、
戦闘能力が高く、死んだとしても何度でも蘇ることのできる彼らなら。
残念ながら彼らも抵抗したが、その抵抗虚しく全員が戦闘不能にされている。
襲撃の首謀者であるイーブルはドス黒い闇に包まれて抵抗しようとする人間に黒の雷を問答無用に浴びせる。
「貴様らなどなんの抵抗にもならない。地べたに這いつくばって王国が落ちるのを見ているといい」
イーブルは現地人も来訪者も極力殺しはしなかった。
負の感情が募れば募るほど力を得るからだ。
ドス黒い何かは時間が経てば経つほどに禍々しさを増していき、イーブルでさえも最早抑えきれるものではなくなっていた。
口調も行動も徐々に変化してきている。
「あっ、あれは……」
「助けが来てくれたぞ」
「お願いします。騎士様お助けを」
広場に遅れて到着した騎士団に市民は祈る。
クルーウェルを筆頭に現れた13番隊は今までに得た功績と騎士の誇り高さから1番隊に次いで国内で人気がある。
特に隊長クルーウェルの人気は絶大だった。
「クルーウェル様……」
地面に伏していた騎士はクルーウェルを見て目に希望を灯らせる。
「クルーウェル殿、申し訳ない。私の隊の副隊長スクアロと数人が裏切ったようだ」
スクアロに腹部を刺されたブラウィンはなんとか一命を取りとめてクルーウェルに現状を伝える。
「ブラウィン、わざわざ言われなくても知っている」
「そっ、それはどういう……」
クルーウェルとその部下たちはイーブルの元へと歩いていく。
近づいていくがお互いに攻撃をする意思は見られない。
そして、クルーウェルはイーブルの後ろにつく。
それとほぼ同時に負の感情が一気に高まり、今までにないほどドス黒いそれは力を増幅させた。
「なんでこんな酷いことするの?」
少女はイーブルに尋ねた。
「計画通りだからだ。じきにさらなる絶望を国にもたらしてやる」
「悪い人なの? あの人がお父さんを殺したっていうのも嘘だったの?」
「あぁ、そんなこともあったな……そうだよ。俺が殺した。だからどうした?」
「そっ、そんな……」
少女は絶望する。
イーブルは少女に手を向けて、黒の雷を放った。
寸前で少女は抱き抱えられて雷から身を躱した。
「俺に歯向かうつもりか? ただ力のあるものに巻かれることしかできない矮小なお前如きが」
ベローチェはイーブルを睨みつける。
かつてはイーブルに力を貸したがそれはお金のためで、そのお金も子どもの未来を守るために必要だったから。
「私は子どもたちを守るだけよ」
「シスター、どうしよう。わたし……あの人を殺しちゃった」
涙を流して全身を震わせる少女をベローチェは優しく抱きしめた。
ベローチェは町外れの教会でシスターとして手伝い、親のいない子どもたちの面倒を見ている。
父親を殺された少女も教会でお世話になっていた。
イーブルの手がベローチェを捉えて雷を放とうとしたとき、逆に天から黒の雷がイーブルに落ちる。
イーブルにダメージは一切ない。
ベローチェの前に黒の外套を纏った5人の姿があった。
巨大な腕が上空からイーブルたちを殴りつけるが、クルーウェルの出した光の壁で防がれる。
PX441が風の刃を放つと宙に漂う糸によって切り裂かれる。
「おいおい、そりゃあバレバレだぜ」
いるかが姿を変えて一般市民に化けて背後から近づこうとしたところに曲刀が振り下ろされる。
いるかはそれをクナイで受けて距離を取ってイーブルの後ろに戻った。
5人は深く被ったフードを外す。
「
「叩き潰せ、ここまで力が集まればもう殺しても構わん」
イーブルは手で殺せとジェスチャーをする。
イーブルの部下は元々イヴィルターズにいた人間、脱獄の際に金で雇われた犯罪者、裏切りの騎士を合わせて100人を超えていた。
紫苑は隠れながら市民を避難しているところを真っ先に狙われ、何人もの犯罪者が攻撃を仕掛ける。
それに立ち向かうように反対側から大声で駆けつけてきたのはグローリーロードに名を連ねる数々の商店。
「何も行動せずにただやられるだけなのか? 武器を取れ!! 臆することはない。我々には神の救いがある」
スメラギが語り、市民に武器を配る。
未だレガリアの力は継続中で市民にも神の救いの効力が発揮されている。
ステータスダウンした騎士よりも武器を持った市民の方が戦力になるのは事実だった。
さらにポーションも大盤振る舞いで市民、騎士、来訪者に飲ませる。
一気に活気を取り戻して全員がイーブルたちに襲いかかった。
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