108話 悪魔の願い
十本の糸が宙を舞い地面を大きく削る。
その跡から弾かれた糸がどれだけの威力を秘めているかが垣間見えるだろう。
元々のSTRに加えてラキから奪ったSTRで糸一本がそこらの戦士が大剣を振り回すのと大差がない威力を誇り、それが十本も正確にコントロールされている。
ラキは低下したSTRでは確実な致命傷を与えるには不十分だと守りに徹することで猛攻を防いでいた。
リオンのスキルの強力さから時間を稼げばすぐに効力が切れるとふんでいたのだが、これは完全に当てが外れていたといえる。
(10分以上耐えても元に戻る気配がないとは……永久というのはありえない。しかし、最悪の場合は一日経過しないとダメな可能性もあるか。最悪を想定して動くのならどこかで仕掛けるか、それとも……)
リオンもジャックも決して余裕があるわけではなく、余裕があるように精一杯振舞っていた。
下準備が相手に悟られることのないように。
攻め続けているのも倒すというよりも仕掛けに気づかせないようにだ。
長年、悪魔を狩り続けていたジャックは悪魔の狡猾さとしぶとさをよく理解している。
チャリックの大騒動で潜んでいた悪魔のほとんどが狩られた中、ラキは逃げ延びている。
どれだけ準備を重ねても無駄にはならないと考えるジャックのただならぬ雰囲気にリオンも応える。
クロツキの思いつきでの適当な采配ではあったが2人の相性は悪くはなかった。
これがジャックとオウカだったならこううまくはいかなかった。
なぜならオウカは正面からの戦闘を好み、互いに全力を出してぶつかり合うことを望む。
一方でジャックは敵を倒すためなら、何でもする。
ジャックの技の完成がもう少しで見えるというときに先にラキが動いた。
翼を大きく開いて広範囲への魔法を発動させる。
狙いなどつけていない炎の雨がそこら一帯に降り注ぐ。
煙と土埃で視界が悪い中でラキの勝ち誇ったような声が聞こえる。
「残念ながら、ここらで退場させていただくよ。この借りはいつか必ず返すから覚えておけ」
ラキは自らが飲み込んだモノが不完全だったことに憤りを感じながらも逃げの一手を選択する。
不完全だった理由は目の前の2人にある。
邪魔さえなければ完成していたはずで、後少しのところだった。
ラフェグが強大な力を有していたのは生命を吸い取ることができたからだ。
他者の魂を啜り吸収する。
自分にもできればより強大な力が手に入る。
しかし、それは叶わない。
ただただ口に入れるのと力を吸収するのでは全くの別物である。
あるとき、ラフェグを復活させてその力を活用するという団体が接触してきた。
団体の規模はいまだ見えず、知識も資金も狂気も申し分がなかった。
不完全とはいえラフェグの復活も叶った。
ラフェグを調べることで、魂の吸収の方法も目途が見えたところだった。
ライフイーターに生命を吸収させてそのライフイーターの核を抜き取り、集めて圧縮する。
そうしてできたのがアレだったのだ。
しかし、少しばかり生命の量が足りなかった。
今のこの核では穴の開いたコップのように力を使うたびに吸収したものが抜け出ていってるのが分かる。
悪魔としての自分の力に核が耐えきれていない。
また集めなおしになってしまう。
それでも命があれば次がある。
コツも掴んで生命の回収は今回よりも早くなるだろう。
悪魔に寿命などない。
2人への怒りを抑え、空を飛んで戦域から離脱しようとしたときだ。
体に衝撃と痛みが走る。
「……!? なんだっ?」
リオンもジャックも地上にいる。
しかし、衝撃は2人とは真逆からやってきた。
目の前には何もないし。何が起きたか理解できなかった。
「まさか、見えない糸か!?」
ジャックの糸はよく見れば微かにだが視認できる。
指一本に対して一本の糸を操るので合計十本の糸を自由自在に操れる。
そう勘違いさせられていた。
気づいたときには遅い。
ラキの周りには四方八方に糸が張り巡らされていた。
「操糸術・鳥籠」
「よくやったジャック!!」
「この程度の糸でオレを抑えれるとで思ったのか!! こんなものっ!!」
右腕に闇の魔力を込めて力任せに糸を振り払った。
……!?
ドサリと右腕が地面に落ちる。
「無駄だよ、鳥籠はそう簡単に破られはしない」
「なぜだっ!? 見えないほどの糸が俺の攻撃を防ぐどころか傷つけるだと……」
右腕が切断された痛みよりも不可解の方が優っている。
「バーカ、バーカ、お前はもう終わりなんだよ」
リオンが勝ち誇ったように煽りを入れる。
怒りで我を忘れたわけではない。
確かめないといけないと感じたから行動に移したのだ。
どちらにせよこのままでいるのはまずい。
尻尾を勢いよく糸があるであろう場所に当てると右腕と同じように地面に落ちる。
あることに気づく。
糸が微妙に振動している。
鳥籠は逃さないためだけの技ではなく、確実に相手を殺すための技。
時間をかけた分だけ強度と殺傷力が高くなる。
糸の結界を徐々に狭めていきラキを雁字搦めにした。
「ハハッ、面白い、俺が手玉に取られるとはな、先に地獄で待っておいてやる」
糸がラキをバラバラに解体して、怪しげに光る核だけを残して崩れていく。
「思ったよりも強かったな。となるとクロツキの倒したアレはもっとヤバかったってことか」
「アレは無理ですよ。このラキでさえリオンさんのスキルがあってなんとかですから」
「ふーん、まだまだ強くなれるってことだな。で、これはどうする」
リオンは生命を凝縮した核を持っていた。
「砕きましょう。それで解放されるはずです」
リオンは迷うことなく核を砕いた。
殺された生き物の魂や吸い取られた生命が解放されて、緑の亡くなっていた土地に若干の自然が戻った。
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