76話 敵は自分

「ハハハッ、じゃあそうは家出してみんなに認めてもらうために自らここに入ったのか」

「まぁ、そうですね」

「ここに詳しそうだな、俺は何も聞かされずに入れられたから、教えれる範囲で教えて欲しいんだが」

「僕の知ってることといっても聞いた話くらいしかないですよ」

「十分だ」

「ここから生還したら隠者として一人前に認められるんですよ。生還するためには一定期間生き延びるか、それとも徘徊するボスを倒すかのどちらかです」

「それで俺のことをボスと勘違いして攻撃してきたのか」

 どうやら胸糞悪い仕様は俺の勘違いだったようだ。

 なんかこういう裏の人間の修行って見えない場所に複数人を放り込んで殺し合わせるってイメージがあったけど話を聞く限りでは違うみたいだ。


「それはすみません。まさか中で他の人と会うなんて思っていなくて、たしかにボスとは特徴が全然違うんで気づくべきなんですが、なにせ強力な気を感じたのでてっきり敵だと思って……しかも飛暗天満ひあんてんまんを簡単に避けるなんておかしいですよ」

「あぁ、あのナイフを全方位から同時に飛ばすやつか。うーん、何というか分かりやすかったからな」

「一応、僕も超絶頂間近なんですけどね、ちょっと自信をなくしましたよ」

「超絶頂?」

「えーっと……超絶頂というのは、他国だと四次職前半ってとこだと思います」

「蒼は王国の人間じゃないのか?」

「違いますよ、僕の国は華林かりんです」

 はじめて聞いた国の名前だ。

 キャラクタークリエイトで初期リスポーンに設定できる選択肢にはなかった。

 グランシャリア王国、帝国サザンルギア、武国東梁天とうりょうてん、カナルディア法国、魔導王国ザツィオン、キーテン公国、ナーフナインズ連合国家、この七つを選択してその中からさらに地域を選択できる。

 ナーフナインズ連合国家なんかは三つの国で成り立っていて複雑なんだが、とにかく他にも選択肢以外の国があるのは知っている。

 特段不思議ではないが、仮にも無闇回廊は王国の中でもかなり特殊な場所にある。

 他国の人間がそこを見つけて、しかもかなり詳しいことを知っているのが不思議だ。


「すまない、初めて聞いた」

「仕方ないですよ、外交はほとんどしていないですから。あっても東梁天くらいですかね。東梁天は知っていますか?」

「それなら知ってるな」

 日本テイストで和風な趣があって結構人気が高い国だ。


「東梁天の隣にあります」

「東梁天から王国まで家出したのか」

「えっ、違いますよ、そっか……この黒点穴、王国ではなんでいうか知らないですけど、各地に入り口があって中では繋がってるらしいんですよ。といっても中で会うなんてことはないはずなんですけど」

 魔法やスキルを使えば空間を繋げることも珍しくないこの世界、こういう場所があっても不思議ではないか。


「ならそのボスとやらも2人で力合わせて倒せるんじゃないか」

「えぇ!? それってありなんですか?」

「いや、知らんけどできるならいいんじゃないか。というかお出ましのようだぞ」

「まさか、本当に……」

「ボスについては知ってるのか?」

「ボスは自分自身です」

 そういうパターンか。

 近づいてくるのは二つの気配、俺と蒼の分身のような存在。

 装備も全く同じだとは笑えないな。

 自分自身が敵ということはスキルも同じなんだよなきっと。


「ちっ、マジかよ」

 2人同時に俺狙い。


暗香飄風あんこうひょうふう、速度を上げる歩法です。気を付けてください!!」

「な、る、ほ、ど……」

 蒼の分身が一気に速度を上げ、俺の分身は隙を狙っている。


「くらえ、暗香蓊勃あんこうおうぼつ

 乱刀に似た技を蒼が放つとそれと同じ技を蒼の分身も放ち相殺する。

 その攻防を俺と俺の分身は見守っていた。

 思考はほぼ同じ。

 それぞれ横に並び、仕切り直し。


「自分の技を受けるというのは変な感じですね」

「俺はスキルで三つの武器を自由自在に出し入れできる。固定ダメージのナイフと影魔法が使えるナイフ、それと速度に応じて威力が上がるナイフだ。それから斬撃が伸びるから気をつけろよ」

 簡潔に戦闘の特徴を教える。


「……!? なるほど、複数の暗器を隠し持っていて気で操ることができます。全ての武器に毒が塗られているので、これを使ってください」

 すると蒼も意図を理解したのか同じように教えてくれて解毒薬を渡してくれた。


「迅雷」

 一言呟いて加速、蒼の分身を狙うと間に俺の分身が割り込んできた。


「まぁ、当然そうだよな、新しく得たスキルもお前には関係ないよな」

 アグスルトを倒して敏捷向上がランクアップした迅雷だが、実はランクアップ先が二種類あり、迷った末に俺はこっちを選択した。


 おっ、隣では蒼が不意打ちで俺の分身に攻撃しようとしている。

 飛暗天満だったか、糸がついてるわけでもなく、気でナイフを操る技術、他国の技も奥深いな。

 正面を俺が塞いでる分、高速でも避けれないように逃げ道を塞いだ配置だな。

 でもこれだと……


 蒼の分身が最低限のナイフを使って宙に浮くナイフを弾いて俺の分身の逃げ道を確保する。

 しかし、俺の分身はせっかく作ったそこを使わずに影踏で上から難を逃れたようだ。

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