26話 オウカ

 修羅の副団長であるオウカがステインを壊滅させた日にオウカはクロツキと初めて出会った。

 逃げるクロツキには追いつける気がしないし、追いかける気もさらさらない。

 ただ自らのスキルで荒野になった大地で1人立ち尽くしていた。


「帰るか……」

 来るときは大人数でワイワイとしていた。

 少しうるさすぎて嫌になっていたのだが、誰もいなくなって1人での帰路、それはそれで寂しく感じる。

 活動拠点になっている王都グランシャリアはアムルニッツのさらに先にある。

 まずはここからアムルニッツへ帰らなければいけないのだがオウカのステータスでは時間がかかる。

 来るときは仲間の1人の乗り物でやってきたが、その1人も見事に死んでしまった。

 アルムニッツで迎えを待つことにして、フレンドたちに連絡をいれる。

 フレンドとは全員が修羅のメンバーだ。


 修羅と名乗ってはいるものの、ただ人が集まってその団体に名前がついただけでクランを結成しているわけではない。

 ギルドが国営の集まりならクランは国認可の民間の集まりである。

 お得な特典が多数あってクランのランクが上がればその特典もよりいいものになっていく。

 しかし、未だにクランを作った来訪者はいない。

 クランを作るには国に多額の金を積み、拠点となるホームを購入しなければいけない。

 ここまでなら作れるものはいるだろう。

 だが、クランリーダーは四次職以上でなければいけないというのが難しい。

 難しいどころか来訪者の中にその領域に到達した人間は誰一人いない。

 オウカも難しいことは知らないが大まかには聞いていて団長ならすぐに四次職になるだろうと思っていた。


「みんなやられて一人なう。迎えにきて」

 通話相手は修羅の主要メンバーである3人。


「おう、お疲れさん。どうだったステイラの奴らは?」

「弱かったよ、団長はつまらないっていうと思う」

「なんだよ、それは残念だな。湖都ことかアートマどっちか迎えに行ってやってくんね」

「ウチは今立て込んでるんやけど……」

「どこにいけばいいのだ?」

「アルムニッツ」

「少し遠いな、時間がかかるがよろしいか?」

「まちぃな、誰も行かんとはいってへんやろ。すぐにこっちの用を済ましていくさかい、ゆっくりしとってなぁ」

「うん、ありがと」

 通話を切ったあと、のんびりとアルムニッツを目指して歩みを始める。


「むっ……」

 モンスターの群れが走ってきているのが見えた。

 挑発はかけていない。

 しかし、知能のないモンスターは近くにいる敵にすぐに攻撃を仕掛ける。

 結構な距離からこちら目掛けて一直線。

 近くに他の獲物がいないのだろう。

 人間の倍のサイズを悠々と超える巨体が四足歩行で駆けてくる。

 アルムいのししの群れはレストリアからアルムニッツへ向かう草原を走り回っているので滅多に出会うことはない。


「はぁ……」

 運がない、そう思いながらため息をついた。

 アルム猪は弱くはないが強くもない。

 ため息の理由はオウカの戦闘スタイルにある。

 職業、鎧巨人よろいきょじんはフルアーマしか装備できない。

 その代わりに鎧巨人顕現のスキルは強力で攻撃にも防御にも応用が効く。

 ただし、デメリットもある。

 まず、発動中に自身は動くことができない。

 戦闘になれば逃げることも追うことも難しい。

 向かってくるアルム猪を倒してスキルを解除、すぐに移動を始める。

 そうしないと無限ループになってしまうからだ。

 と思っていたらまた遠くから別のモンスターが襲ってくる。

 再び止まって蹴散らして、歩いて、モンスターに襲われてを繰り返してようやくアルムニッツに到着した頃には昼を大きく過ぎて夕方になろうかというところだった。


 アルムニッツに入れば鎧を脱いで街を悠々自適に歩く。

 戦闘時はフルアーマーのおかげで顔も隠れているし、体格も大きく変わっている。

 鎧を脱げば修羅の副団長だとは誰も気づかない。


 オウカはクロツキとの邂逅を思い出して過去と重ねていた。

 自身の尊敬するその人と出会ったときのような何かをクロツキから感じ取ったからだ。

 オウカはβテストからルキファナス・オンラインをプレイしていた。

 そこで一人のおとこと出会い、リリース後はその漢の戦闘スタイルを自分なりに追いかけた結果、今の職業に至る。


 βテストはリアルの友達と4人でパーティを組んでゲームを楽しんでいた。

 最初の頃は上手くいっていたのだが、徐々に3人とのズレを感じるようになった。

 3人は攻略を第一に考え、効率よく敵を倒すことを追求して職業もスキル編成も装備も全てが効率重視で選ばれていた。


 オウカとしては攻略第一なんて言ったって、ルキファナス・オンラインの謳い文句は自由なのになと思っていた。

 ただ、それで当時は難敵といわれたボス達を倒していたのだから特に口を出すこともなかった。

 今考えればβテストで正式リリースに備えて色々と検証していたのだろう。

 いつも通りにボス狩りをしていた4人だったが、なす術もなくパーティを壊滅させられてしまう相手と遭遇することになる。

 体長20メートルを超す巨大な白き虎『白虎びゃっこ』。


 あらゆる攻撃は純白に輝く毛皮に防がれ、鋭い爪の一振りで遠く離れた位置にいた仲間は斬り裂かれる。

 しかし、白虎の真骨頂は攻撃力や防御力、射程でもなくその速度だった。

 圧倒的な速度の前では目で追うことすら叶わない。


 気づけばそこには白虎と自分以外立っていなかった。

 自身も瀕死の状態で助かったのは重騎士という防御力に優れた職業だったから。

 強者の力の前ではチームワーク、連携など虚しく、1人残されても何もできない。


 白虎はゆっくりと近づいてくる。

 感じているのは圧倒的な恐怖。

 ゲームというのに現実と変わらない程のリアリティが魂に恐怖を刻み込む。

 死を覚悟して目を閉じたとき、走馬灯が走った。

 それはルキファナスの世界での経験。

 強敵だと思っていたモンスターをパーティのチームワークを以って倒すところ。

 ほんの0コンマ数秒の時間だった。


 走馬灯が消え眼前は真っ暗な景色が広がる。

 これがデスペナルティになったということなのか?

 違う、まだ生きている。

 真っ暗な世界は瞼の裏側を見ているからだ。


 オウカは目を開けると眩しい光と共に目の前に1人の漢が立っていた。

 漢は白虎の攻撃を素手で受け止める。

 武器は持たず重厚な鎧にも身を包んでいない。

 真っ白な特攻服の背中には漢の文字と龍の絵柄が入っていた。

 オウカはそこからの光景に魂が震えた。

 自分が求めていたのはこれだったんだと気づいた瞬間だった。


 漢は白虎に名乗りを上げる。

「漢字一文字、りゅうと書いて『タツ』と読む」

 オウカはかっこいいと心の底から思った

 何が起きているのかはよく分からなかった。

 終わった時には地に伏せた白虎の上で天に向かって拳を突き上げる漢の姿があった。

 その姿はボロボロで傷だらけだが、天が祝福するように光が漢に差し込んでいた。

 それだけでオウカには十分だった。


 そこからルキファナス・オンライン正式リリースと共にタツに誘われて修羅に入った。

 何を隠そう修羅の団長その人だ。

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