22話 次なる街を目指して

「ほんっっっと〜〜〜に申し訳ありませんでした。まさかこんなことになるなんて」

 冒険者ギルドで受付をしているフーラが涙目になって額を机に押しつけている。


「まぁまぁ、今回のことはしょうがないことだし、そんなに謝られても困るというか、やめてください」

 フーラはテンションが高くて声がでかい。

 こんなところを冒険者に見られたらまた変な噂が立ってしまう。


「調べたところあのギルド職員は新人冒険者を恐喝していたらしいですし、女性や子どもにも随分と乱暴をしていたようです。死んでくれて清正しました。天誅が降ったんですよきっと」

 冒険者は命懸けの職業だ

 大怪我を負うこともあれば二度と帰ってこない人もいる。

 フーラはとても逞しかった。

 そうでもなければ冒険者ギルドの受付なんて務まるはずがない。

 俺たちは軽い事情聴取を受けてギルド職員の死は俺たちに責任なしと判断された。


「フェイさんもイヴィルターズの一員だというではないですか。これは完全にギルド側の不手際ですよ。あの笑顔に騙されました」

「仕方ないよ。最初は俺も騙されてたわけだし、指名手配も出したんでしょ」

「はい!! 奴らは街に入ることもできないはずです!!」

 イヴィルターズの面々は困っていることだろう。

 来訪者はログアウトしたとしても肉体はこっちで眠ったような状態になるだけだ。

 街で宿でも取らないと安心してログアウトもできない。

 野宿など危険な行為である上に彼らはただでさえ多くの恨みを買っている。

 変装して街に入ろうとしても鑑定系のスキルを使えば正体はすぐにバレるため、今後の動きがかなり制限されるはず。


「じゃあそろそろ行くよ」

「クロツキさん、少し寂しくなりますが応援してます。頑張ってくださいね!!」

 今生の別れでもないがそれなりの寂しさは感じる。

 フーラには随分と贔屓にしてもらったものだ。

 ジャンヌやセバスにも挨拶を済ませて俺は新天地へと旅立った。



§



 森を抜ければ整備された道が見えてくる。

 それに沿って進んでいけば次の街に行くことができるのだが、気になるのはほとんど冒険者を見ないことだ。

 領都レストリアから次の街アルムニッツへ行くにはここを通らないといけないはずなのに不自然なくらいに人が少ない。


 まさか、ここまで過疎化してるなんてことあるのか?

 いや、それはないはずだ。

 実際にレストリアはまだまだ新規参入者で賑わっている。

 それに話題性というところでも各メディアでも取り上げられて知名度はかなり高いはず。


 なぜだろうと頭を捻りながら足を動かしているとようやく冒険者らしい団体を見つけることができた。

 しかし、3人と10人に分かれて争っているようだ。


 3人の方は和装に刀を持った男がリーダー、ゴツい鎧を纏った大楯のタンク役、後衛に魔法使いとバランスが取れたチーム構成。

 あの3人は割と有名でPKを潰すと宣言してPK狩りをしている『ステイラ』とかいうパーティだ。

 全員がはやくに三次職になった実力者たち。

 これまでも宣言通りに多くのPKを屠ってきている。

 侍の『虎徹』、重騎士の『ベルドール』、爆炎魔術師『サフラン』。


 彼らと相対するということは相手はPKなのだろう。

 見るからに柄の悪い奴らが10人。

 悪名高いイヴィルターズと並ぶPK集団『修羅』だ。

 特に目立つ副団長がその中にいては一瞬で分かる。

 フルフェイスで顔は見えないが特徴的な重厚感のある赤を基調とした鎧には炎の模様があしらわれていた。

 修羅の副団長『オウカ』、職業やスキルについては不明だが、その実力は広く知られている。


 オウカを除く修羅の面々がステイラに襲いかかった。

 オウカだけは見定めるように少し離れて戦闘を傍観していたが、決着はすぐつくことになる。

 9人は一斉にベルドールへと多種多様な攻撃を繰り出す。

 炎や雷、風の魔法での攻撃、大剣や片手剣、ナイフによる攻撃を受けてもベルドールは無傷。

 全ての攻撃が半透明の鉛色の壁によって阻まれる。


 ヘビィガードは戦士系統三次職の重騎士が覚えるスキルでその防御性能はみたままだ。

 ベルドールのVITを参照にしたヘヴィガードは9人の攻撃を受けてもびくともしていない。

 しかし、効かないと分かっていてもひたすらに攻撃を続ける9人。


 後衛のサフランを狙うと思ったが全員がベルドールを狙うのは予想外だった。

 大型魔法を警戒して後衛を狙うのが一般的なのだが。

 思っていた通り、サフランの大型魔法発動の詠唱が終わりを告げた時、上空から巨大な炎の球が落ちて爆発する。

 味方のベルドールごと巻き込んだはずだがベルドールは無傷。


 修羅側はなんとか1人が耐えて、2人は回避していた。

 それ以外は全員が焼け焦げ、光の粒子に変わっていく。

 なんとか残った3人も虎徹の刀で簡単に切り捨てられてしまった。


 傍観していた修羅の副団長オウカは仲間の全滅を見ても動こうとしない。

 フルフェイスの兜のため表情は見えないが焦る様子は皆無。

 その証拠に3人に向かって指でかかってこいと挑発をしている。

 そして、挑発した後、再び腕組みをしてその場で待っていた。

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