19話 メタモルスライム

「どうだ根暗野郎?」

 パーティの視線が俺に向く。

 全員が臨戦態勢で入ったのに部屋はもぬけの殻でモンスターの一匹も見当たらない。

 擬態しているスライムを見つけろというその視線が示すのは俺以外の誰もが気づいていない事実。


「周り全部がそうです。囲まれていますよ!!」

「「「ッ!?」」」

 部屋に入った瞬間に気づいた違和感はまず足元からだった。

 微かに感じる生命を辿っていけば答えは自ずと見えてくる。


「部屋そのものに擬態しているようです。どこから攻撃がきてもおかしくな……!? 全員飛べっ!!」

 何本もの尖った石柱が足元から飛び出してくる。


「ちぃぃ、スライム如きが舐めるなぁぁぁ」

 ギルド職員は槍で石柱を折って防ぐが、反応の遅れた魔法使いのアリサが肩に怪我を負ってしまった。


「光よ癒せ、ヒール」

 ジュンとニャン丸がカバーに入ってフェイが回復のスキルで傷を癒す。

 まだまだ攻撃の手は休む気配がなく壁や天井からも石柱が飛んでくる、そのときだった。

 後方からとてつもない熱を感じた。


「みんな下がって、燃えてはじけろ、ファイヤボール」

 炎の玉が壁に当たって大爆発を起こす。

 その隙に部屋から出ることができた。

 部屋だと思っていたそれはぐにゃぐにゃと形を変えて巨大なスライムが姿を表した。

 当初の目的であるメタモルスライム・ロックは大きく見積もっても人と近しいサイズのはずだった。

 それでも普通のスライムがサッカーボール程度のことを考えると十分大きい。


 目の前のスライムはたしかにメタモルスライム・ロックで間違いはないのだろうがサイズが桁違いだ。

 いや、もはや上位種に進化している気がする。

 しかし、そんなことを考えている余裕はない。

 大事なのはこの状況をどう打開するか。


 一旦仕切り直しでこっちはアリサの怪我も問題なく回復して陣形を立て直す。

 向こうも薄く伸ばした部屋の形から3メートルを越す丸い姿になって落ち着いている。

 アリサの放ったファイヤボールのダメージは見受けられない。


「ハァァァァァァ」

 ギルド職員がスライムに突っ込んでいった。

 スライムはハリネズミのように体を変形させて反撃に出る。

 何本かを槍で捌いても数が多すぎる。

 そのうちの一本が腹部に刺さりそうになる。


「主よ戦うものを照らし守りたまえ、守護のヴェール」

 フェイがスキルを発動させるとギルド職員を光が包み、腹部に当たった石柱は肉を貫くどころか逆に折れる。

 槍がスライムを大きく切り裂くとスライムは後方にジャンプして生えていた石柱を無差別に放ってくる。


「ちっ、悪あがきを」

 攻撃の真っ只中にいるギルド職員は守護のヴェールもあるし問題がない。

 俺も石柱を回避するだけなら特に問題はなかったが、今回はそうもいかない。


 さっきのファイヤボールよりも威力の高い魔法の詠唱を始めているアリサを守らなければいけないからだ。

 ジュンとニャン丸、そして俺がアリサの前に立ち塞がる。


「くっ……」

 ギルド職員が軽々と捌いていると油断した……

 石柱を受け止めたナイフがミシミシと音を立てる。

 光の加護がなければ衝撃で吹き飛ばされていてもおかしくない。

 大体俺が正面から攻撃を受け止めることなんて少ないからな。

 この戦い方じゃあほとんどのスキルが無駄になる。

 横目で見るとジュンとニャン丸は軽く弾いている。

 比べるのはやめよう。

 

「その炎は拡散し……」

 魔力の高まりが感じられ洞窟内の温度が上がる。

「敵を燃やし尽くすまで止まることはない、ファイヤトルネード」

 炎の玉がスライムに直撃し火炎竜巻を巻き上げてスライムを焼いていく。


「ハァァァァァァ、螺旋突き!!」

 アリサのファイヤトルネードが決まってから形勢は逆転、総攻撃を仕掛けてから暫くしてようやくギルド職員の一撃がスライムの核を貫いた。

 スライムの簡単な倒し方は体を保てなくなるまで削るか、核を破壊するか。

 スライムの部位で核が最も高価な部分なので余裕があるなら核の破壊は避けるべきだが、今回の依頼は討伐が目的だし、何よりもそんな余裕はなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、くそっ、お前らが使えないせいでこんなにも手間取っちまったじゃねぇか」

 全員が持てる力を振り絞ってなんとかメタモルスライム・ロックを倒すことができた。

 ジュンもニャン丸も身体中に傷を負って満身創痍。

 アリサとフェイはダメージこそ少ないものの魔法を連発したせいで魔力切れを起こし辛そうにしている。

 俺はというと……


「特に根暗野郎、てめぇはマジで使えなさすぎだぜ、ギルドに戻ったら覚えとけよ、マグレでモンスターを倒してランクが上がったようだが俺の報告で落としてやる。まぁ、もしそれが嫌ならそれなりの対価でも払ってくれれば許してやってもいいけどな」

 その目線は紫毒のナイフに向いている。

 まぁ、渡す選択肢はないが言いたいことは分からんでもない。


 俺も余裕がなくなって普段の戦闘方法にしたせいで無傷なのだ。

 それに比べてギルド職員は石柱が何本も体に刺さっている。

 あれでこんだけ元気なのが不思議なくらいだ。


「あまり喋らない方がいいですよ、少し待ってください回復しますから」

「ちっ、とっととしやがれ。テメェも途中からバフも回復も弱くなってたし、これだから使えない奴らは嫌いなんだよ」

 フェイがマナポーションを飲んでギルド職員に近づく。


「ッ!? ガハッ……テメェ……どういうつもりだ?」

 フェイの右腕がギルド職員の腹部を貫いていた。


「テ……メェ……何してるって、聞いてん……アッ……」

 ギルド職員が槍を振るうよりも早くにフェイの両手が頭を掴み首を捻る。

 それは決して回ってはいけない角度まで。

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