sixteen bullets 鼓動

 桶紙さんが歩いて自陣側へ戻ってきた。桶紙さんは俺に視線を向け、微笑む。桶紙さんの胸のプレートは光っていた。

「こちら椎堂。桶紙さんは戦線から離脱した」

「了解」

 ここまでで5対4。この後はどうするか。

 俺は前進する。右サイドの前方には石段の上から伸びるスロープがあった。どうやら桶紙さんはここから回り込んでいたようだ。俺はスロープを通り過ぎ、右サイドを突き進む。

「こちら臼井。上から敵陣の方を見てるんだけど、高さがないのもあってそんなに見えないや。敵は確認できない。前方に下りようと思うんだけど、石段の側壁のそばに隠れてるかもしれないから、両サイドからの確認をして」

 俺は止まり、石段の側壁の陰に隠れる。

「こちら椎堂。右サイドに敵はいない」

「こちら滝本。左サイドは私が確認します」

「了解」

 ここからは慎重な前進が求められるな。


「こちら椎堂。臼井、俺は進んだ方がいいか?」

「そうね。M、N付近までなら問題ないと思う」

「分かった」

 俺は石段の側壁の陰から動き出そうとした。

「待て! 椎堂」

 北原から強い制止が飛んできた。

「どうした?」

「滝本がやられた」

「滝本はまだ後ろだったろ」

「敵が後方から湧いてきた」

「こちら臼井。一条君もやられちゃった」

 臼井は荒い呼吸で知らせてくる。視線を振ると、石段を駆け下りていく臼井の姿が見えた。

 臼井はそのまま敵陣方向へ走っていく。俺も急いで敵陣方向へ走る。後方から弾がどんどん飛んでくる。すると、敵陣方向からも弾が飛んできた。体をよじって弾を避けていく。


 走りながら身を隠せる場所を探す。投石器が見えた。俺は急いで向かう。

 投石器と石柱の間に隠れ、前後から来る敵兵を確認する。俺の後方から追っていた敵の1人は、いくつもの石柱が並んだ真ん中の通りから俺を撃ってきている。

 俺は脚につけていたサブガンをホルスターから抜いて反撃していく。体を捻り、陰から出ないように撃つ。体勢はきついが、この状態でなければ被弾する可能性があった。


 前方の敵の1人は、石垣で作られた小さな倉庫の窓の外れた穴から撃ってきていた。

 前方の敵へ射撃をするには石柱にすり寄る必要がある。しかし、それをしてしまうと後方の敵に頭を晒してしまう。

 俺は銃を逆手に持って、顔を出さずに撃つ。やったことのない銃の撃ち方だったため、狙いが定まらない。俺の銃を持つ手の前で、敵の弾丸が地面を跳ねた。俺は反射的に手を引っ込めて跳弾を避ける。


 追い詰められた。この状況を打開するには北原の援護を待つしかない。それまで耐えられるかといえば、微妙なところだ。

「椎堂君。まだ生きてる?」

 臼井の声がインカムから聞こえてきた。

「ああ、なんとかな」

「臼井はどんな状況だ。とりあえずモノリスの窪みに隠れて耐え忍んでる」

「俺と同じだな」

 俺は前方と後方にいる敵に威嚇射撃をしていく。

「北原。まだ援護はできそうにないか」

「悪い。敵のスナイパーが私の射撃ポイントを張ってる。近づくにはハンドガンで接近するしかないけど、弾が詰まって撃てなくなった」

「強引な方法しかないか」

「じゃあ椎堂君、やっちゃおうか」

「は?」

 俺は何のことを言っているのか分からなかった。


「翔閃だよ。翔閃」

「アレは合理的な方法じゃない」

「でも、強引な方法じゃないと無理でしょ?」

「まあ、そうだが……」

「大丈夫。私の煽躍せんやくと椎堂君の翔閃なら、絶対いける!」

「せんやく……」

 俺は聞き慣れない言葉に苦い顔をする。

「お転婆モードのことだ」

「お転婆モードじゃなくて煽躍せんやくだよ。夏希ちゃん」

「もういいんじゃないか。それで」

「北原がやけくそになってどうする」

「たまにはいいだろ」

 耳に重いため息の音がかかってくる。

「じゃあ5秒で行くぞ」

「りょうかいっ!」

「援護は任せろ」

「ああ」

 俺は首肯し、深呼吸をする。

「5、4、3、2、1……GO!」

 俺は物陰から勢いよく飛び出す。俺は飛び出した勢いのまま自陣側方向にいた敵に銃を乱射した。敵は2列に並んだいくつもの石柱の1つに身を隠して、弾を避ける。

 俺は走るスピードを緩めることなく、敵が隠れている列の石柱に向かう。


 敵は上体を石柱の陰から出し、発砲してきた。俺は石柱の間を抜け、不規則に動き回っていく。敵の銃口は俺の動きについていけてない。敵の弾は俺を掠めもせず、固い物体に弾かれる。

 俺は不規則な動きで敵を翻弄し、距離を詰めていく。敵の呼吸が乱れ、焦っているのが分かる。俺と敵の距離が2つの石柱を挟んで1メートル半となった。あとワンテンポで勝負をつける。

 俺は左に逸れ、一瞬石柱の陰に隠れた。しかし、俺はそこから反転し、右へと動きを変えて敵の胸に銃を突きつけた。

「フリーズ」

 敵は銃を上げようとしていたが、俺の方が少し早かったようだ。敵は両手を挙げて降参した。

 俺は周囲を見回す。敵は右側の奥でたるの陰から銃口を上に向けて撃っている。敵の銃口の先には、石段の上の塀の陰から交戦している北原がいた。

 俺は北原が交戦している敵に向かって発砲する。俺の弾はわずかに狙いを外してしまう。敵は俺の発砲に気づいて後ろへ下がる。俺は追いかけていく。


 少し前進していくと、両サイドに枯れたため池のある広場のような場所に出た。そこでは臼井が縦横無尽に動き回り、敵をあざ笑うかのように弾を避け、敵に発砲している。

 臼井は隠れることもせず、ただひたすら華麗に舞い躍っていた。

 入り乱れる弾丸の中を避け続ける臼井は楽しそうに笑っていた。俺は物陰から狙いを定める。すると、舞い躍っていた臼井が俺に視線を向けてきた。

 瞬間、俺は何かに吸い寄せられる感覚に陥る。気づいた時にはもう駆け出していた。

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