fifteen bullets パーティタイム

 作戦会議を終えた俺達は円陣を組んだ。

「それじゃ、最後のパーティーをやりましょうか。Let's enjoy!!」

「「「「「「「go ebums!!」」」」」」」

 ありったけの叫びを上げ、俺達はフィールドに向かう。


 引率するイベントスタッフが扉を開けた。俺達は中に入り、薄暗い周囲を見回す。古ぼけたレンガ造りの遺跡の建物や石碑が置いてある。それらは天井から真っすぐ降り注ぐライトに照らされている。

 かなり本格的に作られているようだ。床も石畳や砂利が敷かれており、歴史的な雰囲気を醸し出している。

 俺達は弾倉を銃に装着し、ゴーグルをつける。


「さ、どう出る? 北原」

 俺は今回の試合のリーダーである北原に指示をう。

「一条をトップに置いて、その後ろに未生。未生の左右に桶紙さんと椎堂。3人の少し後方に滝本を置く」

「ダイヤモンドダストか」

「ああ」

「じゃ、みんな位置についてくれ」

 俺達はゆっくりポジションにつく。俺はセーフティを外した。微妙な緊張を感じながら試合開始の合図を待つ。

「両チームの準備が整いました。これより決勝戦を開始します。カウント5秒前、4、3、2、1……」

 試合開始の鐘の音がインカムから聞こえ、俺達は前進し始めた。


 文字が刻まれた石柱の間を進む。見通しはそれほど悪くない。

 しかし、小さな建物や石柱などの障壁は不規則に配置されており、動き回るには注意しなければならないようだ。砂音を小耳に挟みながら、静かなフィールドの奥に耳を傾ける。

 すると、前方から弾が襲ってきた。俺はしゃがんで避ける。すぐさまレンガ建屋に身を隠す。間一髪だった。

「椎堂だ。F地点で前方から射撃された。みんなも気をつけてくれ」

「敵の位置は分からないの?」

「分からない。だが、相当遠くから撃っていると思う」

「敵が近くに来ているんじゃないんですか?」

 一条が疑問を呈す。

「いや、弾に伸びがなかった」

「分かったわ。みんな敵が見えなくても警戒してね」

 臼井がみんなに警戒を促す。敵のスナイパーは少なくとも50メートル以上離れているはず。

 だがそれほどの飛距離を飛ばせるペイントシューターの銃なんて早々ない。おそらく、狙撃に特化した銃を使用していて、使用者もスナイパーの動きを熟知している。相当な強者だろう。

「こちら一条。O地点付近から敵が1人接近中。左に動いてます」

「武器はハンドガンかしら?」

 レフトサイドにいる桶紙さんが詳細を聞き出す。

「いえ。おそらくサブマシンガンでしょう。ただ予備の銃サブガンを持っているかもしれません」

「そうね」

「じゃあそろそろ準備しますか! いいかな一条君?」

「はい」


 俺は少し歩くスピードを上げた。壁から迫り出した柱まで突き当たり、柱の陰から周囲の様子をうかがう。

 2体のライオン像が石柱の上で口を開けている。人が隠れるには細過ぎる。2体のライオン像の間の道には石畳が敷かれていた。どうやら重要な跡地の風景を模しているようだ。

 少し奥で敵の影が慌ただしく動くのが見える。敵も攻撃態勢に向けて準備に入っているみたいだ。

 俺はここで一時待機することにした。自陣側へと視線を振る。すると、臼井が一瞬天井から降り注ぐ光の中に入って薄暗い空間に消えた。光に入った瞬間、臼井がまた汐織と重なって見える。


"回りくどい方法ばかり選んでる気がするから、本当は鉛を取りたいなんて思ってないんじゃないかってな"


 北原からの問いが甦る。未練を消し去りたい。未練を忘れ、踏み出さなければならない。苦しみから解放され、次へと進むために。

 でも心の底ではそれを望んでいない。北原にはそう見えるのか。

 敵陣方向から飛んできた弾が俺の視界を通り過ぎた。それを機にどんどん弾が飛んできている。俺を標的にしているわけではないようだ。ⅢからⅣの辺りから集中して飛んできている。

「椎堂さん。桶紙です。左に少し移動してもらえますか? できるだけ敵に注意を向けるように」

「後方に少し移動しても問題ないですか?」

 俺はインカムで連絡を取りつつ周りの警戒を怠らない。

「はい。敵に注意を向けられれば問題ありません」

「分かりました」

 俺は敵の様子をうかがう。

 中央付近に2人の敵が石段近くの塀の上から銃口を伸ばして撃っている。標的にされているのは一条と臼井だ。

 臼井と一条も負けじと隙を見て撃っている。左サイドから2人ほど敵が前進していた。

 俺は息を1つついて、柱の陰から飛び出した。左サイドから前進している敵に向けて乱射しながら、石積みのモノリスに走り込んだ。


 俺はモノリスを背にして屈める。体を小さくして弾が当たらないようにする。

 角度的にはギリギリで、俺のすぐ近くの地面や壁画に当たり出す。すると、自陣方向の奥から弾が乱れ飛んでくる。サブマシンガンによる乱射。滝本さんだろう。

 戦況は息つく暇もない。一条と臼井が飛び出した。俺は左サイドの敵を撃とうとする。しかし、左サイドの敵の1人はすでにやられていた。もう1人は物陰に隠れているようだ。

 俺は一条と臼井に当たらないように注意を払いながら撃った。その時、俺の視線の前を疾風のような走りで桶紙さんが横切っていく。俺は驚きのあまり銃を引っ込めた。桶紙さんはさすがと言うべきか、雰囲気に似合わずおもいっきりがいい。

 石段の上段近くの塀に隠れていた2人の敵は、迫りつつある臼井と一条を察知し、塀の横から銃を伸ばした。石段の上段近くの塀から撃っていた敵が、突然銃口を後方に向けた。

 すると、塀から1人の敵が立ち上がり、手を挙げる。もう1人の敵は左に逃げていく。

 一方、臼井と一条はスリーオンバックバレットTOBBをすることなく、石段の上段辺りの側壁に身を隠していた。どうやら作戦は成功したようだ。


 TOBBは敵チーム【ブラントン】がモニターで見ていた。つまり、必ず対策を打ってくる。それを逆手にとって見せ弾にしたのだ。

 TOBBの最大の特徴は予想しない動き。予測されてしまっては効果は激減する。飛び上がる臼井と伏せる一条、奥から狙う北原。第1試合と第3試合でそれを見せていた。

 印象づけるためにあえて同じ方法を取っていたとしたら、北原もかなりの策略家だ。そして今回の試合で形を変えた。

 TOBBをする兆候を見せ、前方に注意を向ける。臼井が飛んだ瞬間、相手は必ず臼井一点に絞って撃ってくるはずと予測した。


 これまでの試合を見て、キル数とターゲットインゲージサバイバル率TIS率——敵からターゲットにされたプレイヤーが逃げおおせる回数を確率で表したもの——が高い臼井は、敵にとって厄介なはずだ。

 前もって桶紙さんが強引に後ろに回り込み、臼井を狙っていた2人の敵を撃たれる前に倒す。

 これもまた、ギャンブル性に富んでいる。後ろへ回り込むプレイヤーが、臼井と一条に気を取られている敵プレイヤーを始末する前にやられてしまえば終わりだ。また後ろへ回り込む導線を確保するサポートも重要になってくる。それを俺が担ったわけだ。

 この方法はかなりの練習回数を要した。タイミングが必殺級に難しい。ペイントスクエアの常連の木島さんや遠藤さん達にお願いをして相手役になってもらい、練習を重ね、一定の再現性を確保した。

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