seven bullets 浮気疑惑
紹介を終えたのを皮切りに、今日の本題に入った。
「今日も試合ですか。今8人いますから2人残っちゃいますね」
児島が早速聞き出す。
「だから、2人ずつ分ける」
「え?」
北原の発言に児島と新内、滝本さんが戸惑う。
「2人セットでランダム申請して、他のプレイヤーとの即席チームで戦う」
俺が追加で説明する。今日の試合のやり方は事前に北原と話し合って決めていた。
「じゃあ、場合によってはお互い戦うこともありますね」
「そうだ。試合の中で他のプレイヤーの行動傾向や試合の流れを読めるようになれば、判断の速さが培われるはずだ。他のプレイヤーのいいところも見えてくるし、いい刺激になる」
「分かりました!」
児島はやる気を見せるように声を上げる。
「ペアはすでにこちらで決めてる。臼井と桶紙、私と児島、椎堂と滝本、新内と石砂だ」
「え、北原さんと」
「何か問題でも?」
北原は不満げな児島に鋭い眼光を向ける。
「ありません」
「よし、じゃあ申請用紙をそれぞれ書いてくれ」
北原から紙を受け取り、俺達はエントリーシートに書いていく。北原はそれぞれ書き終えたエントリーシートを集めた。
「じゃ、出番まで待機だ」
北原はカウンターに向かっていく。
「臼井さん、大丈夫ですか?」
滝本さんは心配して声をかける。
「うん……」
臼井は元気のない返事を返す。
本当にどうしたんだか。俺は臼井の様子を気にしながらも自分の順番を待った。
俺達はそれぞれ5回ずつ試合を行った。俺は試射場で調整をしつつ、他のメンバーの試合をモニターで見たりして、試合の出番待ちの間を有意義に過ごす。
新メンバーの桶紙さんは俊敏性に不安を残すが、射撃場所の位置取りや敵の死角をつく空間把握に長けており、試合回数を増すごとにそれは顕著になって洗練されていくのが見て取れた。
一方、石砂さんは体の大きさが仇となって隠れても体がはみ出てしまい、キルされる様子が見受けられたが、銃の扱いには慣れているようで、弾倉の交換や照準を合わせる速さはなかなかのものだった。北原はそこを買って石砂さんを勧誘したんだろう。
俺達は試合を終え、まったりとティータイムを行うことにする。俺と北原、新内はみんなの飲み物を買うため、カップ自販機の前にいた。お金を入れて、飲み物が入るのを待つ。
「北原様、臼井さんはいつからあんな感じなんですか?」
新内は仏頂面で聞く。
「1月の後半辺りからずっとあんな感じだ」
「避けられてるのか?」
新内が聞き始めた流れに乗って俺も聞いてみる。
「避けられてるのとは少し違うんだよなぁ」
北原はため息交じりに話す。
「昼飯を食堂で食べてたら他の社員を使って一緒に食べようとするし、帰りは私の後ろをついてくるし」
「なんですか、それ……」
新内は訳が分からないといった反応を示す。
「さあな。ま、ほっとくしかないだろ」
北原はカップを取り、臼井達がいるテーブルに歩いていく。俺はテーブルに戻る短い道中で臼井をまじまじと見つめる。
臼井のプレーに問題はなかった。ただいつもの積極性がない。元気もないが、普通に他のメンバーとは話している。分からない……。
俺達は席についてお疲れの乾杯をした。俺は飲みながら臼井の様子を盗み見る。陰のある表情で飲んでいた。俺も少し話してみるか。
「なあ臼井。この前の合宿の時に借りたお金を返したいから、いくらか教えてくれ」
「……」
え、俺も……?
「おい、未生」
北原の声にも反応しない。
「臼井さん?」
桶紙さんも苦笑しながら優しく声をかける。
「未生、いい加減にしろよ。これから大会もあるんだ。リーダーのお前がそんなんじゃ、チームの足並みが揃わなくなる。言いたいことがあるならはっきり言え!」
北原は低い声色で語気を強めた。
臼井は遠慮がちに視線を上げて北原を見つめる。臼井は泣きそうになっていた。
「夏希ちゃんだって、言ってくれなかったじゃん……」
「なんの話だよ」
「夏希ちゃんは、浮気したんだよ」
「……は?」
臼井のすっとんきょうな発言は北原の意表を突いたようだ。思わぬ話が飛び出てきたことにより、一気にざわついた。
「夏希ちゃんが浮気したぁ~!!!」
臼井はテーブルに両腕をついて顔をうずめた。
「ちょっと待て! 私が誰とも付き合ってないのはお前が一番知ってるだろ。なんだよ浮気って!?」
北原は急な話に戸惑いながら説明を求める。臼井は泣きやみ、体を起こした。
「私と椎堂君、そして夏希ちゃん。あの日、たまたま2人が同じ方向の帰り道で、一緒に帰ったよね!?」
臼井は涙目で詰め寄る。
「ああ……」
「その後、2人は私に隠れ、ぐすっ、熱い夜を過ごしてたんだよ~~~!」
臼井は目元を押さえる嘘くさい仕草でわんわん泣き出した。
「おいっ」
さすがに俺はツッコみたくなった。その当人は隣にいる桶紙さんに頭を撫でられ、甘えるように抱きついている。
「え、ってことは……椎堂さんと北原さんって、つ、付き合ってるんですかあ!?」
児島は動揺しながら聞いてくる。
うわ、これって……。
俺は渦中に呑まれていることを自覚した。
「何もない。普通に飲んでただけだ」
「嘘だ。絶対なんかあった!」
臼井は立ち上がって真っすぐ伸ばした指を差してくる。
「人目もあるから落ち着きましょう。臼井さん」
桶紙さんが苦い顔で臼井を
「ちょっと話したかったことがあったから話してただけだ。次の日も仕事だったし、私も途中で思いついただけだったから誘いそびれたんだよ」
北原は妙な言いがかりを受けて心底疲れた様子で取り繕う。本当は臼井がいると話しづらかったからだろう。しかしそれを言うとまた食いついてくるのは目に見えているから言わないのだ。
「三角関係ですか?」
「違う!」
北原は滝本さんの興味ありげな問いにすぐさま否定する。
「北原さんと臼井さんがそういう関係だったとしても。いいえ、むしろ女の子同士がそんな関係だったという方が燃えますよねぇ」
滝本さんは勝手に妄想を膨らませ始めた。
「椎堂さん……」
くぐもった声が隣で聞こえてくる。視線を振ると、怒りに満ちた新内が俺を睨んでいた。
「貴様……北原様に何をしたあああーー?!!」
新内は俺の胸ぐらを掴む。
「吐けぇ!! 洗いざらい吐いて詫びろ! 土下座して詫びろおぉ!!!」
荒ぶる新内は胸ぐらを掴んだ手で俺を揺らす。
「本当に何にもないって、今後の予定とか話し合ってただけだ」
「こ、こ、今後の予定……だとっ!? まさか貴様、すでに北原様とそこまで先を見据えているのか!?」
絶望と驚愕を織り交ぜた新内の様子は、魂が抜けそうな勢いだった。
「うわぁ~北原さん、椎堂さん、おめでとうございますぅー!」
瞳をキラキラさせた滝本さんが援護射撃を開始する。北原が滝本さんの両頬を掴んで引っ張った。
「いだいいだいいだいです~~~~!」
「酷いですよ椎堂さん。僕より先に女性をゲットしてしまうなんて……」
児島は
「やっぱり椎堂さんってモテるんですねー」
「あのな……」
もうめんどくさくなってきた。周りの好奇な視線を浴びながらティータイムは荒れに荒れていく。俺と北原は収集をつけるのにかなりの時間を要したのだった。
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