six bullets チームの異変

 大会申請期限が過ぎた。メンバーは9人で参加することに決まりそうだ。

 結局、加納からエヴァンスチームに入ってくれそうなプレイヤーを紹介されることはなかった。まあ、あまり期待してなかったからいいけどな。

 2月に入って少し経ち、俺達は新メンバーとの顔合わせも兼ねて集まることになった。場所は臼井と北原が活動拠点にしているレビットパークだ。俺達はレビットパークの大テーブルを囲む。

「今日はこれで全員だな」

「あれ、一条君とハリーは?」

 ハリー……?

 俺は度肝を抜かれる。おそらく、梁間のことだろう。

「一条は大学、梁間は仕事だ」

 北原は自然に答える。

「こればっかりは仕方ないですね」

 滝本さんは眉尻を下げる。児島が梁間をと呼んでいることをみんな知っていたらしい。児島がハリーと呼ぶことをまだ飲みこめていないが、話はどんどん進む。


「それはそうと、滝本さんはなんで制服なんですか?」

 児島は目をキラキラさせて興味津々に尋ねる。

 滝本さんはいつもの無地のタートルネックとストレッチパンツではなく、どこかの学校の制服を着ていた。

「ほら、今ガンアクションの映画やってるじゃないですか」

「ああ、CMなんかでもやってますね。高校生達が繰り広げるガンアクションでしたっけ?」

「JPSUが協賛してる関係もあって、どこの施設でもタイアップしてるんです」

 新内はそう付け加える。

「ってことはコスプレか」

 俺はやっと話に合わせる余裕ができる。

「はい。ちょっと着てみたくて」

「滝本さん、似合ってます!!」

 児島は本当に嬉しそうで、親指を立てて目を輝かせていた。


「ふふふふふっ、とても楽しい雰囲気のチームね。ちょっと学生時代に戻った気分だわ」

 みんなのやり取りに微笑ましく語る女性。おしとやかでどことなく色っぽさを感じさせる。

「こちらは桶紙愛華おけがみあいかさん。シューティングスタイルはハンドガンとサブマシンガンだ。全国大会にも出場経験がある」

 北原が新メンバーとなる女性を淡々と紹介する。

「若い頃だけどね」

「あの……失礼かもしれませんが、おいくつなんですか?」

 児島の目が下心に揺れている。

「28です」

「あんまり変わらないですね」

 滝本さんはニッコリと人当たりの良さそうな笑みで迎える。

「ふふっ、よろしくね」

「よろしくお願いします」

 やっぱり年上か……。

「桶紙さんは家庭のこともあるから、全練習参加というわけにはいかない」

「家庭のこと?」

 滝本さんは首を傾げる。

「私、子供がいるから」

「へ?」

 児島は呆気に取られる。

「お子さんがおられるってことは、もうご結婚されてるんですね」

 新内もちょっと意外そうな様子で聞く。

「ええ」

 結婚した女性がペイントシューターをやってるのは珍しい。昔は相当体育会系だったのだろうか。


「で、こちらが石砂雪いしずなゆきさん。サブマシンガンが主だが、大体なんでも使える」

 少し太めの男性のようだ。機動性に関しては少々不安がある。

「よろしくお願いします」

 石砂さんは小さな声で離す。

「石砂さんはペイントシューター歴長いんですか?」

 滝本さんは質問を投じる。

「いえ、この前北原さんにルールを教えてもらいました」

 俺達は唖然とし、北原に同じ疑問が投げかけられた。

「そういうことだ」

 察しろ! という暗黙の思念が聞こえてきた。


「まあ、この時期では仕方ありません。経験者はもうチームに入ってるでしょうから」

 新内はフォローしているようだが、遠回しに足手まとい感が言葉に滲んでいるように思う。

「でも、サバゲーはしたことあるんじゃないですか?」

 滝本さんはどうにかストロングポイントを引き出そうとする。

「いえ、サバゲーをしたことはありません。FPSくらいです」

 ゲームかよ……。

「ま、まあ、FPSやったことあるなら、シミュレーションはばっちりってことですからね。分からないことがあれば僕が教えます!」

 児島は自分の胸を叩いて、先輩風を吹かせる。


 とりあえず、このメンバーで関東大会を戦う。忙しくなりそうだな。

 俺がこれからどういうメニューを組もうかと頭を悩ませようとした時、不自然さに気づく。俺は視線を振る。臼井は拗ねたような表情で俯き、悲哀の雰囲気を漂わせてだんまりしていた。

「臼井は最近機嫌が悪いんだ。そっとしてやってくれ」

 北原は呆れた様子で気にしていた俺に報告してくる。

「喧嘩でもしたんですか?」

 滝本さんは心配そうに聞く。

「いや、そういうわけじゃないんだけど、聞いても答えないんだよ」

 北原は手を焼かせる臼井が隣にいることもお構いなしに文句を垂れる。

 臼井は不満げな目つきで北原を一瞥いちべつするが、プイッとそっぽを向いてしまう。ひとまず放っておくしかないとの判断で、石砂さんと桶紙さんに俺達の紹介を続けた。

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