twenty two bullets キツネ狩り

 午後2時。俺達はJPSUプレイカンパニーの試合場にいた。

 午前は自主練に励んだ。本当は午前に試合形式でやろうとしたが、二日酔いが想像以上に児島と梁間のスキルに影響して練習にならず、自主練に変更された。主な症状を言うなら、真っすぐ走れないで壁にぶつかる。弾倉を手から何度も落とす。安全装置のオンオフを切り替え忘れる。

 試合どころではなくなったため、やむなくリーダーの臼井が、午前は自主練と告知した瞬間、児島と梁間はトイレに駆け込んだ。おそらくリバースしたんだろう。そして、今に至る。

「じゃ、キツネ狩りするよー!」

 足を組んでパイプ椅子に座っている臼井は、前に俺達を横一列に並ばせ、お土産屋で買ったご当地メガホンを手に宣告する。

「なんだ。この状況は?」

 北原が早速ツッコむ。

「いや~、リーダーなのにリーダーっぽいことしてないなぁと思いまして」

「監督ですねぇ」

 滝本さんはなんだか楽しそうだ。

「そう。監督! 一日監督です! ふんすっ」

 臼井は鼻息を荒くして、威張るように胸を張る。

「で、ワンデイエセ監督様はこれから何を?」

 北原はうんざりした雰囲気を隠すことなく問う。

「キツネの順番を決めようと思います!」


 臼井はキャリーバッグから厚い紙を取り出し、紙の端に空いた穴と出っ張りとを嵌め込んでいる。臼井は夢中になって組み立てていく。その間、俺達は待たされるようだ。

「できた!」

 臼井はパッと明るい表情になって俺達に見せつける。正立方体の箱だった。上面には穴が空いている。それを見て、どういう決め方をするのか全員が察した。

「くじ引きかよ……」

 北原はため息交じりに零す。

「もしかして、入院中にこれ作ってたのか?」

 俺も呆れた視線を向ける。

「だって暇だったんだもん」

「あの穴が排水溝に見えてくる……」

「僕も……」

「おい」

 また催している児島と梁間を注意する。

「これでもリーダーとして、嗜好を凝らした合宿を楽しんでもらおうとしてるんだよ」

「階段から転げ落ちないように嗜好を凝らせ」

「ダメ出しは精神的に来るよ! これでも退院したばっかの元怪我人なんだよ!?」

 臼井はみんなの態度に不満げな様子だった。

「はいはい。じゃあ私から引くな」

 北原が先に箱の中に手を入れる。


 キツネ狩り。もちろん本当にキツネを狩りに行くわけじゃない。

 キツネ狩りは1人のキツネ役を決めて行う1対複数のゲームだ。勝敗は殲滅戦と同じで当たったら負け。圧倒的にキツネが不利なため、見応えはほぼない。結果は予想できるからな。

 だが、実際の試合で囲まれた時の感覚がキツネ側では養える。また、未然に危険を回避する感覚も同様だ。

「さ、椎堂君も」

 俺はこの控室に来るまでやるつもりはなかったが、臼井に突然見本がほしいと言われ、それに同調した梁間と一条が乗り、その空気を読んで全員が納得した結果、俺もやる流れになった。

 俺は渋々臼井に歩み寄る。凄く楽しそうに待ち受ける臼井が持った箱の中に手をいれる。折りたたまれた紙を引いて開く。

「3番だ」

 俺は臼井に渡す。臼井は3番と書かれた紙にボールペンで俺の名前を書き、モニターの置かれた小さな机に並べる。


 それぞれ順番が決まり、ゲーム開始の準備が整った。

「さ、始めましょうか」

「最初は僕ですね」

 一条は余裕げな笑みを浮かべる。

「自信満々ですね」

 新内は一条の醸し出す雰囲気を口にする。

「キツネ狩りをすると聞いて、密かに対策を考えてました。それを試せるいい機会です」

 一条は含み笑いを残して控室を出ていった。

「一条君、ダークだね」

 臼井は閉まったドアを見つめて、ぼんやりと感想を呟いた。


「今回のリーダーは私じゃない方がいいだろう」

「え、北原さんやらないんですか?」

 ちょっと回復気味の児島はあからさまに動揺する。

「やりたそうだな」

「いえ、そんなことは……ない、ですよ」

 児島は視線を逸らしながらたどたどしく言うも、時折投げる視線が目につく。

 めちゃめちゃやりたいんだな……。

「じゃあ他にやりたい奴はいるか?」

「北原様、この新内聡に指揮官を任せていただけないでしょうか」

 いちいちひざまずくんだな……。

「じゃ、1と2な」

 北原は先に児島を指差して、次に新内を指差した。

「「え」」

「新内は次のゲームでリーダーをすればいいだろ」

「ありがたき幸せ」

 新内は凛々しく感謝する。

「し、仕方ありませんね。どうしてもって言うなら、やってやらないこともないですよ!」

「めんどくさいから嬉しいですって言えよ」

 梁間は冷めた表情で児島に言い放つ。

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