fourteen bullets つきまとう死の予期

 俺はモニターを滝本さんの視点に切り替える。滝本さんは物陰に身を屈めながら撃っていた。敵陣の近くの階段に迫っているらしい。

 左右に2つの階段があり、階段手前にある壁の影から、敵がチラチラと見えている。まだ関門を突破するには厳しいようだ。

 今までずっと階段の手前に視線を投げていた滝本さんが後ろを向いた。後ろから2人の影。

「臼井さん、背後から敵襲です!」

 臼井と滝本さんは左に逃げていく。

「出た!」

 児島は興奮を滲ませて言葉を零す。

「ああ、ずっと見かけなかった2人の敵だ」

 銃弾が乱れ行く中、臼井と滝本さんは走り抜けていく。2人の敵は臼井と滝本さんを追う。滝本さんと臼井は身を屈めながら発砲する。

 しかし、滝本さんのサブマシンガンは引き金を引いても出なかった。弾が切れてしまったようだ。弾倉を取り換えている時間がないのは画面越しにでも分かった。

「こちら臼井。一旦退く」

「了解」

 北原が了解する前に、マイクがちゃんと舌打ちを拾う。


 臼井と滝本さんはなんとか弾に当たることなく、ダクトの裏に隠れ乱射していく。追ってきた2人の敵は鉄の塀に身を隠し、臼井と滝本さんの反撃を逃れる。

「相手もしぶといですね」

 児島は息詰まる交戦を映すモニターを食い入るように見つめる。

「ああ」

 敵の胸についている番号プレートが白く光った。

「こちら滝本。敵を1人キルしました」

 臼井と滝本さんを追っていた残り1人の敵は退いていく。

「追い込みをかけますか? 臼井さん」

「いや待って。スナイパーが狙ってる!」

「っ!」

 カメラが何かにぶつかる音を拾う。

 滝本さんの番号プレートが光った。滝本さんはキルされてしまったようだ。

 俺は臼井の視点に切り替える。臼井は後ろを向く。敵が来ていた。臼井は前方の2階の右に行く通路を駆け抜ける。臼井に照準を定めて構えていた2つの階段にいた2人の敵は、階段の上段から姿を消していた。

 臼井は後ろから追ってくる敵に向かって発砲する。しかし、追ってくる敵には当たらない。細身の金髪ドレッドの男のように見えた。梁間をフリーズコールしたチャラい男だ。

 チャラい男はハンドガンを持った手を伸ばして撃ちまくる。臼井はトリッキーな動きをしているからか、チャラい男の弾は当たらない。臼井は敵陣のフラッグからどんどん遠ざかっている。

「こちら新内。一条さんもやられたようです。北原さんが出向きます。臼井さん、少し耐えてください」

「オッケー」

 臼井はアクロバティックな身のこなしで中間地点となる階段に向かう。

 臼井が階段の段差に足をかけた時、臼井の視点が激しく揺らいだ。

 カメラの視界が回転し、物々しい音を響かせる。カメラの視界が冷たそうなコンクリートの床に寝そべった。

 床に横たわっている臼井の手がモニターに映っている。熱さを増していたはずのフィールドが一気に凍結していく。

「臼井さん!!!」

 試合場からドアを通過して聞こえた滝本さんの悲痛な叫び声は、俺達のいる控室にも聞こえてきた。


「臼井さん……」

 児島の声は焦燥に落ちていく。俺は握り潰されそうな気持ちに急かされ、控室を飛び出した。

「試合を中断します……っ」

 マイクを通したスタッフの声がフィールドに響き、マイクに何かがぶつかったような音を出して切れた。

 緑や赤のライトが照らす機械だらけの通路を走り抜ける。狭い通路を走っていく中、俺は汐織のことを思い浮かべていた。


 思ってもみない出来事で、不意に別れがやってくる。

 あの恐怖がダブって、また俺の前に現れた。這い上がってくるような寒気が全身を駆け巡る。


 なんで、なんで、なんで……!


 とりとめもない言葉が頭の中を反すうする。悔やんだところで解決しようがない。それでも、自問したくなってしまう。


 あの時、もっと何かできたんじゃないか……。

 何かしてあげるべきだった。

 何も、してやれなかった。


 俺は群がる人を視界に捉え、走りを止めた。

 涙目で呼びかける滝本さん。その横で、目の前で起こったことを否定したいと叫ぶかのように、臼井に返答を求める北原。

 階段の上では、金髪ドレッドの男が「何もやってねぇよ」と仲間に狼狽うろたえている。


 そして……。

 目を固く閉じて、動く気配を見せない臼井が床にぐったりと倒れていた。

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