thirteen bullets シミュレートサブルーム

 俺はモニターを一条さんの視点に合わせる。

「こちら北原。梁間がやられてる。一条。よく注意して進め」

「了解」

「こちら滝本。先ほどから交戦していた敵1人をキルしました。進入します」

「了解」

 一条さんは後ろを時々警戒しながら進んでいく。一条さんはしゃがみ、楕円の水圧ポンプ機械を背にし、梁間がやられた左方向を警戒する。

 すると、一条さんは銃を左方向に発砲しながら前進する。入り組んだ通路を走り抜ける。一条さんの体をすれすれで抜けていく弾が壁や物陰に当たる。一条さんは追われているようだ。

「こちら一条。敵は1名。K地点から敵陣地に進行中。敵も追ってきてる」

「こちら北原。応援を向かわせた方がいいか? 一条」

「いえ、多分大丈夫です。構わずフラッグ奪取に向かわせてもらって結構です。足止めにはなるでしょう」

「了解した」

「こちら臼井。L地点にて2人の敵兵を確認。現在交戦中」

「了解」


 俺はモニターを北原の視点に切り替える。2階を映しているようだ。

 見渡しは1階よりもよく、スナイパーにとって絶好のフィールドになっている。1階への注意も払っているようで、視線が何度か1階に振られている。


 新内の視点に切り替えた。階段にいる北原がモニターの上隅に見える。最終防衛地点に新内がいるようだ。2階に行く2つの階段を通り過ぎ、前に3つの通路がある。人の背丈より高い様々な機械が配置されているため、敵が隠れる場所は多くありそうだ。しかし、人影は見えない。新内が動く気配もない。


「どうかしました?」

 不意に児島が俺に問いかけてくる。

「なんだ?」

 俺は隣に座る児島に視線を振る。

「いや、険しい顔してたんで、何か気になることでもあったのかなと」

「おかしいと思わないか?」

 俺は前のめりになって画面を食い入るように見つめる。

「何がですか?」

「5分経っても敵が来ない」

「一条君を追ってるんじゃないんですか?」

「だが、フラッグ戦はフラッグを取った時点で勝利が決まる。敵が何人残っていようとだ」

「ん?」

 児島はピンと来ないようだ。

「つまりだ。わざわざ一条を追う必要はないんだ。そのままフラッグを取りにエヴァンスチームの防衛線に行けばいい」

「そういえばそうですね」

「俺が引っかかっているのは、2ということだ」


「お互いに残り5人ですし。まだ姿を現してないだけで、実はエヴァンスチームの最終防衛線の近くにいるんじゃないですか?」

 児島は自信なさげに言う。

「その可能性もあるな。だとしたらなぜだ?」

「え……」

 児島は突然俺に問われてキョトンとする。

「なぜ、敵は姿を現さない? なぜ発砲して来ない?」

「えーっと……待っている?」

「そうだ。待っているんだ。俺たちが最終防衛線を突破する時を」

 やられた梁間が控室に戻ってきた。

「でもそんなことしてたら、生き残り人数判定になるか、フラッグを取られて負けになる可能性も残ってしまいますよ? あと10分弱しかないし」

「残り2人が最終防衛線付近で待機し続ければ時間切れになる。現在エヴァンスチームと交戦している相手チームの3人がやられてしまえば、フラッグを取られて負けになる。なら、俺たちの最終防衛線付近で待機している2人はどうするか」

「加勢に行く」

 俺達の背後に近づいてきた梁間が悔しそうに呟く。控室の長椅子に座り、手袋を外して荒々しく長椅子の座面に放り置く。

「そう。まだ交戦していない2人の敵は、現在敵と交戦している臼井、滝本さん、一条さんの3人を後ろから追い詰め、囲い込もうとしてる可能性がある」

「え、でもそんなことするより、フラッグを取りに行った方が早いんじゃ」


 児島は戸惑いながら意見する。

「ああ、だが確実に勝つならそう選択する」

「確実に勝つ……」

 梁間は噛みしめるように呟く。

「敵チームは最初からフラッグを取る気なんかなかった。敵を全滅させるか、人数判定での勝利を狙っていたんだ」

「じゃあ、今交戦している3人は必ず人数的に不利になるってことですか?」

 児島の表情に動揺の色が濃くなっていく。

「おそらく、一度最終防衛線を護る人数を把握し、自チームの防衛線へ向かっているプレイヤーを最初に一掃することにした。攻撃に向かっていた敵プレイヤーの一掃が終わった後、全員で敵の最終防衛線に向かう」

「それって……」

 梁間は眉をひそめながら言葉を零す。

「ああ、フラッグ戦では一番有効で無難な戦術だ。しかも、最初にフラッグを狙っていると印象操作を施す徹底ぶりだ」

「え、そんなことまでしてましたっけ?」

 児島はおずおずと聞く。

「まあ気づかないのも無理はない。普通に敵を1人やっただけだからな」

「はい?」

 児島は首を傾げる。

「梁間を最初にやったのは、自分達が最終防衛線まで迫っていると相手チームに情報を送るためだ」

「なるほど。なら、新内と北原はフラッグの近辺を動くわけにはいかなくなる。でも、もしやられたらその効果は薄くなるだろ」

 梁間は険しい表情で反証する。

「いや、最終防衛線近辺に向かっている敵が1人いたという印象さえ植えつけることができれば良かったんだ。そうすれば、まだ生き残っている敵プレイヤーが向かってきているかもしれない。そう思うはずだとな」

「ってことはこのままじゃ……」

 児島はモニターに視線を向ける。悲しげな声色が室内にかおり出す。

「ああ、このまま行くと、エヴァンスチームは負ける」


「エヴァンスチームが勝つ方法はもうないんですか?」

 児島はすがるように聞いてくる。

「相手チームの意図に気づいて、北原と新内のどちらかが動く以外ない。ま、気づいた時には手遅れになっているかもしれないがな」

 そう言って、俺は新内の視点を表示しているモニターに視線を戻す。

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