twelve bullets フリーズコール
試合が始まった。机に乗った2つのモニターのうち、プレイヤー視点のモニターの下部にあるボタンを押して、一条さんの視点に変えた。
一条さんはフィールドを進む。壁にスプレーでCFやDGという文字が書かれている。
ここはアルファベットで縦と横の位置を表示しているようだ。一条さんは慎重に進んでいく。様々な機械や配管のせいで視界が狭い。同じ1階にいるはずの梁間の姿も見えない。
俺は番号の書かれているボタンを押してチャンネルを変える。
迷彩服が時折見える。臼井の視点だ。一条さんの映したカメラとはまるで景色が違う。
壁にかけられたライトは1階と同じ青と赤の色付きの光を放って照らしていた。1階よりも物は少なく配置されているため、遠方まで見渡しやすいはずだが、ライトの数が足りないのかやはり薄暗い。それでも1階よりもマシなようだ。遮蔽物がない分、光が入り込む余地があるのだろう。
臼井はガンガン前へ行く。ジャッジャッとステンレス板と金属板が打ちつける音が鳴っている。画面下部に見えるストロー程度のいくつもの小さな穴の空いた床。穴の空いた板の下には硬そうな板が覗いていた。
防犯用に敷く砂利のように音が鳴るような仕組みにしてあるのだろう。2階のプレイヤーの居場所は特定されやすいようだ。だが、複数の人間が周りにいれば、どこから音が鳴っているか分からないことも考えられる。
一方、下にいるプレイヤーは上から狙われているんじゃないかという恐怖心を煽られてしまう。厄介なフィールドだ。
「臼井さん、少しスピードを落としてください」
「あ、ごめん」
滝本さんの指摘が飛んだ。
「滝本です。こちらG地点まで来ています。一条さん、梁間さん。位置をください」
「梁間。現在H地点まで進入」
「一条はF地点まで進入してます」
「私と臼井さんは20秒ほど待機します」
「「了解」」
滝本さんが積極的にコミュニケーションを取っている。結構たくましいところもあるらしい。
「未生。お前は楽しくなると突っ込む癖があるから自重しろよ」
「夏希ちゃん、それじゃ私が馬鹿みたいじゃん」
「みたいじゃなくて馬鹿なんだよ」
「ひっどーい! 夏希ちゃん酷過ぎるよ!!」
「じゃあ前みたく一人で突っ込んでやられるなよ?」
「分かってるよー。私だって馬鹿じゃないもん」
「はいはい」
「緊張感、ないですね」
児島は苦い顔をする。
「そうだな……」
「こちら北原。敵兵確認。2階J地点付近にいる」
「了解」
モニターに映る木箱の陰に身を潜める臼井。木箱に打ちつける弾の音が響く。臼井も木箱の端から手を出して反撃する。
2階で激しく弾が行き交い始めた。車1台分の広さの通路で、両者は物陰に身を潜め、撃ち合っている。
「こちら臼井。敵1人確認。IB付近にいる」
「他に敵は?」
声色が真剣モードになった北原が聞く。
「まだ見えない」
「一条、梁間。下に敵が集中している可能性が高い。敵を発見次第報告を」
「「了解」」
俺はモニターを梁間の視点に切り替える。梁間は入り組んだ通路を慎重に進んでいた。物陰から行く先を覗き、時折上の様子を
前から配管にぶつかった音が響いた。梁間は含んだ
「こちら梁間。KAに1人以上いる」
「了解」
梁間は銃を構え、ゆっくりKA地点にある配電盤に近づいていく。梁間は素早く配電盤の横に出る。しかし、そこには誰もいなかった。
「チッ。こちら梁間。敵は下がったらしい」
「フリーズ」
突然聞こえてきた声。梁間は後ろを向く。
北原と親しげに話していたモヒカンのチャラい男が、梁間のすぐ目の前で銃を突きつけている。
梁間はため息を零して両手を挙げた。
「フリーズって何ですか?」
児島が素朴な疑問をぶつけてくる。
「お前知らなかったのか」
「えっ」
「フリーズコールと言ってな。相手が気づかないまま至近距離に近づけた場合、至近距離での発砲は痛みが大きいため、フリーズと言って撃たないまま銃口を突きつけることがある。フリーズを宣告された相手は両手を挙げるか。銃を相手に突きつけるかを選択しなければならない」
「そんなルールがあるんですね。もし、銃を突きつけたらどうなるんですか?」
「至近距離での銃撃戦が始まる」
「マジですか……」
児島の顔が青ざめる。
チャラい男は梁間に突きつけていた銃を下ろす。梁間は自陣側へと歩いていく。梁間の映像が途切れ、暗い背景に赤い『not found』の文字が映る。
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