第60話 なぜ日本は勝てない争いに身を投じたのか? 後編

 第一次世界大戦によって、お金持ちになったアメリカが世界経済の中心になったのはいいけど、そのアメリカが経済破綻したので、世界中の経済がメチャクチャになる『世界恐慌』が起きました。


 経済破綻したら、そのままにしておく訳にもいかないので、各国は経済のたてなおしにはいるのですが、そのやり方の違いが、最終的に第二次世界大戦という、世界中を巻き込んだ、大きな争いを生みます。


 では今回は、なぜ世界恐慌が第二次世界大戦のきっかけとなったのか、お話していきましょう。



【経済たてなおし】

 世界恐慌でメチャクチャになった経済を建て直すために、大統領フランクリン・ルーズベルトは『ニューディール政策』を行います。


 これは、どんな政策かというと、「政府が産業や経済に積極的に関与する」という方法です。

 アメリカというのは、企業や商売人に口を出すことはしない国です。これは、今の日本もそうですよね。「法律の範囲内」だったら、お店や企業は好きな物を好きなように売れます。のびのびと子供を育てる親みたいなものでしょうか。


 ルーズベルト大統領はニューディール政策によって、公共事業を増やし、失業者対策をしました。


 失業者は減りましたが、なかなか経済は回復しませんでした。


 一方イギリスとフランスは『ブロック政策』という、対策をしました。


 これは、「お金や商品のやり取りは、自分の国と植民地だけで行う」というもので、外国からの輸入品には高い関税をかけて、入ってこないようにします。


 まさに「経済をブロック(囲う)しまおう!」というやり方ですね。


 このように、経済をブロックして、外国にお金が流出することを防ぎ、自国の商品を、自国と植民地だけで流通させ、少しずつ経済を回復させようとしたのですね。


 イギリスとフランスは、戦争で勝ち、植民地をたくさんもっていたので、ブロック政策の効果がありました。




【植民地を持っていない国はどうなるの?】

 イギリスとフランスは植民地をたくさん持っていたので、ブロック政策をすることができます。


 しかし、植民地を持っていない国は、このような経済政策ができません。


 戦争で負けたドイツは、多額の賠償金を要求され、植民地も奪われていました。


 そこへ世界恐慌が押し寄せたので、経済がボロボロになるし、アメリカもお金を貸してくれません。

 なのに、イギリスとフランスは、賠償金の支払いを要求してくるし、植民地がないのでブロック政策もできません。


 そう、ドイツは国は追い詰められた状態でした。すると人々は「多少、強引でもいいから、国を救ってれるヒーローが現れてくれ!」と思うようになります。


 国民の不安や不満、そして劣等感と希望、あらゆる感情を飲み込んで、あの『アドルフ・ヒトラー』が登場するのです。


 ヒトラーは演説が上手く、次第に国民の支持を得ていきます。そして、当時のドイツは失業者と貧困で溢れかえっていたのに、たったの4年で状況を好転させたのです。

 イギリスやフランスでは、労働者はパン一個手に入れるのがやっとなのに、ドイツでは労働者に有給休暇を与えるほど、ゆとりが出来ていたし、食の安全や環境保護も行っていました。


 なので当時のドイツにとって、ヒトラーは「ピンチに現れたヒーローであり」、ボロボロのドイツを救ったのは間違いないので、彼の政治的手腕は高く評価してもいいでしょう。

 これで終われば、ヒトラーは本当の意味でヒーローだったのですが、彼はやり過ぎました。

 このあとヒトラーは愚行を行います。多くのドイツ国民を救った反面、戦争を仕掛けて多くの人々の命をたくさん奪いました。更にユダヤ人の虐殺も行います。


 ヒトラーはヨーロッパの国々に攻撃をして、第二次世界大戦が勃発します。



【軍部が暴走していく日本】

 世界の歴史がわかったところで、日本史に戻りましょう。


 トリプルパンチをくらった日本経済はボロボロの状態。それに対して国民は……


国民「政府全然ダメじゃん!」


 このように、強い不信感を抱くようになります。


 日本はドイツとは違い、第一次世界大戦で勝った国ですが、近代化がヨーロッパの国よりも遅かったので、植民地をあまりもっていませんでした。


 なので、たくさん植民地を持っているフランス・イギリスのような、ブロック政策ができないので、軍部は「日本経済を回復させるためにも、中国に攻め込んで、領土を広げるべきだ!」と主張します。


 しかし、内閣総理大臣のだった犬養毅いぬかいつよしは、「争いはダメだ!」と、軍部の主張に反対しました。


 攻撃的な軍部に対して、平和主義の犬養毅との間に、摩擦が生じるようになります。


 そして、軍事が犬養毅を襲撃する『五・一五事件』が発生しました。


 銃を向けられた犬養毅は……


毅「話せばわかる!」


 あくまで言論での解決を求めましたが……


軍人「問答無用!」


 なんと! 内閣総理大臣を射殺してしまうという、とんでもない事件が起きました。


 この事件をきっかけに日本政府は、軍部に乗っ取られていきます。また、内閣への不信感が強かったということもあり、軍部に対する国民の期待はとても高かったです。


 こうして、日本は軍国主義になり、中国へ進出し『日中戦争』が勃発します。


 もし、平和主義者の犬養毅が殺されなかったら、もっと違う結果になっていたのかもしれません。



【日本が中国にケンカを売った! 満州事変】

 圧倒的な国民の支持を得た軍部は、独走状態となり、そして暴走していきます。


 恐慌による財政難の打開策として、軍部は中国への進出を決定しました。


 軍部が目をつけたのは中国の満州という場所でした。ここは、石炭や天然ガスなどの地下資源が豊富にあったので、日本軍は狙ったと言われています。


 満州を手に入れるために、なにをしたかと言うと、戦争をするために日本は中国にケンカを売ります。それが、あの有名な『満州事変』です。


 日本軍は中国に通っていた日本の鉄道である、南満州鉄道を爆破して、それを中国の仕業にしました。


「満州事変=日本が中国にケンカを売った」と考えると、覚えやすいです。


 こうして満州事変を起こした日本軍は、中国の仕業して、それを口実に満州を占領してしまいます。


 そして『満州国』という、日本の国を勝手に作ってしまいました。


 もちろん、中国としては、勝手に国を作られたら、たまったものじゃありません。


 誰だって、隣のおじさんが勝手に家に入ってきて、「リビングは今日から、俺の家ね!」と言ってきたら、嫌ですよね。


 もちろん中国人の反感を買いましたが、反発はありませんでした。というのも


蒋介石しょうかいせき「この国は俺が引っ張っていく!」


毛沢東もうたくとう「いやいや、なに言ってるの。これからの時代は俺でしょ」


 こんな感じで、日本軍が攻めてきているのに、中国は中国で争っていました。


蒋介石「なんか、日本が満州国を作ってるけど、とりあえず置いておこう。日本とは争いたくないし。毛沢東を先にやっつけよう」


 蒋介石は日本軍を保留にして、先に毛沢東を倒そうとしましたが……


張学良ちょうがくりょう「俺は日本人が大嫌いなんだよ! 先に日本をやっつけろ」


 このように、「日本嫌いの張学良」が現れて、蒋介石を拉致監禁してしまいました。


張学良「中国人同士で争ってる場合じゃないだろ! 蒋介石を返して欲しかったら、一致団結して日本軍を追い出すんだ!」


 張学良の訴えにより、蒋介石と毛沢東は手を組み、日本軍に反発します。



【日中戦争から太平洋戦争へ……】

 中国は日本に徹底抗戦の姿勢を見せたので、日本と中国の関係は悪くなっていきます。


 そんな中、日本軍が軍事演習を行っいたところに、中国軍が攻撃してくる『盧溝橋事件ろこうきょうじけん』が起き、両軍銃撃戦となりました。


 この事件がきっかけとなり、日中のピリピリしていた関係は大爆発し『日中戦争』になります。


 日本軍は国国内をどんどん制圧していき、当時の首都である南京を制圧してしまいました。


 圧倒的に有利だった日本軍ですが、ここで邪魔が入ります。


 イギリス・フランスが中国を支援し、武器や兵器を与えていたのです。おそらく、日本の領土拡大を阻止したかったのでしょう。


日本「くっそー! フランスとイギリス。ムカつくなー。中国に武器を渡しやがって、そうだ! フランスと戦争している、ドイツやイタリアと手を組んで、武器を渡せないようにしょう」


 このように考えた日本は、なんと、あのヒトラー率いるドイツや、ドイツと手を組んでいたイタリアと同盟を結び、『日独伊三国同盟』を結びました。


 ヨーロッパの方面はドイツやイタリアに圧力をかけてもらったんですね。とはいえ、この同盟はアメリカをイライラさせました。


 ヒトラー率いるドイツの進撃はアメリカとしても脅威でした。要するにアメリカはヒトラーのことが大嫌いだったんですね。

 そんなドイツと日本が手を組んだし、中国で好き勝手して、領土を広げている日本が気に入らなかったのです。


 日独伊三国同盟を結んだ1年後、フランスはドイツに敗れます。そして日本軍は、ここぞとばかりに、フランスの植民地だったインドシナに進行しました。


 こうして南下していく日本に対して……


アメリカ「お前、あまり調子にのるなよ!」


 ついにアメリカがキレました。


アメリカ「もう、日本にはガソリンを売らない」


 ガソリンがなければ、戦車や戦闘機などの兵器を動かせないので、日本軍にとってアメリカがガソリンを売ってくれないのは死活問題です。


日本「なにー!」

 

アメリカ「しかも、こっちには仲間もいるもんねー!」


 その仲間というのは、イギリス、中国、オランダです。このアメリカが他の国と手を組み、日本に石油の輸出をストップしたのを、『ABCD包囲網』といいます。



「なんでABCDなの?」という、疑問にお答えします


 AはAmerica(アメリカ)。わかりやすいですね。


 Bはイギリスです。「なんでイギリスがBなの?」という疑問に答えしますよ。

 そもそもイギリスは日本人がそう呼んでるだけで、正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」と言って、非常に長いです。

 正式名称のブリテン(Britain)から、イギリスのBがきてるんですね


 CはChina(チャイナ・中国)。これもわかりやすいですね。


 DはDutch(ダッチ・オランダ)で、ダッチとはオランダ語とか、オランダのとか、オランダ人という意味があります。日本人や日本語をジャパニーズというようなものです。


 ABCD包囲網によって、経済的に粛清を受けた日本は、ついにぶちギレます。

 

 そして、絶対に勝てないアメリカに対して、いきなり攻撃を仕掛けました。


 それが、日本軍がハワイの真珠湾に爆撃した、『真珠湾攻撃』です。


 さらに、日本は「アジアから白人を追い出して、日本がアジア全域を統治する『大東亜共栄圏』を作る」と、すごいことを言い出しました。


 軍部の暴走も最高潮といえます。

 

 とはいえ欧米諸国がアジアの国々を植民地にしていたので、「白人をアジアから追い出す」というのは、もっともな理由ですが、本当の目的はABCD包囲網によって、ストップした石油の確保でした。



【日本VSアメリカ 太平洋戦争】

 真珠湾攻撃がきっかけとなり、日本VSアメリカによる太平洋戦争が勃発するのですが、ここまでの流れを簡単におさらいしましょう。


 第一次世界大戦からの好景気から暗転して、3回連続の恐慌が起きます。政府に対しての不満が高まる中、政界は軍部が乗っ取ってしまいました。

 そして、軍部は経済破綻を解消するため、中国に進軍し、日中戦争が起きました。しかし、欧米諸国を怒らせる結果となり、ABCD包囲網によってガソリンの輸入ができなくなった日本軍は追い詰められて、ハワイの真珠湾を攻撃して、太平洋戦争が始まります。


 最初は日本軍は好調でした。南への進出は上手く行き、アジアの東側の大部分が日本が手に入れました。


「大日本帝国 領土」で画像検索すると、当時の日本がどれだけ広い領地を持っていたのかがわかります。ちなみに、この広さは「歴代領土の広さランキング」で、かなり上位の方にくるくらいです。


 このように日本軍は好調な滑り出しでしたが、『ミッドウェー海戦』で、日本軍の大惨敗。

 主力の戦艦と経験豊富な軍人の多くを失ってしまい、戦況は一気に暗転してしまいます。


 日本の領土となった南アジアはどんどん陥落していき、本土では空襲が始まり、主要な都市はどんどん爆撃されてしまいました。


 更にアメリカ軍が沖縄に上陸した頃、ヒトラー率いるドイツが敗れ、日本はどんどん不利になり、もはや日本の負けは確定しましたが、日本軍は「それでも勝てる!」と言って、なかなか諦めません。


 そして、1945年8月6日に広島に原爆が投下され、同年8月9日に長崎に原爆が投下されました。 


 こうして、日本は負けを認め、「軍国主義をやめる、日本の領土を制限する、民主主義の復活」などの内容が含まれた、『ポツダム宣言』を受託します。


 ポツダムというのは、ドイツの地名です。ドイツ降伏後、ドイツのポツダムという場所で、アメリカ、イギリス、ソ連の首相が会議をして決めたので、この名前がついています。


 こうして、日本が降伏したことにより、多くの犠牲者を出した第二次世界大戦は終わります。







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