第43話 商業を重視した田沼意次の政治と蘭学

【病弱な将軍 徳川家重】

 暴れん坊将軍こと徳川吉宗のあとを継いだのは、彼の長男である家重いえしげでした。彼がどんな人物だったのか、見ていきましょう!


家重「………………」


 おや? 家重はしゃべりませんね。というのも、文献や残された肖像画から推測するに、家重は脳性麻痺を患っており、言語障害があった可能性が高かったそうです。


 病弱な家重でしたが……


家重「……………」


???「なるほど! わかりました」

 

 コミュニケーションが難しい家重の考えが理解できる、唯一の人物がいました。


 その人の名前は、大岡忠光おおおかただみつでした。彼は家重が将軍に就く前から、家重の世話をしており、意思疏通が可能だったとか……


 ちなみに家重は、かなーりの頻尿で、すぐにトイレに行っていたそうです。城の外に出てもすぐにトイレにいくので、家重のためにトイレを増設したと言われており、人々からは「おしっこ将軍」と呼ばれていたそうです。


 「暴れん坊将軍」の次が「おしっこ将軍」なんで、江戸時代は浮き沈みが激しいですねw


 さて病弱な家重の代わりに、政治は父の吉宗が行っていましたが、流石の暴れん坊将軍もいい歳です。


 病弱な家重を置いて亡くなってしまいました。


 どうなる!? 江戸幕府


???「政治は私にお任せください」


 おや、誰か現れましたね。何者でしょうか?


意次「私は田沼意次! これからの時代は私が引っ張っていきます」


 彼は『老中』の田沼意次。『老中』っていうのは、将軍の代わりに政治をする役職で、平安時代の『摂関』や、鎌倉時代の『執権』に似ていますね。


 暴れん坊将軍、吉宗が亡くなった後は、彼が政治をしていく事になるのです。



【商売と産業が中心! 田沼意次の政治】

 前回お話した、吉宗の『享保の改革』では、農業と米によって財政を回復させようとしましたが、ニューフェイス田沼意次はこのように考えます。


意次「米で財政回復させるとか、正直古いよねーw これからの時代は、商売だよ!」


「農業と米」で財政を回復させようとした『享保の改革』に対して、意次は「産業と商売」によって財政回復を狙ったのです。


 そう「キツかった享保の改革」から一転、「ユルい意次の時代」がやって来ます。ここでも、「キツい、ユルい」の繰り返しである、江戸時代の特徴が出ています。


意次「商人の皆さーん。これからは“株仲間”をどんどん作って、商売を盛り上げていこう!」


商人「ええ! いいんですか。意次さん!」


意次「いいよ! いいよ! これからは、商売の時代だから!」


 こんな感じで、意次は“株仲間”の結成を推奨しました。株仲間っていうのは、商売人同士のグループです。


 要するに「経営者同士のサークル」って感じですね。


 幕府以外の勢力が力をつけるのを嫌がっていた、徳川政権は商人同士がグループを作るのを禁止していましたが、時代と共に財政が悪化してくると、それを緩和するようになります。

 そして、意次になると、逆に株仲間を推奨するようになったんでね。


 このように商人同士がグループを作ると、商業が強化され、お金の回りもよくなります。


 とはいえ、意次はただ株仲間を推奨していたわけではなく、商人同士のグループから、ちゃっかり税金を徴収していました。


 こうして商売を活性化させた意次は、貿易に力を入れます。


「干しアワビ」や「いりナマコ」などの海産物を生産し、しんという当時中国にあった国に、どんどん売り込んでいきます。


 また意次は、このように考えていました。


意次「ロシアとも貿易したなぁ」


 そこで意次は、ロシアと日本の間にある、蝦夷えぞを開拓を始めました。


 蝦夷というのは、現代の北海道です。そう、江戸時代では、北海道は日本に含まれておらず、外国だったのです。


 このように意次が積極的に商業の強化を行ったので、江戸の経済は農業から商業へと移り変わっていき……


農家「米つくってるよりも、商売したほうがいいんじゃね?」


 という感じで田畑を捨てて、江戸の町で商売人になる人が続出しました。



【意次の時代終了のお知らせ】

「おしっこ将軍・家重」が亡くなり、徳川家治とくがわいえはるが10代目将軍になるのですが、名前を知らない人も多いんじゃないでしょか? というのも意次が……


意次「政治は私がやるんで、家治様は黙ってください!」


家治「ええ (|||´Д`)」


 こんな感じで意次によって、政治から遠ざけられてしまったので、業績は残していません。


 こんな風に段々と将軍の権威をというのは、衰えていき、政治は周囲の人が握っていく事になります。


 鎌倉幕府でも将軍家である源家よりも、執権の北条家が実権を握っていましたね。

 また室町幕府でも、時代が経つにつれて、将軍の足利家よりも、日野家や細川家など、将軍の周囲の人が力をつけていきますが、江戸幕府でも時代が進むにつれて、今までの幕府と同じような足跡を辿っていきます。


 景気もどんどん回復していき、当時の江戸は好景気になります。順調に進んでいた意次の政治でしたが、ここで不幸が訪れます。


 火山が大噴火したり、洪水が発生したり、さらに『天明の飢饉』という食糧難が人々を襲います。


 そして各地で不満をつのらせた、農民が暴徒化して、「一揆」や「打ち壊し」が各地で発生しました。


 しかも商業中心にして、農業おそそかにしていた飢饉の影響が、クリーンヒットしました。


 農民がどんどん江戸に出稼ぎに来ていて、食料の備蓄が少なかったのです。


 そのため、食料が少なくなって、物価はドンドン高騰していき……


「田沼意次は全然ダメじゃん! あいつが商業中心にするから、ダメなんだよ」


 人々は意次政権を批判するように、なっていきました。


 そして……


???「お前が農業中心から、商業中心にしたから、飢饉に耐えられないんだよ。もっと米をつくっていればよかったのに!」


意次「ひいいいい」


定信「俺は松平定信まつだいらさだのぶ。これからの時代は、俺が引っ張っていく! お前はクビね!」


意次「いやあああああ!」


 こうして意次は老中をクビになり、代わりに松平定信が政権を握ります。


 ちなみに定信はなんと、暴れん坊将軍吉宗の孫。


 そんな暴れん坊孫である、定信のやり方ですが……


定信「やっぱり農業だよねー。商業中心にするからダメなんだよ。日本人なんだから、米を作らないと」


 こんな感じで商業中心から、また農業中心へとシフトチェンジします。


 教育→農業→商業→農業、このように江戸幕府の政策というのは、軸がどんどん変わっていきますね。

 コロコロ変わるので、ついていくのも大変そうです。


定信「何が商業だ! 弛んだ事を言ってるんじゃない! 俺が日本を絞めなおす改革を行う!」


 こうして定信を中心に『寛政の改革』が行われるのですが、また「キツい」時代に入っていきます。



【蘭ねーちゃんじゃないよ、蘭学だよ】

 次回に移る前に、『蘭学』のお話をたいと思います。某名探偵の好きな人じゃないので、注意してくださいw


 吉宗はキリスト教の本を輸入しないという『禁書令』を緩和した事により、オランダから様々な学術書を取り入れました。


 しかし、当然ながらオランダ語で書かれているので……


日本人「なにが書いてあるかわからないよー ( ノД`) 」


 当然ながら読めません。そこで吉宗は……


吉宗「この本を翻訳しろ!」

 

 このような無茶ぶりをしますが、頭のいい人はオランダ語を勉強して、外国の本を翻訳していました。


 そして時は流れて意次が政権を握っていた時代。


 杉田玄白すぎたげんぱくという医者がいたのですが、彼は「ターヘル・タナトミア」という、ハリ○・ポッターに出てくる魔法の名前みたいな、医学書を手に入れました。


「ターヘル・タナトミア」はオランダ語で書かれていたので、何が書いてるのかわかりませんでしたが、載っている解剖図がリアルに描かれており、玄白は驚くと共に……


玄白「この解剖図って本当なの?」


 このように疑っており、この解剖図が正しいか確かめたくなりました。


 そんな中、「死刑で亡くなった人の解剖するよ、勉強したい人は来てね」という話を聞き付けた、玄白は「ターヘル・タナトミアを確かめるチャンスだ!」ということで、本を持って出掛けました。


 会場に行くと、同じ本を持った前野良沢まえのりょうたくという医者と出会います。


玄白「あれ? お宅もその本もってるんですか?」


良沢「そうなんですよ! あれ、玄白さんも」


玄白「はい! この本が本当なのか、確かめたくて」


良沢「奇遇ですね。私もそうなんです」


 こんな感じで玄白と良沢は、コミケの会場で同じ同人誌を持っていた感覚で、仲良くなりました。

 そして一緒に、ターヘル・タナトミアと、解剖された人体を見比べてみると……


玄白「すごい! ターヘル・タナトミアと人間の体は一緒だ」


良沢「私たちは、人間の内部を知らないで病気を治そうとしていたのか……」


 このようにショックを受けた二人でしたが……


玄白「良沢さん! 一緒にターヘル・タナトミアを翻訳しましょう」


良沢「わかりました。共に頑張りましょう」

 

 こうして玄白と良沢は、手を取り合いオランダ語の知識もないまま、ターヘル・タナトミアの翻訳にのりだしたのです。


 玄白と良沢は医者として働くかたわら、翻訳を続けました。もちろん、辞書もないので、まるで古代文字を解読するかのように、ターヘル・タナトミアを翻訳していき、3年後。


玄白「ついに翻訳が終わった!」


良沢「俺たちはついにやったんだ!」


 こうして玄白と良沢はターヘル・タナトミアを翻訳した『解体新書』を発行します。


 玄白と良沢のお陰で、日本の医学(蘭学)は発展していき、玄白の病院は大盛況だったとか、やったね玄白!

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