第202話 実力差
神剣を手にし、まさに神にでもなったかのような振る舞いを続けていたディルク。
だが、その魔力は竜樹の剣から生みだされる神種を燃やし尽くすにはいたらず、逆に炎を弾かれてしまう。
「あり得ない……こんなことぉ!」
自分の思ったような展開にならず、とうとう癇癪まで起こす始末。
きっと、神剣を手に入れてからは順風満帆だったのだろうな。何もかもが自分の思い描いたように進み、誰もそれを阻まない。本人はそれを自身の持つ神剣の力と思っている節があるけど、実際は後ろ盾のオルランド家って名前が怖いだけ――それが透けて見える光景だな。
「…………」
これ以上の戦闘は無駄だと判断した俺は、竜樹の剣を収める。
それから、キアラに「ウィリアムスさんのところへ行くよ」と告げて歩きだす。
もうそろそろ、他のみんなが学園祭の見学を終えて戻ってくるだろうし、今回の学園訪問の本題であるスラフィンさんにも会えるはず。
――が、ディルクはあきらめていなかった。
「待てよ! 逃げるのか!」
「…………」
安い挑発に耳は貸さない。
もう劇は始まっている時間だろうし、今さらヤツが行ったところでどうにもならないだろう。俺自身が劇を見られなかったのは残念だが、ジェニーたちにとっていい思い出になってくれたらそれでいい。
「くっ……」
俺が足を止めないことを悟ったディルクは、神剣を力任せに地面へと突き刺す。すでに魔力は供給されておらず、そうなっては神剣もただの剣と変わらない。
……とはいえ、神剣自体は本物だ。あくまでも、持ち主であるディルクの実力が、神剣本来の力を発揮させるに至ってないことが敗北の原因である。
あいつがそれに気づき、真面目に鍛錬を積めば……竜樹の剣を凌駕する可能性もないわけじゃない。
ただ、この竜樹の剣には、まだ上位互換がある。
それが、アルラウネとの戦いで出した樹神の剣だ。
けど、あっちは完璧に使いこなせるわけじゃない。
今日はそもそもそれについて尋ねようと、スラフィンさんのもとを訪れたのだ。
項垂れるディルクは、もう俺を止めることはなかった。
ヤツにも思うところがあるのだろう。
あの様子じゃ、しばらくまともに動けそうにないからな。
ディルクをそのまま放置し、キアラとともにウィリアムスさんのもとへと向かった。
農場に戻ると、ウィリアムスさんが四人の女生徒と何か話し込んでいた。
談笑――というわけではないようだ。
何か、切羽詰まっているようにも見える。
「っ! おぉっ! 戻ってきたか!」
俺を発見すると、大慌てで駆け寄ってくる。
……どうやら、また相当厄介な事件が起きたようだ。
「な、何かあったんですか?」
「その剣の力を借りたいんだ!」
「竜樹の剣の?」
まあ、なんとなくそうじゃないかとは思っていたよ。女子たちもジッとこちらを見つめているし。
「えっと、何が起きたのか詳しく説明してもらっていいですか?」
「それなら私が!」
女子のひとりが勢いよく手をあげて言う。
とりあえず、話を聞いてみるとするか。
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