騒動はハンバーガーと共に


 「うん、これでいいでしょう。いくつか深い傷があったので安静にしておいてくださいね」

 「ありがとうございます、ほらウルフ動くな」

 「みゃーご……」

 「にゃーん」


 体育館みたいな武道場に来てから一時間ほどしたところで獣医さんが登場し、サッとウルフの手当てをしてくれて包帯だらけの体になった。鳴き声はか細いままだけど水を飲むくらいは元気を取り戻してくれ、俺達は安堵して若杉さんと宇田川さんを待つことにする。


 「良かったなあ、お前だけでも助かってよ……」

 「ふごー」

 

 霧夜がクッションの上で寝そべるウルフの背中を撫でて労ってやると鼻を鳴らしていた。後は羽須がこちらに来ればとりあえず安心だけどまだ来ていない。母ちゃんの言う通り行動するなら夜だろうか? だとすればまだ昼にもなっていないので持久戦になる。

 仮眠をするかと思っていたけど、あることに気づき寝転がりながら一言呟く霧夜。


 「腹減ったな……」

 「俺も朝飯を食ってないからな……メッセージで宇田川さんになんか買ってきてもらおう」

 「シュウ兄ちゃん容赦ないな。あ、俺ハンバーガーってやつ食いたいかも」

 「私も! 外を歩いている時に見た『メンチカツバーガー』がいいなあ」

 「お、いいな。みんなこれを見てメニューを選んでくれ」

 「わーい!」

 

 緊張感は持っていた方がいいけど、腹が減ってはなんとやらということで仕事中に申し訳ないけど昼食を所望することに。


 「よし、これで気づいてくれれば買ってきてくれるだろ」


 すると『了解、羽須さんも保護した』との返信があったので、後は待つばかりということをみんなに話すと全員が安堵の表情で頷いた。

 しかし安全がある程度確保されているとはいえ、その間することが無いので適当に話をする。


 「それにしてもまだ信じられないよ、昨日の親子が死んだなんて」

 「俺だって見るまでは信じられなかったけど、間違いなく亡くなっていた。見立てだとあの時一緒に居た人間はどこかで俺達を見ていたのかも……」

 「でもお兄ちゃんや霧夜さん、エリクじゃなくてなんでその親子だったのかしら? 警察の宇田川さんを狙うのは難しいと思うんだけど、個別なら狙ってきそうなのに」

 

 フィオがウルフの背中を撫でて落ち着かせながら首を傾げるが、それには簡単な答えがある。


 「まずひとつは弱そうな方を狙ったんだと思う。さらに言うと、見せしめの可能性が高い」

 「見せしめだと……!」

 「落ち着け霧夜、魔族ならあり得るってことだ。まあ、目的のために手段を選ばないってんなら国王サイドも怪しいけどな」

 「みなさんやレンさんを生贄にしようとしていたから耳が痛いですね……」


 まあ本当にただの強盗という線もある。が、流石にあの死に方でこちら側の人間を疑う余地ってのは少ない。


 「どちらにせよ、対峙しないといけないってことだよな。やってやるぜ」

 「お前は無理するなよ? 魔族や向こう側の人間との戦いは俺やエリクに任せてくれ」

 「まあ、やれることはするってだけだ」

 「あれ、そういえばブランダは?」


 「武道場にも医務室があってそっちに寝かされているってよ。命に関わるようなこっちゃないけど、目を覚まさないのは厄介だな」

 「あ、宇田川さん!」


 そんな話をしながらさらに一時間ほど経ったところで宇田川さんが武道場へやってきた。隣にはポテトを頬張っている羽須が見えるがスルーしよう。


 「はいはーい! わたしも居ますよー! 皆さんのハンバーガー買ってきました!」

 

 スルーできなかった。

 やつが持っている袋が俺達の昼食のようなので、近づいて来た羽須に声をかける。

 

 「サンキュー、朝も食っていないから腹が減りすぎてんだよ」

 「フフフ、このわたしに感謝することですね……」

 「うざいなあ。そもそもここに連れてこられた理由が分かってんのか?」


 霧夜がコーラとダブルチーズバーガーを取り出しながら目を細めて羽須に言うと、彼女はポテトを飲み込んだ後、鼻を鳴らしてから答えた。


 「もちろん! わたしが可愛いからですよ!」

 「アホか!? 宇田川さん、説明しました?」

 「まあ、一応な。……しかしあの現場を見てよく食えるな……」

 「え? ああ……過去の記憶もあるから人が死んでいるのを見るのは慣れているんだよ。あんまりいいことじゃないんだけどさ」

 「なるほどな、勇者ってのも大変だなあ、ゲームみたいにはいかねえってことか」

 「はは、確かに」


 とりあえず現場で犯人の手がかりは無かったらしく、俺からのメッセージを見てからハンバーガー屋に行ってくれたのだそうだ。

 羽須を迎えに行ったのは別の警官で、さっきそこで合流したらしい。


 「さて、それじゃ俺は一旦署に戻る。ここから動くんじゃないぞ?」

 「そんな!? 女の子を男の子の群れに放置していくんですか!?」

 「なんもしねえよ。フィオも居るから気になるなら一緒に居ろよ」

 「頑張りましょうね」

 「チッ、かわい子ぶっちゃって……! 痛っ」


 大げさなリアクションをする羽須にフィオが笑顔で接すると舌打ちで返しやがったので、後頭部を引っぱたいておく。

 

 「いたた……冗談ですよ。さて、変態殺人犯は来ますかね?」

 「ん? なんで変態殺人犯?」

 

 俺が羽須の言葉に疑問を持ち聞き返すと、宇田川さんが神妙な顔で代わりに答えてくれた。


 「……あの親子の母親、キャバクラで働いていたらしい。名刺と派手な服があった」

 「なんだって……!?」


 新たな事実に俺は驚愕する。

 もしかして向こう側の人間じゃないのか……? まだキャバ嬢殺人事件が続いているのか? そういえば若杉さんの方はどうなったんだろう?

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