繁華街にて


 「おーっす! シュウ兄ちゃん」

 「おう、来たかエリク」

 「待たせたかな」

 「あ、宇田川さん。いいや、時間通りだよ。後は霧夜だけか」


 休日になり、俺達は久しぶりに普段着で繁華街の入口で他の人を待っていた。そこへほぼ時間通りに来たエリクと宇田川さんに挨拶をして会話が始まる。


 「霧夜はちょっと時間にルーズだからもうちょっとかかるかもしれない」

 「ま、気長に待てばいいんじゃない? 俺もたまーにやらかすんだよな」

 「いや、警部は時間にルーズなのはまずいんじゃないか……?」

 「寝坊は誰だって一度はあるだろ?」


 そんなに力強く言わなくても、と思っていると足元でスメラギとスリートがあくびをして俺の足に絡みついてくる。


 「どうした? 朝餌はもらったんだろ?」

 「ぶにゃーん……」

 「にゃーご」

 

 宇田川さんの手前、話せないから適当に鳴く二匹を見て、エリクが俺に耳打ちをして尋ねてきた。


 「(こいつらなんで連れてきたんだ? 霧夜さんと宇田川さんの前じゃ喋れないし)」

 「(喋らなくても役に立つんだ、特にスメラギがな。おっと、霧夜も来たしまた後で話す)」

 「よーっす! お疲れー、悪い遅れたか?」

 「いつもに比べりゃマシだよ」

 「こんな面白そうなイベントに遅刻したくないからな! そんじゃ早速行くか」


 霧夜が張り切って歩き出したので俺達も後を追って繁華街へと入っていく。普段は向こうで言う冒険者ギルドや娼館といった店が並ぶ場所だが、流石に朝の十時すぎでは殆どの店は開いておらず、休みゆえか散歩をしている人などの方が目立つ。


 「とりあえずどこに行くんだ?」

 「まずは現場を見てからかな? まだ俺も見てないし、犯人につながるなにかを見つけられるかもしれないからな。そのあと、繁華街を一周するって感じだ」

 「途中昼飯食って、夕方くらいに回り終わるか」

 「にゃーご」

 「ぶにゃーん」

 「……まあなんとかなるだろ」


 スメラギとスリートが『自分たちのご飯はあるんでしょうね』的な目を向けていたので適当に撫でて目を逸らす。多分、店には入れないからだ。

 まあ、適当にコンビニでキャットフードでも与えればいいだろう。

 

 そんな感じでスタートした散策だが、夜の顔を知らない俺には殺人事件があったような雰囲気は無いと感じる。

 

 「やっぱり人が少ないな」

 「そりゃ事件のあった地域だからな。警察も目を光らせているし、わざわざ好んでくる人間はいないって。お前達高校生は来ることは無いだろうけど、普段は昼間でももっと人は多いんだぞ」

 「ってことは宇田川さんもここを利用しているのか……」

 「おお、ナンパした女の子と……ってそんなことあるか!」


 ノリのいい宇田川さんは霧夜とじゃれ合いながら前を歩いているので、俺はエリクと並んで足元に居るあくびをする駄猫達について話すことに。


 「とりあえずスメラギは向こうの人間を感知できる力があるんだ。だからもしこの事件が向こうのヤツが関わっているならこいつの髭がなんらかの動きを見せるはず」

 「へえ、そうなんだ。流石は元カイザードラゴンってことか」

 「ぶにゃー……」

 「なんだよ、興味無さそうな顔をして? 小声なら喋ってもいいんだぞ?」


 俺がブサ猫を抱き上げると――


 「あれ!? こいつよく見たらスメラギじゃない!?」

 「ええ? でもずっと一緒だったぜ兄ちゃん」

 <あ!? あっちにいますぜシュウさん>

 「なに!?」


 スリートが前足を向けた先に、小さな女の子に連れられるスメラギの姿が見えた。


 「ぶにゃーん!」

 「待ってくれお嬢ちゃん! そいつは俺の猫だ!」

 「え? おにいちゃん誰? あ、そっちにもにゃん太がいる!」

 「うん、多分こっちがにゃん太でそっちはお兄ちゃんの猫なんだ」

 「ええー……にゃん太のおやつ、この子が食べちゃったよう……」

 「……貴様」


 泣きそうな顔の女の子に、俺はスメラギを睨みつけると目を逸らしやがった。俺は前を歩く二人を引き留めてコンビニに走ると、猫のおやつで大人気な『にゅーる』という餌を買って返してあげた。


 「ありがとうおにーちゃーん!」

 「おう、もうはぐれるなよ」


 どうも俺達が入った入り口とは反対側の出口にある住宅街の子らしく、猫が脱走したのでひとり繁華街へ来てしまったらしい。

 まだ距離があるし、小学生をひとりで帰らせるのも怖いので警察である宇田川さんがいるなら安心だし、一緒に連れて行くことになった。


 <ずるいですよスメラギさん、一匹だけおやつ食べるなんて>

 <仕方あるまい、間違えられたのだからな>

 「逃げようと思えば逃げられたんだから確信犯だろ……」


 また間違えられても困るのでスメラギは俺が肩に乗せて置くことにした。スリートはエリクに任せて再び歩いていると、霧夜が俺達に振り返って言う。


 「あの子、現場に行って大丈夫かな?」

 「まあ、入れないようにしているだろうから、周辺を見るだけになるだろうから大丈夫じゃないか? 見ている間誰かが付き添ってもいいしな。さて、そろそろ到着だ」


 俺にとっては向こう側の件がなければ殺人犯を捕まえるのは警察の仕事なのでそれが無ければ意味を成さない。

 なにか手掛かりでもあれば、と思いつつ黄色いテープが張られている場所に近づいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る