ソロ吉○家デビュー

☆涼月☆

一人で吉〇家の牛丼を食べる

 私、上杉紹子うえすぎしょうこは、何故か周りからお嬢様風に見られてしまう。

 実際はごく普通の家庭の、普通の人で、平々凡々に生きて来た、ただのOLだ。


 一番の理由は名前かもしれない。

 上杉と言う苗字は、戦国大名でもあるし、小学校で歴史を習った時、担任の先生が『上杉の祖先を辿っていくと、この上杉謙信まで行きつくかもしれないぞ』などと言うものだから、みんなからしばらく大名の姫扱いされて、からかわれた。


 当時の私は、もっとアイドルみたいなキラキラネームがいいなと思っていたので、なんでアイドルの名前と似ていないで、よりによって歴史上の人物に似ていると言われるのか。ますますカチカチネームで嫌だなと思ったのだった。


 だいたい、今の世の中に『上杉』はたくさんいると思うし、そのほとんどは傍流の傍流。上杉謙信に辿り着いたとしても、もう似ても似つかない顔かたちになっているはずだ。根拠の無い期待を勝手にしないで欲しいなと思っていた。


 本来の私は、お嬢様では無いし、どちらかと言うとさばさばした男っぽい性格だ。

 指も人差し指より、薬指の方が長くて、男性ホルモンが多いタイプなんだからね。

 休みの日に部屋にいる時は、だらだら寝てばかりいるし、どちらかと言うと胡坐をかく方が座りやすいタイプ。お嬢様みたいにおしとやかに膝を揃えてなんか座っていられないんだから。


 でも、周りから『お嬢様』と言うレッテルを張られると、なかなかそれを打破するのが難しい。なんとなくみんなから期待される役回りを演じてしまっていて、恋愛にも臆病になる。

 お嬢様と思われている人に、本当の自分をさらけ出したら、どんな目で見られるのかしら。呆れられて捨てられるに違いない……。


 そんなある日、職場の人からこう言われた。


「上杉さんって、吉〇屋に行ったことないでしょ。そんなイメージないよね」


 確かに、行ったこと無かった。

 別に避けていたと言うことでは無くて、単に外で食べるほど牛丼が好きだったわけでは無かっただけで、私自身は一人で喫茶店に入るのも、お蕎麦屋さんに入るのも、別に気にしないタイプである。

 でも、そんな風に言われて、改めて自分が人にどんな風に見られているのかを、ヒシヒシと感じた。


 なんとなく、悔しくなった。


 私だって、一人で吉〇家に入れるんだからね。


 だから今日の夕食は、ソロ吉〇家デビューをすることにした。


 店の雰囲気はシンプルで綺麗。コンビニに入るみたいに気軽に入れる。

 だから、お店の前で躊躇することなく、パッと入れた。


 夕食ピークより遅めに来たので、席が空いていた。


 良かった。待たずに直ぐ入れて。


「いらっしゃいませ」の声に押されて空いている席に付いて、直ぐに注文する。

 事前に調べておいたから「牛丼並盛一つ」って、直ぐに言えたわよ。


 注文を聞き終わった店員さん、きっと厨房の中を歩く歩数すら決まっているに違いないと思うほどスムーズに一回りして、アッと言う間に牛丼並盛を目の前に置いてくれた。

 その無駄のない動きに、しばし見とれてしまう。


 凄い! これが早さと安さの秘訣なのね!


 一人で納得してから、目の前の牛丼に目を移した。


 柔らかそうなお肉。沸き上がる湯気。

 甘しょっぱい良い香りが漂って来て、残業後の空腹のお腹の虫が騒ぎそうになった。


 いただきます!

  

 心の中でそう言ってから、一口。


 ご飯と牛肉を一緒に口の中に入れる。


 ハフハフ言いながら、噛み締めると、癖のない味に舌が喜ぶ。

 これなら、いくらでも食べれそう。

 思わずにっこりした。

 

 ゆっくりと味わって食べていたのだが、周りの人達はアッと言う間に食べ終わって店を去って行く。

 回転率を上げるのに協力しないといけないわと慌てて残りを掻っ込んだ。


「おいおい、そんなに慌てて食べなくても大丈夫だよ」


 そう言ってこちらをニマニマしながら見ている隣の客に、思わずムッとして睨み返した。

 

 失礼な人! 

 と思ってから、その顔に見覚えがあることに気づいた。


 あれ? 小学校の時、私の事おばさん呼ばわりしていたアイツだ!


「上杉だよな。久しぶり。こんなところで一人牛丼食っているなんて、なんか意外な再会だぞ」

「なんでこんなところにいるの?」

「いや、ここ俺の職場の近くだから、良く食べに来ているんだよ」


 折角お嬢様レッテルを張り替えたと思って、満足したところなのに、なんで昔を知る人に会ってしまうのかな。


 でも……


 アイツは私の事、おばさん呼ばわりして、お嬢様呼ばわりはしていなかったか。


 どちらにしてもムカつくけど。


 うっかりとアイツのテリトリーに入り込んでしまった失敗を後悔したが、時既に遅し。

 私はさっさと食べ終えると店を出ようとした。


 するととっくに食べ終わっていたらしいアイツも同時に店を出ようとする。

 自動では無かった店の扉をさっと開けて、執事のように支えてくれた。


 まあ、本物のお嬢様になったみたいで、悪い気はしないわね。


 私は思わずふふふっと笑った。


 それを見たアイツ、屈託の無い笑顔になって言った。


「残業後に一人で吉〇家で牛丼食っているところ見ると、今お前は彼氏いないな。俺にもチャンス到来ってことか」


 勝手に彼氏いないことにしないでよと思いつつ、正直者のサガで、顔に全部表れてしまう。彼氏いませんって……


 でも、それ以上に驚いたのは、オレニモチャンストウライ?

 それって、つまり告白?


 驚いたような顔になっている私に向かってアイツはまたニッコリした。


 今頃気づいたの?

 俺はガキの頃、お前の事が好きだったんだよ。

 こんな偶然の再会を夢見るくらいにね。


 彼の目が照れ臭そうにそう言っていた。


 お嬢様レッテルを張られる前の私。

 ガキの頃の私。

 一体どこに惚れられたのかは知らないけれど、まあ、あの頃を知っているアイツになら、胡坐かいて座る姿を見せても別にいいか。


 私の心も、なんだか軽くなって思わず笑顔になった。


「じゃあ、惚れさせてみなさいよ。武田俊介たけだしゅんすけ!」

「おう! 覚悟しとけよ」


 ☆


 紹子のソロ吉〇屋体験。

 思わぬ結果を生みだしました。

 これからの紹子と俊介のデュオは、どうなることか。

 それは皆様のご想像にお任せいたします。


 










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ソロ吉○家デビュー ☆涼月☆ @piyotama

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