第14話 馬車止めにて

 いつもの出仕貴族用の馬車止めに馬車を回し、先にエルネストが降り、乗車時と同じに手を差し出す。


「揃いの衣装で、対の人形みたいだね」


「フレック! 態々わざわざ迎えに?」


 エルネストの手を取って、ドレスの裾を抑えながら馬車から降りるシスティアーナに、フレックも手を差し出した。

 エルネストに体重を預けて、バランスを取りながらステップを降り、勢いを殺すようにフレックが軽く受け止めて支える形だ。


「まあね。出席者の中には、王城に慣れてない人も居るからね。ここで案内をしているんだ。一般用の停留所にはディオとトーマが立ってるよ」

「王家の薔薇を一輪飾ったリアナに、出迎えの挨拶させてるのがとても喜ばれてるの。まだ子供だから多少礼儀作法がキリッとしてなくても目こぼしをいただけるし、ちゃんと出来ているからみな感心して、微笑ましく見てくださってるわ」


 貴族用の停留所では、第二王女アルメルティアが、胸元に王家の白薔薇クイーン・ブランカを一輪差して、カーテシーで出迎えている。


「うふふ、驚いた? 計画では、近衛騎士に案内をさせるはずだったものね? 実は、最初からこうする予定だったのよ? 今回はシスもお客様だから、内緒にしてたの」

「驚いたわ。わたくしにまで秘密なんて、徹底してるわね」


 驚かされたと言っても悪い驚きではなく、システィアーナも微笑んで挨拶カーテシーを返す。


「シス(と付添人パートナーのエルネスト様)は、侯爵家だけれど王族枠で席を取っているから、庭園には中央正門アーチから入ってね」

「ええ。ありがとう。一般人よりも貴族のお客様が圧倒的に多いから、最後まで疲れが出ないように気をつけてね?」


 新たに貴族の馬車が停留所に入ってくるのを見て、邪魔にならないよう、庭園への渡り廊下に向かって進み出す。


「じゃ、フレック、メルティ。また後でね」


 人当たりのよいフレックの柔らかい微笑みと爛漫なメルティに見守られながら、建物内部に入っていく。

 侍女メリアと、護衛兼案内役の近衛騎士も、後ろを数歩下がってついて歩く。

 王城内では、従騎士スクワイアの職務に就いてない間は、エルネストも帯剣は出来ない。


「いつもの秘書官や従騎士スクワイアの姿を見慣れた女官達や令嬢達も、きっと皆さんエル従兄にいさまに見蕩れるわね」

「そうか? まあ、文官服や従騎士スクワイアの隊服姿と比べたら、印象は違うかな」

「もう。ミアが、わたくしが可愛いのに自覚がないと揶揄からかって仰るけれど、エル従兄にいさまだって、ご自身がいかに格好いいのか、こうして正装すれば貴公子然とした素敵な男性だという自覚がないのね」


 クスクス笑うシスティアーナを見下ろし、

(そう言って笑うけど、シスが見蕩れてくれないなら同じ事なのに)

不満は飲み込んで、結い上げた髪からわざと残したおくれ髪を手に取ってみた。


「そうか。少女らしいワンピースなのに大人っぽく見えるのは、この髪型のせいか」

「もう。すぐ、そうやって年下扱いするんだから。

ひとつしか違わないし、今年は17になるのよ? 本当なら婿を取って次期当主の準備に入ってるはずの、立派な大人なんですからね」


(くっ むくれるシスも可愛い⋯⋯!!)


 小さな幸せを噛み締めるエルネストだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る