第13話 園遊会へ
ハルヴァルヴィア侯爵当主ロイエルドは、薔薇の君と呼ばれた妻を伴って、
宰相として、園遊会では国王エスタヴィオと共に、臣下たる貴族達や功労者、有識者をもてなす側として出席するためである。
システィアーナも久し振りに、オルギュストの代理ではなく正式なパートナーとして、エルネストが迎えに来ている。
公爵家の重厚な、チェスナット・ブラックの艶のあるオーク材の馬車に乗るのも久し振りだ。
「エル
まだ侯爵邸内だからか、システィアーナは、薄紅の姫君と呼ばれる凛とした令嬢ではなく、
差し出した手に、絹の手袋に包まれた、自分のそれより遙かに小さく柔らかい手が重ねられる。
エルネストは、自然と、爽やかで柔らかい笑みを、本日のパートナーであるシスティアーナに向けた。
エルネストの手を借りてシスティアーナが馬車に乗り込む。
いつもなら、隣に侍女のメリアが、向かい側、進行方向とは逆向きの席にパートナーである男性が座るのだが、メリアは向かい側に座った。
システィアーナが、話し掛けたくてつい、乗り込んで来たエルネストの手を引いたので、自然、隣に座ってしまった。
「やってくれ」
御者に声をかけてから、隣に座ってしまった非礼に気づき、席を移動しようとしたが、それより早くシスティアーナが話し掛けてきた。
「エル
「え? 初めて?」
「ええ。迎えに来たオルギュスト様はいつも仏頂面で、挨拶も単語で返すだけか生返事。
着くまでの間、馬車の中でわたくしが一生懸命話し掛けても窓の外を見たままで、返事がない事も。
だんだん、一緒の馬車に要るのが苦痛になって来て、着いたら着いたで、入場したら後は知らん顔されるのだもの。楽しみだった事なんてなかったわ」
「それは⋯⋯ 確かに居たたまれないだろうね。今回、準備期間も今日も、楽しみにする事が出来たのならよかった」
エルネストが微笑みかけると、システィアーナは、エルネストの腿に置いた手に両手を重ねた。
「エル
「ああ、とても似合ってるよ。今日はいつもより綺麗だ」
「うふふ。さっき、迎えに来た最初にも聞いたわ」
「そうだったかな? 薄紅の髪とパパラチアサファイアの瞳が映えて、本当に綺麗だ」
「エル
「え、いや、本当に。今までは、義務で参加してたからか、どこか寂しげだしなんなら疲れても見えたり、少しも楽しくなさそうだったけど、今日は楽しみにしてたと言うだけあって、活き活きしてる。髪も肌も、艶がいい」
言って、ふと頰を包むように手を添え、親指で少し擦るように撫でる。
愛しげに見つめそうになってはっと手を離す。
「あ、その、ごめん」
「なあに? 何か謝るようなことあった?」
「⋯⋯う、いや、いい」
不思議そうに小首を傾げて身を寄せ訊ねる姿に、ドキッとしながらも落胆する。
(男として意識されてないんだな⋯⋯ 普通、家族や恋人でない男が素肌に触れたら不快だろうに。礼を欠いた行動をされたと気づきもしない。親戚のお兄さんの立ち位置は変わらずか)
侍女メリアがエルネストを見ていたが、すぐに視線を反らし伏せる。
行き届いた使用人は、何かを見ても感じても、顔に出さない。
どこか浮き足立ったエルネストの様子を感じていても、システィアーナの反応も、彼女の言葉に感情を振り回されたり、システィアーナを愛しいと思う感情を表に出しそうになったりするエルネストを見ても、そこにメリアの感情は見せない。
使用人としての心得のよくないものになれば「お嬢様、あの御仁はお嬢様に気があるんですよ、あれ」などと軽口をたたく事もある。
が、メリアは黙ってそこに居るだけだった。
(メリアが、俺のシスへの気持ちを、これまでの態度を見て気づいているだろうくらい表に出てしまっているのに、当のシスティアーナは気づいていないとか、どうすればいいんだ)
色々気づいているだろうに、何も言わず、表に出さないメリアに、エルネストは感謝しつつも情けない気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます