第10話 あれってデート?

「ねえ、さっき、アナは夢の中でデートもしたと言ってたけれど、現実でもデートしたの?」


 フレックがいなくなったので、システィアーナは気になった事を訊いてみることにした。


「ええ。幸いフレックは王太子殿下やミア、ディオ殿下ほどは目立たないからかしら、案外普通に街を歩けたわ」

「でも、護衛官とか連れてたら同じじゃないの?」


 王族に限らず、上位貴族や資産家の家族などは、私設の護衛官を連れて歩くことは少なくない。

 システィアーナが気にするほどは、珍しい状態でもなかった。


「少し離れてもらってたし、フレックもああ見えて、エルネストほどではないけれど剣の腕は立つのよ? 安心して、2人で歩けたわよ」

「並んで歩くの照れくさかったり恥ずかしかったりしないの?」

「あら、好きな人と手を繋いで歩くのよ? 嬉しいし楽しいに決まってるじゃない?」

「手を繋いで歩くの? 人前で?」

「腕を組んで歩くこともあるわよ。そうねぇ、肩が触れ合うほどの距離感がいいのよ」


 手を繋ぐ⋯⋯


 ふと、シーファークで突然ディオに手を握られ、引かれて歩いた事を思い出す。


「確かに、手を握って歩くのは、温かくて安心感はあるかも⋯⋯」

「あら、誰と?」


 アナがにやりと笑うより早く、一瞬、近くで茶を飲むディオの姿を目の端に捉え、アナに気づかれないよう慌てて目をそらす。が⋯⋯


「また、いつでもどうぞ。今度は城下町にする? 行きたいところがあれば、どこでも付き合うよ」


 濃い金髪とロイヤルブルーの瞳でクリスティーナ妃に似た綺麗な顔立ちを笑みに、茶器を持っていない手をひらひらと振りながら、ディオが愛想を振りまく。


「あら、ディオ殿下とデートしたの?」

「いいえ。ただあれは、町娘の格好をしての視察だったのだけど、いつの間にか名物の食べ歩きになってたような」


 確かに、最初は戸惑ったし動悸も速くなって困ったけれど、楽しかったし、全然嫌ではなかった。


「いいんじゃないかしら? ディオ殿下から見てシスは再従はとこ叔母おば? 一応親戚なんだしお互い決まった相手も居ないんだし、たまには仲良く遊びに出ても」


 そう。数ヶ月前に婚約破棄宣言を受け、正式に解消して独り身になったシスティアーナ。

 母親と諸国を回り、その経験を活かして国内でも他国の使者との交渉に駆り出されるディオ。

 どちらも、恋人も居なければ、婚約者を探す時間をとる事も出来ず、気を遣うような決まった相手は未だ居ないのだ。


「エルネストも、毎日フレックにひっついてないで、たまには休暇を取って、シスを遊びに連れて行ってあげてちょうだい? あなたなら護衛官も兼ねられるし、また従兄いとことして気心も知れてるでしょう?

 知っての通り、この子ったら、十歳とおになる前から公爵閣下について回ってたし、更にはミアの公務にも付き従うようになってしまって、年頃の令嬢らしい街遊びの一つも知らないのよ?」

「あ、アナ、いいのよ。エル従兄にいさまだって、フレックとのお仕事があるのに、無理は言えないわ。わたくしは、何も街で遊びたい訳じゃ⋯⋯」

「解ってるわよ。遊びに興味があるんじゃなくて、幼い頃から婚約者が決まっててしかも仲が良くなくて、侯爵を継ぐために勉強ばかりしてたから、好きって気持ちが解らないんでしょう?

 エルネストやディオ殿下とデートして、男性と二人きりで過ごす楽しさを知るのも、とっかかりとしては悪くないんじゃないかしら? 少なくとも信頼の出来る、立場を越えない分別もある相手でしょう?」


 アナの言うことは理にかなっているような、こちらの都合を押しつけただけのただの我が儘のような?


 システィアーナは居心地があまり良くなかったし、素直に頷けなかった。




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