第13話 廊下で

 新年の挨拶まわりという名目で、社交パーティーも他国からの使節団の訪問も増える中、祖父仕込みの語学力を買われ、システィアーナも忙しい日々を送っていた。


 人当たりの良さと親しみやすさから王家のスポークスマン的な存在でもあるフレックも共に行動することが多くなり、必然的に、外交官僚のカルルやフレックの私設秘書をしているエルネストとも顔を合わせる時間が増えた。


 先月までデュバルディオがクリスティーナ妃に伴って巡っていた国々からも、献上品と共に使節団が滞在していた。


 その内の二ヶ国はコンスタンティノーヴェルと同じ言葉を話す国だったが、北部の古語なまりや東の天空山脈を超えた先の国は言語も文字も違うし、南の星中海を超えた先の島国も言語体系は似ているものの単語は違うものが多い。

 一般的な文官や大臣達では、交渉する以前に言葉の壁があり、語学が堪能な王家やカルル、システィアーナがどこでも重宝された。



 異国との交易に関する資料を持って王宮の廊下を歩いていると、伯爵以下の文官達は会釈して一歩下がりシスティアーナを優先して通してくれる。

 さほど狭い訳でもないのに、むしろ数人が並んで歩いていてもすれ違えるほど広いのに、道を譲られる。


 王家の血をひき、語学力から外交にも、年齢に見合わない知識量から内政公務にも重用されるシスティアーナは、羨望と一部の悪意を集めていた。


 文官達はシスティアーナが通り過ぎると普通に歩き出すが、女官達は壁に沿って並び、通り過ぎるまでは黙って頭を下げ続けるが、通り過ぎた後ひそひそと何かを囁き合う。


 大抵はシスティアーナの背後に(王族と宰相) 気を遣って聴こえない程度のものだが、中には聞こえよがしに発言する者もいた。


「王太子殿下のファーストダンスとラストダンス両方を務めたなんて⋯⋯」

「独り占め⋯⋯」

「婚約者に袖にされ続けて枯れてたくせに」

「祖父が王弟殿下で元外務省最高幹部だったから、大きな顔が出来るのよ」

「父親が宰相を継いでからは⋯⋯」


 ある意味ただの事実であるし、ある意味曲解された悪意である。


 祖父が王弟なのも父親が宰相を継いだもの事実で、システィアーナにはどうしようもない事だ。

 システィアーナが偉そ張った訳でもないのに、周りが恭しく扱うのを止めることも出来ない。

 本人が偉い訳ではなくても父や祖父に地位があるので、粗末な扱いをして不敬を問われたり不興を買いたくない臣下の気持ちも理解できる。


 ダンスのパートナーを務めたのも、互いにそれ以上踊りたくなかったので二曲だけだったのも事実だが、独り占めしたかったのでも、自分からパートナーを望んだのでもない。


 元婚約者オルギュストないがしろにされ続け、 令嬢として潤った輝きを放てなかったのも事実だが、枯れた女扱いされるほど酷かっただろうか?


 こういう陰口を囁き合うのは、大抵が、行儀見習いと称して王宮に出仕し、形だけの女官や高位貴族の侍女をしている公爵家の姫君や侯爵令嬢など、実際には王宮にて嫁入り先を求めている令嬢達だ。



「システィアーナ嬢」


 アレクサンドルに、カルルにデュバルディオやエルネストに、たとえ職務上の要件であっても声をかけられるたびに廊下での囁きが増え、より大きくなっていくのだった。




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