第12話 祝宴の夜

 正に宴もたけなわ、ホールの参加者達も盛り上がってきたようで、花火も連続して打ち上がっていたのが少なく抑えられてくる。


 零時ちょうどに大量の花火を打ち上げるための前段階である。


 しばしの静けさの後、一気に花火が打ち上がり、ホールの方から人々の歓声が上がる。

 目の端に捉えてしまったフレック夫妻は、肩を抱きあい、口づけている。


 真っ赤になって視線をそらすが動悸は治まらない。


 花火で照らされて顔色はアレクサンドルやユーフェミアにバレていないだろうが、挙動不審さは気づかれているかもしれない。


 頰に温かい柔らかいものが触れたのに気づき顔を上げると、アレクサンドルが額や鼻先が触れそうなほど顔を寄せていた。


(ええー!?)


 驚いて身を引こうとしたら、反対側の頰にも温かく柔らかいものが触れて、ユーフェミアが抱きついてきた。


「新年おめでとう、シス。去年一年を共に過ごしてくれてありがとう。今年もよろしくお願いね」


 シャンパンで酔ったのか熱い身体のユーフェミアを抱き留めていると、ドレスに合わせて髪を纏め上げて出ている額にも、熱が移る。


「ふふふ、便乗。去年は色々あって、シスも大変だったろうけど、よく頑張ったね。今年もよろしく。お互いに伴侶を持つようになったら出来ない、今だけの、幼馴染みの再従はとこ叔母おばへの親愛の挨拶だよ」


 デュバルディオまで。


 決して花火に照らされただけではない赤味に頰を染め熱が昇って、喉を潤しただけのシャンパンで酔ったのかと思うほど熱かった。




 ホールに戻ってアレクサンドルのラストダンスを務めると、そのままエスコートされて会場を後にする。


 エスタヴィオと王妃達、フレック夫妻とデュバルディオとユーフェミアも下がる。

 大公はすでに王宮の奥に戻っていた。


 参加者は、希望者はこのままホールのある迎賓館の客室に泊まってもいいし、適当な時間まで宴を続けてもいい。

 こんなに自由度のある祝宴はシルヴェスターだけであるが、ここに出席する者は、礼儀と分をわきまえた、マナーを守り節度ある態度を崩さない著名人か高位貴族のみである。

 問題が起きた事は殆どなかった。


「本当は気が進まなかっただろうに、僕のパートナーを務めてもらってありがとう。疲れただろう? 今夜はもう、ユーフェミアのゲストルームに泊まっていくといい。侯爵の許しは得ているよ」


 気が進まなかったのはバレていたのか。顔色を無くすシスティアーナ。

 だが、続く、ユーフェミアの部屋に泊まって行けと言われたことで、明るく顔を上げる。


 新年を迎えて程なくホールに戻り、ラストダンスを踊ったら、言葉をかける暇もなく両親は帰宅していたのに、いつの間に許可を取ったのか。


「前もって予定していたのよ。慰霊祭で再確認を取ったけれど、叱られなかったわ」


 王女に、宴を共に過ごしたいから娘を借りて泊めると言われて、断る貴族はそうそういないだろう。まして、血族である。


「今夜は、眠くなるまで話しましょう?」


 年明けの宴の後、眠るまで一緒にお喋り。


 お友達の家にお泊りし、蜂蜜を垂らしたミルクとお喋りで眠くなるまでパジャマパーティー。

 子供の頃にはたまにやっていたことで、普通の女の子のようで嬉しくなり、少し心が浮き立つ。


 王女の私室のバスルームは広く、花の描かれたタイルもシャンデリアも綺麗でリラックス出来た。

 シルクの肌触りのよいベッドに入り、心地よい疲れに寝落ちするまで、ユーフェミアと喋り続けた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る