第11話 シャンパンと花火と

 花火の打ち上がる間隔が短くなって来ていよいよ年越しの瞬間を迎えるのだと、胸がどきどきして来た。


 システィアーナは、さほど酒に強くはないが、付き合い程度には嗜む方で、身体が成長期を過ぎるまでは控えていたが、緊張からつい、ロゼスパークリングワインを傾けた。


「カルルとは前から親しかったの?」

「え? いえ。先日体調を崩した日が初対面でしたわ」


 勿論、夜会や公務の合間に姿を見たことはある。が、親しくしていたのかと問われれば否だ。あの日、始めて言葉を交わしたのだから。


「そう」


 なぜそんなことを訊くのかわからず、ふとアレクサンドルと花火から目をそらすと、隣のテーブルではフレック夫妻が額を合わせて睦まじく話しているのが見える。

 新婚ゆえに、誰も口を挟んだり敢えて指摘したりはしない。


 自分も伴侶を得るとああなるのだろうか。

 アナは幸せそうだ。

 自分とユーフェミアが縁でフレックの目に留まり、交際を始めたふたり。

 想い合っていて、羨ましいと思う反面、自分にはあのように自然に甘えるなど出来そうにないと思った。


 額をくっつけるだけでなく、鼻先まで摺り合わせるように近い。

 見てはいけないと思うのに、なぜか目が離せない。


 ──あんな風に睦まじく過ごせる相手に出会いたかった。


 なぜか、過去形で思うシスティアーナ。

 条件のよい婿がねはすでに相手が決まっている事が多く、急に探さねばならない事に気が重くて、意欲が出ない。


 ──いつか父が決めるのを待って、黙ってお受けしようかしら


「ふふ。シスってば、そんなに見ちゃダメよ」

 ユーフェミアに頰を押さえられ向き直させられる。


「な、なんだか、目を離すタイミングを失ってしまって⋯⋯」

「シスは、お馬鹿さんに失望して諦めてしまったけれど、それって人一倍、結婚や恋愛に夢を持っていたからよね?」

「うん、確かに。『ティア、王子様と踊りたい!』だからね」

「も、もうその話は⋯⋯!!」


 アレクサンドルの袖を摑んで引いて、止めるように願うシスティアーナ。


「なぁに、それ、シスの話?」

「そう、可愛いだろう?」


「僕も覚えてるよ。確か、ファヴィアンはのっぽで合わない、フレック兄さんとユーヴェはつまらなくて、僕やエルネストは子供過ぎる、んだっけ?」

「そう。ディオも覚えていたかい」


「私はその話は知らないわ」

「ミアはまだ五歳だったしね」


「エルネストが可哀想だったなぁ。まだ五歳の女の子に7つの男の子が子供すぎと言われて、しかも、本物の王子様にはどうやってもなれないからね」


「あれは失言だったと今では思ってますわ」

「可愛いじゃないの。真面目で面白くないとか子供に子供と言われた方は可哀想だけど、そのくらいの女の子ってそんなものでしょう?」

「おかげで僕はダンスの腕が上がったよ。本物のヽヽヽ王子ヽヽなんだから、せめて同い年のエルネストには負けないぞって頑張ったからね」


「エルネストだって、ティアのパートナーになるために頑張ったからうまくなっただろう?

 ああ、ユーヴェやエルネスト達が特訓してたのをバラした事は、内緒にしててくれると助かるよ」


 ウインクして、シャンパンを傾けるアレクサンドルは、悪びれずに花火の方を向いた。




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