第10話 柊の花
「今夜は、
他の男性とのダンスに気が乗らないシスティアーナにそう言って、アレクサンドルはダンスホールのテラスへ誘った。
ちょっとしたサンルームのような広いテラスには、テーブルが三つ用意されていた。
両端に、フレック夫妻とユーフェミアをエスコートするデュバルディオが座っている。
「シス。そろそろ花火が始まる頃よ。座って」
アルメルティア以下の未成年王子王女達は、晩餐会と、祝宴の開始時の王家の紹介とエスタヴィオの祝辞の後、自室に戻り、寝室の窓から花火を見ながら眠る事になるのでこの場にはいない。リーナと同じだ。
通常の社交パーティーならダンスをしながら情報交換などをするべきだが、このシルヴェスターは、一年を振り返り静かに新年を迎える祝いの席なので、ある程度は無礼講な上、自由にくつろいでいい。
さすがに王家主催の王宮での祝宴に、人に酔った、貧血を起こした怪我をした、などのまともな理由なく控え室にこもる者はいないが。
「シスは、他の侯爵令嬢とお喋りしなくていいの?」
子供の頃はともかく、マナーレッスンや勉強だけでなく公務にも同席するようになってからは、同年代の令嬢達と話す機会は、お茶会や夜会くらいになっているのだ。
システィアーナの交友関係を心配したのだろう、アナファリテ王子妃は気遣わしげな表情を見せた。
「ええ。今夜は、もう⋯⋯ 今フロアに出たら、ダンスをたくさん踊らなくてはならなくなりそうですし、シルヴェスターですもの、身内だけで年越しの瞬間を迎えるのもいいでしょう?」
「おや、これは、タイミングの悪い時に来てしまったようですね」
声のする方を見ると、フロアからテラスへ出る扉のカーテンから、エメルディア妃と弟のカルルデュワが顔を出したところだった。
「年明け前に、挨拶をしておきたかったのですが。確かに、身内だけで静かにと言われれば、私は退散するしかなさそうです」
頭を下げ、ユーフェミアに向き直る。
「私の贈り物を昼間の慰霊祭に、姉弟でつけていただきありがとうございました。とてもよくお似合いでしたよ」
「慰霊祭は毎年、白い花と衣装を用いる習わしですから、水晶の飾りと冬の花の意匠は合っていたので。姉妹で揃えられたのもよかったですわ」
カルルの贈った水晶の耳飾りとタイピンは、それぞれに合わせてデザインは多少変えているものの、柊の花や葉は冬の代表的な意匠である。
三姉妹とトーマの胸元を飾った柊の飾りは上品ながら美しく、とてもよく似合っていた。
一応、アレクサンドルやフレック夫妻にも届けられたが、利用されなかった。
「それでは、よいお年をお迎えください」
唐突に現れたにも拘わらず、あっさりと立ち去るカルル。
場違いだと思ったのか立場に不利を感じたのか、無理には押さないところも、外交で成功する秘訣でもあるのだろう。
「柊と言えば、魔除けの
アレクサンドルの言葉は、誰に向けられたものでもなく、花火の打ち上がる発砲音にかき消された。
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