第4話 日本の追憶 とある家族の過酷な旅



 少年はガタガタと揺れる山道を車で走っている。


「昔は大変だったらしいんだよ〜この辺は山賊とかいたんだって。でも沢山人がいるって良いよね〜」


「バブ!」


「君にはまだ難しいか笑、いやぁ運転する身としては話相手がいるって良いなぁ〜」


「あーう?」

 とりあえず2人分の食料を手に入れないといけない。


_______________



「もうすぐだ、もうすぐ着くからな……」


「……疲れたよ。お父さん」

 

 車はボンネットの上まで積めるだけの荷物が積まれている。父母と娘の3人の家族はもう何十日も『脱出港』がある九州を目指して、日本列島を横断する旅を続けている。旅は他の家族の車と車列を組んで行われる。夜は車を四方に囲む様に止めて、その中心に家族毎にテントを張って寝る。起きたらまた移動を始める。あまりに過酷な旅だ。

 

 少子化により広い国土に広がる道路網インフラの維持は破綻、高速道路の多くも整備が間に合っていない。もう人がいないのだ。人口の激減に際して日本人は自らの祖国の国土が余りに広い事に苦しんだ。

 

 父親は1日8時間は劣悪な路面で運転を続けて疲れきっている、しかしハンドルを握るその手を緩める事はない。後部座席で荷物と一緒に座る娘は、ぐったりと窓に寄りかかって弱々しくしか言葉を発しない。

 助手席に座る母親の手には脱出民証明書と移民先で必要となる書類あと印鑑を纏めたファイルが強く握られていた。3人の首にはそれぞれ強化プラスチックのケースに入った身分証明書がかかっている。


「もうすぐだ、もうすぐ脱出港のはずだ、ごめんな、ごめんよ」


「それさっきも言ってたよ……お父さんありがとう」

 

 空には武装した警察の無人ヘリが飛んでいた。あの一機だけでどれほどの範囲を守るのだろう。目に見えないだけで多くの人達が、目的地を目指してここを通ってるはずだ。あまりに心許ない。しかし警察だってもう十分な力がない。


 『エクソダス計画』社会の維持ができなくなった日本列島から国民全員を脱出させる史上最大の海上輸送計画。積載量に特化した専用の輸送船を建造、量産。エクソダス計画の為の港が日本列島の端っこに建設された。『脱出港』極限まで自動化合理化が進んだエクソダスの為の港、一家が目指す目的地だ。現在の日本人総人口は1060万人、あの一家と同じ様に多くの人が脱出港を目指した。


 一家の車はガタガタと揺れながら山道を進んでいく。移動は割り振られた班で車列を組んでするはず、しかし一家は最後尾で他の家族の車とはぐれてしまった。


「大丈夫なの?前の車見えなくなったよ」


「大丈夫だ、常時、低軌道衛星が最新のナビゲートをしてくれる。道は正しい」


 不安に駆られながらも車を進めていく。前方の木の影に一瞬影が見えた。わら

わらと黒い影が蠢いてる。


「まさかっ!『反対者』たちか!」


 気づいた時には遅かった。車は急ブレーキを踏んで止まる。積んである荷物が飛んで『ボコンっ』って音もした。


「2人とも伏せて、反対者達だ。武器を持っている」


 車の前に粗末な工具で武装した男達が七人現れた。首には身分証明書のケースはかかってない。一家の車は取り囲こまれた。

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