第25話 人族の実戦
敵の強さを把握しやすいように、ランク分けをエクレアさんに依頼。
ランクは強い順に、S、A~Dに分類してもらった。
ゴブリンとミノタウロスは最低ランクのD。
ハイオーガはランクBだという。
マジっすか!?
あの強さで、ランクBなんて!!
今日から人族の戦士を出撃せさて、実戦経験を積ませることにした。
昨日はハイオーガに苦戦したので、あまり戦いがハードになる前に、人族の戦士に慣れさせたい。
エルフに引き連れられて、人族が全員リビングにやってきた。
初陣で心配なのか、戦士の家族が付き添っている。
ブラウニーは、入ってくるなり僕に詰め寄り、
「お前、毎朝ロゼットに起こさせているんだってな。ロゼットは暇じゃないんだ。自分で起きろよ!」
そっか。
タルトが忙しくて手が回らない分、彼女の仕事量が増えたんだ。
ロゼットから、時々ブラウニーが手伝いに来ているとは、聞いていたけど。
「やめて、ブラウニー。私が勝手にやってることだし、少しも負担じゃないから」
僕とブラウニーの間に割って入るロゼット。
「それに最近は一緒にいられる時間があまりないから、モアイさんの寝顔を見ていられるのが嬉しいの」
両頬に手を当て、幸せそうに顔をほころばせるロゼット。
それを見たブラウニーは、目を剥いて僕を睨みつけた。
ロゼット、頼むからこれ以上、ブラウニーを刺激しないでくれ。
「ブラウニー、こっちに来てくれ。説明をするから」
ルドベキアさんが手招きして、彼を呼んだ。
人族の戦士は魔法陣の近くに集まっている。
ブラウニーは、「はい」と返事すると、ロゼットの手を握り締め、
「ロゼットはオレが守る。だからオレの活躍を見ていてくれ」
「うん。ありがとう。絶対に無事で戻ってきてね」
ブラウニーはロゼットをぎゅっと抱きしめてから、仲間のところへ向かった。
何だろう。
この気持ちは?
ロゼットはココアの姉だから大切な存在だけど、それ以上の感情はなかったはず。
それなのに、ブラウニーがロゼットを抱きしめるのを見て、僕は内心穏やかでなかった。
「ロ、ロゼット。今日はタルトの手伝いしなくていいの?」
「うん。ブラウニーが出撃するって聞いたので、見送りさせて欲しいってタルトさんにお願いしたの。そうしたら今日は戦いが終わるまで、手伝わなくていいって言ってくれたのよ。本当にタルトさんていい人ね」
「そうだね……。ブラウニーのことが心配?」
「ええ。もちろんよ。だってブラウニーは、私たち姉妹の面倒見てくれた、兄のような存在だもの。大丈夫よね。みんな無事に戻ってこられるわよね」
兄のような存在と聞いて、僕はどこかほっとした。
もしかして彼に嫉妬している?
「うん。僕にとっても
今回は大丈夫でも、ウェーブが来れば無事ではすまないだろう。
気休めに過ぎないが、僕は作り笑顔でロゼットを安心させた。
「敵の侵入を確認」
キャンディが告げると、そのエリアが映し出され、人族の間に緊張が走った。
今日も朝一からハイオーガ(ランクB)がお出ましである。
だけどもう同じ過ちは、繰り返さない。
先手必勝とばかりに、次々と戦士を出撃させた。
ハイオーガの火球はフラムが受け止め、ムースさんのアンチヒールと、エクレアさん、ビスコッティの遠距離攻撃でダメージを与える。
それが功を奏して、ハイオーガが動き出す前に、仕留めることができた。
それ以外の敵は、まず人族が弓矢で攻撃して、討ち漏らしはエルフと盾役のドワーフが、とどめを刺した。
見事な連携で、人族がほぼ無傷で済んだのは、エルフの優れた指導の賜物である。
昨日と同じような敵の侵攻だったのもあり、攻略は完璧だった。
ほっと胸をなでおろし、みんなを撤退させようとした時、再び緊張が走った。
3体のハイオーガが現れたのである。
火球の集中砲火を浴びて、
いくら彼女が火属性とはいえ、このままでは持たない。
でもムースさんをヒールに切り替えれば、倒す前に敵が動き出すだろう。
「どうやら妾の出番のようじゃの」
ニヤリと満を持して席を立った姫様は、ウォームアップしてアピールしてきた。
やる気満々のところ悪いけど、彼女に頼る前に試したいことがある。
左側のハイオーガ近くに、ゴーレムを配置してみた。
すると思惑通り、そのハイオーガの攻撃対象が、フラムからゴーレムに移ったのだ。
右側のハイオーガ近くにも、ゴーレムを配置して、火球を分散させた。
ザコはドワーフに任せて、エルフと人族にもハイオーガの討伐に参加させる。
それでもハイオーガは動き出してしまったが、こちらは大した被害もなく、3体とも仕留めることができた。
「なんじゃ。妾がおれば、もっと楽に勝てたのに」
活躍を見せられず不満げに呟く姫様。
敵の侵攻が収まると、回復のため全員を一時撤退させた。
帰還した人族の男たちは、愛する妻子と抱擁して、無事を喜んだ。
その光景を微笑ましく眺めていた僕は、ロゼットがブラウニーに抱きついて喜ぶ姿から、思わず目を逸らした。
やはり嫉妬しているのだろうか?
魔人、エルフ、ドワーフに続いて、人族の戦士もムースさんの治癒を受けた。
彼女は種族を問わず、分け隔てなく愛情をもって接する。
絶世の美女に抱き締められた人族の男たちは、一瞬でムースさんの虜になってしまったようだ。
その気持ち、充分に解るよ。
解るけどね。
ついさっき家族と感動の抱擁をしたばかりなのに、節操なさすぎだろ。
ブラウニーまで、目がハート型になっているし。
っていうか、羨ましすぎるんですけど!
人族の男で抱擁されていないの、僕だけなんですけど!
それなりに僕だって頑張っているんですけど!
彼らが治癒を受ける姿を、指をくわえて見ながら、僕は心で叫んだ。
その後、ランクB以上の強敵は現れず、殆どがゴブリン(ランクD)で、他にミノタウロス(ランクD)やオーク(ランクC)、サイクロプス(ランクC)が、ちらほらとやって来る程度。
人族に場数を踏ませるのには丁度いいくらいで、誰一人痛手を負うこともなく、その日の戦いを終えることが出来た。
帰還してきた人族の男どもは、ツバをつけておけば治る程度のかすり傷で済んだにもかかわらず、我先にとムースさんの治癒に並んだ。
やれやれとため息をつきながらも、僕はちゃっかり列に紛れ込む。
だけど目ざとく姫様に見つかってしまい、
「何故
「えっと……行列があると、つい並んでしまう日本人の性?」
「訳わからんことぬかして誤魔化すでない。お主には関係ないじゃろ」
「はい。すみません」
僕の目論見はあっけなく潰えた。
どう考えても理不尽ではないか。
僕だけご褒美をもらえないなんて、不公平すぎる。
グレるぞ!
かなり戦力はアップしたはずだけど、2万の敵を迎え撃つには、まだまだである。
──ウェーブの到達まで、残り4日。
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